安保上の情報共有が急務
非公式でも防衛当局の交流を
平成国際大学副学長 浅野 和生
日台間に「まさかの時の友は真の友」といえる信頼関係ができている、とは台湾日本関係協会の代表、つまり台湾と国交があればその大使に相当する謝長廷氏の言葉である。習近平指導下の中国による一方的な現状変更への圧力について「台湾の有事は日本の有事」と安倍晋三元首相が指摘した緊迫状態に直面している今、価値観と歴史を共有する隣国との良好な関係は心強い。
<<米台でも共同作戦困難>>
ところで、2017年から19年まで台湾の参謀総長を務めた李喜明氏は、台湾を取り巻く情勢についてきわめて厳しい認識を明らかにした。25年とも27年とも言われる中国による対台湾軍事力発動に際して、米台間には「共通の指揮・通信体制も作戦計画もない」ため、台湾有事で「米国と台湾が共同作戦を行うことは難しい」と明言した(産経新聞1月8日朝刊。以下、同記事による)。
さらに、日本は台湾有事に際して「枢要な役割」を担うが、「台湾を助けてくれるとは思わない」と述べた。それにしても、台湾有事に介入した米軍に対して日本が支援するためには、日本が事前に台湾の防衛戦略を知って準備することが「日本の国益になる」から、非公式でも防衛当局間の接触を進めるべきだと提言した。
実は李喜明氏が参謀総長に在任中の19年2月28日、産経新聞の単独インタビューに応じた蔡英文総統が「東アジアに位置する台湾と日本は同じ脅威に直面している」として「安全保障協力の対話のレベルを上げることが非常に重要だ」と日台の当局対話を呼びかけたことがある(産経新聞19年3月2日朝刊)。より具体的には、台湾や沖縄の周辺を通過して西太平洋に進出する中国の海空軍の動向に関する即時の情報共有が非常に重要であり、その実現のために「日本側には法律上の障害を克服して欲しい」と踏み込んだ。
あれから4年が経《た》とうとしているが、日台間の安全保障対話は進んでいない。日本の台湾における窓口機関、日本台湾交流協会台北事務所に防衛省の現職公務員を出向の形で送る話も、一向に実現していない。こうした日本の現状を見て李喜明氏は、「台湾を助けてくれるとは思わない」と言い、さらに「日本は台湾との接触を恐れている」と対中配慮ばかりが目立つ日本の姿勢に不満を露わにした。
ところで日台間と異なり米台間にはいくつかの安全保障対話のチャンネルがある。例えば1997年からモントレー対話(Monterey
Talks)という、米側の国防次官補、台湾側の国家安全会議副秘書長をトップとする安全保障に関する実務級最高会談があり、毎年継続して実施され、2015年以後には米国防総省でも開催された。このほかに米台国防再検討対話、米台安全保障協力対話、将官級ステアリンググループなどが行われてきた。それでも「米国と台湾が共同作戦を行うことは難しい」のである。
日本と台湾との間では、日本側の日本台湾交流協会と、台湾側の台湾日本関係協会という双方窓口機関の間に密接な協議があり、今までに投資協定や所得税の二重課税防止、マネーロンダリング防止、出入国管理、広域災害の対策などについて協力や情報共有など、数々の「取り決め」が作成されている。それらは、日台双方の政府、関係機関によって誠実に執行されている。しかし、安全保障上の即時の情報共有を可能にする枠組みはない。今、それこそが必要なのだが、その実現については李喜明氏でなくとも悲観的にならざるを得ない。
<<日本そのものが標的に>>
昨年11月に亡くなった評論家の加瀬英明氏が、その11月に出版した『日本と台湾』(祥伝社黄金文庫)に、中国の人民解放軍の軍歌の一節が紹介されている。「遮天鉄鳥撲東京富士山頭揚漢旗!」、意訳すれば「中国の軍機が空を覆い、東京を爆撃して、富士山頂に五星紅旗を立てよ!」である。ここでは「台湾有事は日本の有事」どころか、日本そのものがターゲットである。
さて、台湾は日本の対応を待っている。待ちくたびれている。台湾のためだけではなく日本の、日本人の安全のために、日台の安全保障対話のチャンネルを開くことは「焦眉の急」である。
<<(あさの・かずお)>>
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