石破首相と野田代表の訪台 浅野 和生(平成国際大学副学長)

【世界日報「View point」:2024年11月7日】
https://vpoint.jp/politics/231079.html

一変したリーダーへの条件 日本と台湾は対等な関係に

台湾では、総統選挙の前に立候補予定者がアメリカと日本を訪れる。

台湾にとって、アメリカはもちろん、日本との関係が重要だが、日本政府は、中国に対する忖度(そんたく)から、台湾の総統、行政院長の訪日を認めない。

それゆえ、台湾の政治家は、総統に就任する前に来日して、日本の政界指導者と会談しておく必要がある。

◆総統選前に候補者訪日

2008年総統選挙に際して、台北市長であった馬英九氏は、尖閣諸島問題や歴史問題で強硬発言を繰り返しており、「反日」のうわさがあった。

馬英九氏は、こうした声を払拭(ふっしょく)するため06年7月10日に来日した。

すると自民党の武部勤幹事長、公明党の浜四津敏子代表代行、森喜朗前首相、日華議員懇談会の平沼赳夫会長らと会見し、テレビの取材を受け、「知日派になる努力」姿勢をアピールした。

しかし、予定半ばで台風が台湾に接近したため、市長の職務のために予定を短縮して13日に帰台した。

すると、未完の日程を消化しようと、翌07年11月21日に再来日し、同志社大学で講演するなど、3日間の行程を完了した。

「反日」の疑念が晴れたかどうかは疑問だが、日本と台湾向けにアピールしたことは間違いない。

他方、民進党の公認候補となった謝長廷氏は、若き日に京都大学に留学して修士号を取り、博士課程にも在籍した経歴を持つ。

それで07年12月に来日すると、京都大学で日本語の講演をするなど、各所で参会者の熱い支持を集めた。

16年総統選挙に際して、民進党の蔡英文氏は、15年10月6日から10日に訪日し、日華懇の議員や民主党の枝野幸男幹事長と交流したほか、安倍晋三首相の実弟の岸信夫衆院議員に伴われて安倍・岸家の故郷山口県を訪ねた。

異例の旅程で、日本との交流を深めた。

他方、朱立倫氏は、15年の国民党が7月に洪秀柱氏を公認してから後で取り消し、朱立倫氏を公認候補にしたのが10月下旬で、総統選挙投票までに訪日の時間がなかった。

ただ12年3月、新北市長として投資説明会のために東京を訪れたことはある。

さて、24年総統選挙である。

民進党候補の頼清徳氏は、16年熊本大地震の後、台南市長として被災地を訪れ、災害復興を支援した。

また、暗殺された安倍元首相の弔問のため、現職副総統のまま私人の資格で22年7月11日に来日して安倍氏の自宅を訪れ、12日の葬儀にも参列した。

頼清徳氏は親日で知られているので、選挙直前の訪日はしなかった。

他方、国民党の侯友宜氏は、23年7月31日から8月2日にかけて訪日し、自民党の萩生田光一政調会長、日華懇の古屋圭司会長、麻生太郎副総裁などと会見した。

民衆党の柯文哲氏も、6月4日に来日して、自民党の麻生副総裁、立憲民主党の野田佳彦元首相、日本維新の会の馬場伸幸代表と会見し、早稲田大学で講演を行った。

さて日本の政治家は、「親台派」のレッテルを貼られると、「日中友好」の親中派財界人に嫌われるので、かつては台湾訪問に慎重であった。

しかし今年8月10日、石破茂元防衛相は、中谷元、前原誠司、長島昭久衆院議員らと台湾を訪問した。

頼清徳総統、蕭美琴副総統、林佳龍外交部長、朱立倫国民党主席らと次々に会見を重ねた石破氏は、8月14日に岸田首相が自民党総裁選不出馬を表明すると、台湾にいながら総裁選出馬、首相就任への意欲を表明した。

石破氏と踵(きびす)を接するように訪台を果たしたのが立憲民主党最高顧問の野田佳彦氏だった。

野田氏は8月21日に台北で、「第8回凱達格蘭論壇(フォーラム):2024インド太平洋安全討議」に参加して登壇し、台湾と日本は基本的価値観を共有する重要なパートナーであると述べ、台湾の環太平洋連携協定(TPP)加盟申請を歓迎した。

◆政界のパイプ確保必須

次の特別国会冒頭の首相指名選挙では、石破氏対野田氏の決選投票になる。

今では、台湾は日本の安全保障、経済的繁栄、東アジア外交の上で重要なパートナーであると衆目が一致している。

それゆえ日本をリードする政治家は、与野党を問わず台湾を訪問し、政界のパイプを確保しなければならない時代になった。

日台関係は、その意味で対等になったのだろう。

(あさの・かずお)。

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