6月10日未明に起こった尖閣諸島付近の日本領海で台湾の遊漁船が海上保安庁の巡視
船と接触し沈没した事故で、馬英九総統は政権発足後初の国家安全会議を6月16日夜に
開き、今回の衝突事故について「平和的解決」と「日本との漁業権交渉再開」に全力を
挙げるよう指示し、事態が収束へ向かったことはすでに本誌でも報じた通りだが、昨20
日、第11管区海上保安本部の那須秀雄本部長名で遊漁船の何鴻義船長に詫状を届け、こ
れを受けて台湾総統府が「事件は平和的に発展した」とする声明を発表し、この一件は
落着した。
このような落着のさせ方について、日本領である尖閣諸島の領海を侵したのは台湾の
遊漁船なのだから、領土主権について触れないのはおかしい、弱腰だという批判的な見
方もあるかもしれない。
だが、日本の対台湾窓口・交流協会台北事務所の池田維代表と会談した欧鴻錬外交部
長も「事件は一段落した」と表明し、許世楷代表の身を挺した諫言もあり、すでに16日
夜の段階で日台双方は「関係をこれ以上悪化させない」との認識で一致したのだ。
その背景として、この件で中国政府が介入してくる前に事態を収束させたいという台
湾政府の姿勢を日本側も理解していたというから、早々の幕引きのためにこのような形
での落着をお互いに了承したのだろう。
俗な言い方だが、雨降って地固まる──今後は日本と台湾がこれまで築いてきた親和
力を背景に、中国に左右されることなく、台湾側と正面から話し合える場をいかに設定
できるかが日本の課題として浮上してきた。
台湾が求めている漁業協議を再開し、その場を通じて粘り強く主権問題を説くことも
一法だろうし、事実、領海侵犯してきた漁船などはすべて海保が駆逐し、台湾には尖閣
諸島が日本領という認識を持つ有力者も少なくない。ましてや日米安保条約を馬英九総
統も容認しているのだから、尖閣諸島が日本領だという現実は揺るごうはずもない。
(メルマガ「日台共栄」編集長 柚原正敬)
船長に「心からおわび」台湾遊漁船沈没 海保本部長が書簡
【6月21日 西日本新聞】
【台北20日小山田昌生】尖閣諸島(中国名・釣魚島)近海で台湾の遊漁船が日本の巡
視船と衝突後、沈没した事故で、日本の対台湾窓口機関、交流協会台北事務所は20日、
遊漁船の何鴻義船長に「心からおわびする」とした第十一管区海上保安本部(那覇)の
那須秀雄本部長名の書簡を届けた。
同事務所の舟町仁志副代表が台北県内の何船長宅を訪れ、那須本部長の書簡を読み上
げると、何船長は「早く元の生活に戻りたい」と言葉少なに答えた。書簡は、賠償問題
についても「法令に基づき誠実に対応していく」としている。
これを受け、台湾総統府は「事件は平和的に発展した」とする声明を発表。「日本側
の善意を感じた」と評価する一方、今後、台湾の関係機関に日本側との漁業交渉を始め
るよう求める考えを示した。
台湾側は、那須本部長が15日の記者会見で「遺憾」と述べたことについて、「きちん
とわびていない」(馬英九総統)と受け止め、より明確な謝罪を求めていた。
台湾 海保が遊漁船船長に謝罪の手紙 尖閣事故「落着」か
【6月21日 毎日新聞】
【台北・庄司哲也】沖縄県石垣市の尖閣諸島・魚釣島(台湾名・釣魚台)付近の日本
領海で、台湾遊漁船が日本の巡視船と接触し沈没した事故で20日、日本側が遊漁船の何
鴻義船長へ謝罪の手紙を手渡した。これに対し、台湾外交部(外務省)の欧鴻錬部長
(外相)は「日本側の善意を歓迎、肯定する」とし、今回の問題は落着したとの見方を
示した。
手紙は、巡視船を指揮していた第11管区海上保安本部の那須秀雄本部長から船長にあ
てられ、「船を沈没、負傷させてしまいあなたに対して心からおわびする」という文面
となっている。
今回の事故で台湾側は謝罪を要求し、日本側は那須本部長から船長個人への「おわび」
という形で決着を図った模様だ。また、事故調査の過程で巡視船に過失が認められたこ
とから、この過失責任の範囲内で賠償にも応じる。
台湾外交部も発表した声明の中で「日本政府」という言葉は使わず、「本部長が心か
らのおわびを表した」との表現で日本側の対応に呼応。尖閣諸島の主権問題には触れず、
議論が平行線をたどっている漁業交渉の再開を求めている。
日本側はすでに15日に「遺憾の意」を表したが、対日批判が過熱していた台湾では遺
憾に謝罪の意味が含まれるかどうかが問題となっていた。「謝罪の意味を含んでいる」
と発言した対日交流窓口機関の台北駐日経済文化代表処の許世楷代表が批判され、辞任
表明する事態となっていた。