頼清徳総統の演説に反発し中国がまたもや軍事演習「連合利剣-2024B」で威圧

10月14日の早朝5時、中国人民解放軍は「連合利剣−2024B」と名付ける軍事演習を実施した。

演習には空母「遼寧」や海警局も参加したという。

軍事演習は同日午後6時に終了した。

中国側によれば、演習を実施した理由は台湾の頼清徳総統が10月10日の双十国慶節演説で「国家の主権を堅持し、侵略と併呑を許さない」と述べたことへの対抗措置だという。

朝日新聞は「台湾を取り囲むような演習区域を公表して行う大規模な演習は、2022年8月に米国のペロシ下院議長が訪台した直後と、今年5月の頼氏の就任演説直後に続いて3回目」と報じていたが、これは誤報だ。

2023年4月の「連合利剣」と称した演習をカウントしておらず、今回で4回目となる。

周知のように、人民解放軍が台湾を取り囲むように初めて軍事演習を行ったのは、米国のナンシー・ペロシ下院議長(当時)の訪台直後のことで、2022年8月4日から10日までの7日間で、弾道ミサイルが日本の排他的経済水域(EEZ)内に着弾したことを昨日のことのように思い出させる。

2回目は、2023年4月8日から10日までの3日間、蔡英文総統が米国訪問の折にマッカーシー下院議長と会談したことへの対抗措置として実施した。

空母「山東」が演習に参加していたが、弾道ミサイルの発射はなく、前年8月の演習よりもかなり抑制された内容だった。

このとき初めて「連合利剣」という演習名を公表した。

3回目は、頼清徳・新政権の発足直後の5月23日と24日の2日間で、にも人民解放軍は台湾をほぼ取り囲むように「連合利剣-2024A」と称する軍事演習を行い、「『台湾独立』の分裂勢力が独立を企てる行為に対する強力な戒めだ」としていた。

そして、4回目が今回の10月14日の「連合利剣-2024B」だ。

中国は早朝5時に台湾本島の周囲6カ所や離島の近くで演習を始めたと発表し、5時から始め夕方6時に終了した。

これまでで一番短かった。

今回の特徴は、台湾の交通部が発表したように「中国は関連する飛行通告や打電を行ったと発表しておらず、明確な射撃や演習範囲も示されていない」ことだった。

つまり、台湾の専門家が指摘するように「無予告の演習は、演習エリアを図で示しただけであり、商船や民用機には回避するすべがないとし、台湾周辺で実弾射撃は行われず、海空の交通を直接的に妨げることはない」という結果に終わった。

台湾を取り囲むような軍事演習の規模はだんだん小さくなっており、期間も短くなっている。

それにしても、今回の演習は双十国慶節の頼清徳総統の演説への対抗措置だとしているが、どうにも腑に落ちない。

それなら、今年の6月16日、高雄市にある陸軍士官学校の「黄埔軍官学校」創立100年の記念式典で頼清徳総統の訓示に対し、中国はなぜ軍事演習「連合利剣」をやらなかったのだろうか。

頼総統は訓示において、中国の呼称を「対岸」や「北京当局」などではなく「中国」「中華人民共和国」と表現しつつ「最大の挑戦は、中国が台湾海峡の現状を破壊し、台湾を併合し、中華民国(台湾)の消滅を民族の偉大な復興と見なすことだ」と述べた。

さらには、総統就任式で言及した「中華民国と中華人民共和国は互いに隷属しない」(堅持中華民國和中華人民共和國互不隷属)という表現を使い「中華民国台湾の将来は2,300万の人民によって決定される。

国家主権を守り、国家の尊厳を維持し、この国に栄光と繁栄をもたらすために力を合わせていこう」と訴えていた。

下記に、そのときの演説全文と、双十国慶節演説の全文をご紹介する。

読み比べていただきたい。

・總統主持「黄埔建校一百週年校慶活動」 【総統府「総統府新聞」:2024年6月16日】 https://www.president.gov.tw/NEWS/28507

・團結台灣 共圓夢想 總統發表國慶演説 【総統府「総統府新聞」:2024年10月10日】 https://www.president.gov.tw/NEWS/28775

中国は奸計に長けた国だと言われる。

中国の兵法には「指桑罵槐」(しそうばかい)という計略があるという。

「桑を指して槐(えんじゅ)を罵(ののし)る」、つまり、本当に罵っているのは桑にもかかわらず、槐を罵るように別の相手を批判することで、間接的に人の心をコントロールしようという計略だという。

中国は、今回の演習の目的は頼演説への対抗措置として「『台湾独立』分離行動を断固として打ち破る」ことだとしている。

もちろん、それはあるだろうが、先に触れたように黄埔軍官学校創立100年の訓示が引っかかる。

とすれば、今回の狙いは中国の台湾侵攻への抑止をはかっている米国や日本などの国々にあったのではないか。

台湾は桑で、日米などが槐だったのではないだろうか。

演習にはいろいろな目的があるだろうが、表向きは頼演説への対抗措置、その裏では中国抑止をはかる国へのメッセージを発することだったと言えるのではないか。

日本は9月25日、海上自衛隊護衛艦をオーストラリアやニュージーランドの海軍艦艇と共に台湾海峡を通過させた。

台湾の中華民国と断交して以来、初のことだった。

9月30日には、米国のバイデン大統領が議会の承認なしに素早く兵器などを提供できる「緊急時大統領在庫引き出し権限」を行使し、台湾に5億6700万ドル(日本円で約817億円)の軍事支援を行うと発表した。

昨年7月29日以来、2度目の「緊急時大統領在庫引き出し権限」行使で、いずれも支援内容は明らかにしていない。

このようなこととともに、「今回は空母『遼寧』も台湾東部の西太平洋に進出させて米国など外部の台湾支援を遮断する訓練も共に行ったと推定されている」という報道や、演習後に中国外務省の報道官が「台湾は中国の一部だ。

台湾問題は中国の内政であり、いかなる外からの干渉も許さない」と述べたという報道もあることから、中国抑止を図っている西側諸国、特に日米を牽制するために実施された可能性は残るようだ。


中国軍事演習/中国軍、軍事演習を当日発表 緊張の急激な高まりを避ける狙いか=専門家【中央通信社:2024年10月14日】https://japan.focustaiwan.tw/cross-strait/202410140010

(台北中央社)中国人民解放軍は14日、「連合利剣2024B」と名付けた軍事演習を台湾周辺で実施した。

専門家は中国が実施を事前に通知せずに当日発表したことについて、心理的な影響力を強化し、何かあれば即座に台湾周辺で任務を実施する能力が中国の海・空戦力にはあるということを外部に知らしめると同時に、正式な大規模演習によって緊張を一気に高めることを避ける狙いもあると分析した。

中国軍が「連合利剣」と題した軍事演習を実施するのは3度目。

昨年4月、蔡英文(さいえいぶん)総統(当時)が「民主主義パートナー共栄の旅」と銘打った中米歴訪から帰国した翌日の同8日から10日までの3日間にわたって「連合利剣」を行った他、頼清徳(らいせいとく)総統就任直後の今年5月23、24日には「連合利剣2024A」を展開した。

両岸(台湾と中国)関係などを研究する非営利団体、中華戦略前瞻協会の掲仲研究員兼秘書長は中央社の取材に対し、現在のところ、「連合利剣」に共通している特徴は実施当日に発表されることだと分析。

2022年8月、米国のペロシ下院議長(当時)の訪台後に実施された大規模軍事演習では事前に演習エリアの経度と緯度が公表されていたことに触れ、今回の演習には当時ほどの緊張感はないとした。

また、「連合利剣」のような無予告の演習は、演習エリアを図で示しただけであり、商船や民用機には回避するすべがないとし、台湾周辺で実弾射撃は行われず、海空の交通を直接的に妨げることはないと説明した。

一方、今回の演習は5月の「2024A」とは明らかに異なる点があると指摘し、空母「遼寧艦」の参加などを挙げた。

国防部(国防省)は13日、「遼寧」が同日、台湾とフィリピンの間のバシー海峡付近の海域に入ったとし、西太平洋で活動を行う可能性があるとの見方を示していた。

人民解放軍の研究を専門とする淡江大学国際関係・戦略研究所の林穎佑助理教授(助教)は23年の「連合利剣」演習では空母「山東」が西太平洋で訓練を行っていたと指摘。

「2024A」には空母は参加しなかったことから、今回は23年の演習の比較対象になるとし、今回の演習の重点は大規模改修を経た遼寧の作戦能力を検証することにあると推測されると述べた。

また、朝鮮半島情勢の緊張の高まりを背景に、米軍に朝鮮半島と台湾海峡の二つの危機に同時に対処する能力があるのかを試す狙いもあると推測できると語った。

人民解放軍で台湾方面などを管轄する東部戦区は14日午後6時、軍事演習の終了を発表した。

(張淑伶、游凱翔/編集:名切千絵)


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