台湾で5月20日に催された頼清徳総統の就任式典には、日本からは31人の国会議員や安倍晋三夫人の安倍昭恵さんや日本台湾交流協会の谷崎泰明理事長、日本財団の笹川陽平会長、ノンフィクション作家の門田隆将氏、国家基本問題研究所の一員として島田洋一・福井大学名誉教授なども参加した。
米国からはポンペオ元国務長官やアーミテージ元国務副長官など長官・次官経験者からなる代表団が派遣され、51の国や地域の代表団500人以上が駆けつけた。
日本からの国会議員31人は過去最高で、古屋圭司・衆議院議員が会長をつとめる超党派の「日華議員懇談会」のメンバー。
中国は就任式翌日の5月21日、在日本中国大使館が断固として抗議すると表明していたが、駐大阪総領事も5月24日付で「『台湾独立』分裂勢力の肩を持ち、極めて誤った政治的シグナルを発するもの」などと抗議する書簡を送っていたことが発覚した。
これは、今朝の産経新聞が1面で報じ、書簡を受け取った和田有一朗・衆議院議員(日本維新の会)の「極めて威圧的な脅迫まがいの内容で、台湾住民の意思を無視した考え方だ」というコメントを添えて報じた。
産経新聞が別途、ネットで紹介した書簡全文には「頼清徳氏は、極めて頑固な『台湾独立』を掲げる頑迷分子」「一つの中国原則は国際関係の基本的な準則と国際社会のコンセンサス」などとも書かれていたという。
しかし、抗議文書を送るのはまだしも、「一つの中国原則は国際関係の基本的な準則と国際社会のコンセンサス」という主張はいかがなものか。
この主張を声明やコミュニケで承認していない日本や米国には当てはまらない。
1972年9月の日本と中華人民共和国の国交正常化に当たって調印した「日中共同声明」でも「日本は中華人民共和国政府は、台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であることを重ねて表明する。
日本国政府は、この中華人民共和国政府の立場を十分理解し、尊重し、ポツダム宣言第八項に基づく立場を堅持する」(第三項)と謳っているように、日本は中国の主張を「十分理解し、尊重」しただけで、承認するとか同意するとは一切言っていない。
確かに「日本国政府は、中華人民共和国政府が中国の唯一の合法政府であることを承認する」(第二項)と謳っている。
しかし、中国の唯一の合法政府が中華人民共和国であることと、台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であると主張することは別の内容なので、第三項に「十分理解し、尊重」すると明記したのだ。
和田有一朗議員は、所属する外務委員会で「日本は中国の主張する『一つの中国』を承認したのか」と何度も繰り返して質問している。
2022年(令和4年)3月にも質問し、当時の林芳正・外務大臣の答弁は以下のとおりだった。
速記録からの全文を紹介したい。
<台湾に関する我が国政府の立場でございますが、今委員からお話があった1972年の日中共同声明第3項にありますように、台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であるとの中華人民共和国政府の立場を十分理解し、尊重するものでありまして、こうした我が国の立場は変わっていないわけでございます。
そして、この1972年の声明にあるとおり、さらに、「尊重し、ポツダム宣言第八項に基づく立場を堅持する。
」と規定をしておるわけでございます。
我が国は、日本国との平和条約第2条に従って、台湾に対する全ての権利、権原及び請求権を放棄しており、台湾の領土的な位置づけに関しての独自の認定を行う立場にはないというのが立場でございます。
> これが外務大臣の「承認したか否か」という二者択一の質問に対する答弁だ。
上川陽子大臣になっても同じ答弁だった。
これまでの政府見解である「台湾の領土的な位置づけに関しての独自の認定を行う立場にはない」から一歩も抜け出ない答弁で、これでは中国から見透かされることは目に見えている。
せめて安倍晋三総理が出した政府答弁書(2016年5月20日)のように「重要なパートナーである台湾との間においてこのような実務関係が着実に発展していくことを期待している」という言葉くらいは添えてもらいたいものだ。
これも政府見解なのだから。
その点でも、和田議員の「われわれ国会議員が、もっとしっかり台湾と協力していかなければならない」という決意表明とも受け取られる言葉は、安倍総理の答弁書にも通底し、いっそう力強く感じたのは編集子だけではあるまい。
「台湾と接触・往来するな」総統就任式 出席議員に抗議 中国の大阪総領事 書簡【産経新聞:2024年5月31日】https://www.sankei.com/article/20240530-KLJCZVG5WVMOXOSTN23OB5ZIB4/
台湾の台北市で5月20日に開かれた頼清徳総統の就任式への出席を巡り、中国の薛剣駐大阪総領事が与野党の国会議員に「『台湾独立』分裂勢力の肩を持ち、極めて誤った政治的シグナルを発するもの」などと抗議する書簡を送っていたことが30日、分かった。
書簡は24日付で、総統就任式に出席した超党派「日華議員懇談会」(日華懇)の複数の与野党議員の選挙区事務所に郵便で届いた。
駐大阪総領事館の管轄区域の議員が送付対象とみられる。
書簡は、頼氏を「極めて頑固な『台湾独立』を掲げる頑迷分子」だと表現し、「台湾問題は中国の核心的利益の核心であり、越えてはならないレッドラインであり、中日関係の政治的基礎と両国間の基本的信義にかかわっています」と強調した。
その上で「台湾といかなる接触と往来もせず、中国人民の『台湾独立』に反対し、国家統一に努める正義の事業を理解・支持し、実際の行動を以て中日関係の大局を守っていただくよう強く希望しております」と求めた。
産経新聞は書簡を巡る取材のため、駐大阪総領事館政治処などに電話したが応対はなく、都内の在日中国大使館からも、依頼した30日夕までに返答はなかった。
書簡を受け取った和田有一朗衆院議員(日本維新の会、比例近畿)は「極めて威圧的な脅迫まがいの内容で、台湾住民の意思を無視した考え方だ」と指摘。
「中国の主張からすると、台湾海峡の緊張はより高まるだろう。
われわれ国会議員が、もっとしっかり台湾と協力していかなければならない」と日台関係強化の必要性を強調した。
中国の薛剣駐大阪総領事が台湾総統就任式に出席した国会議員に抗議 書簡の全文 【産経新聞:2024年5月30日】https://www.sankei.com/article/20240530-KLJCZVG5WVMOXOSTN23OB5ZIB4/
台湾の頼清徳総統の就任式に出席した与野党の国会議員に対し、中国の薛剣(せつけん)駐大阪総領事が送った抗議の書簡の全文は次の通り。
◇ ◇ ◇
報道によりますと、先生は国会議員として、台湾地区で新たに当選した指導者の所謂「就任式」に出席したとのことです。
公職者である先生の台湾訪問は、中日の四つの政治文書の原則と精神及び台湾問題における日本側の厳粛な約束に著しく反するもので、「台湾独立」分裂勢力の肩を持ち、極めて誤った政治的シグナルを発するものです。
中国側はこれに対し、断固として反対し、強く抗議します。
台湾地区の民進党は発足初日から、根っからの「台湾独立」を企む分裂組織であります。
民進党は政権担当期間中、「台湾独立」という分裂の立場を頑なに固執し、「92共通認識<コンセンサス>」を歪曲・否定し、島内で「脱中国化」を推し進め、「漸進的台湾独立」を行い、両岸の交流・協力を破壊し、外部勢力と結託して「独立」を図り、挑発を企ててきました。
特に「実務的な台湾独立工作者」と自称する頼清徳氏は、極めて頑固な「台湾独立」を掲げる頑迷分子です。
頼氏がリードする民進党当局が島内で引き続き政権を担当することは、平和統一の未来を破壊し、平和統一の空間を圧迫するだけで、両岸関係の情勢はより複雑で厳しくなります。
一つの中国原則は国際関係の基本的な準則と国際社会のコンセンサスであります。
中日国交回復にあたって、日本側は一つの中国の原則について中国側に厳粛な約束をし、台湾とは「非公式な実務関係」のみを維持することを表明しました。
日本側は今まで、両国間の重要な場で「台湾独立」を支持しないと繰り返して明確に表明してきました。
日本側が「台湾独立」勢力とのいかなる公的な付き合いや交流は約束違反であり、「台湾独立」分裂勢力の肩を持ち、中国統一の大義を妨害する行為になります。
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