馬英九総統が動いて事態は収束へ−忘れまじ許世楷代表の捨て身の一石

6月10日、尖閣諸島付近の日本領海で台湾の遊漁船が海上保安庁の巡視船と接触し沈
没した事故で、ようやく馬英九総統が発言し、事態は収束へ向かった。

 報道によれば、馬総統は16日夜に馬政権発足後初の国家安全会議を開き、今回の衝突
事故について「平和的解決」と「日本との漁業権交渉再開」に全力を挙げるよう指示し
たという。

 これによって、一部立法委員(国会議員に相当)が18日に予定していた巡視船による
同諸島視察も中止され、やはり同日に予定されていた台湾海軍によるミサイルフリゲー
ト艦の派遣も中止された。

 事故以来、馬英九総統がいつ、どのようなタイミングで、どのようなことを発言する
かに注目していた。これによって今後の対日関係が大きく左右されるからだ。

 事故から一週間目にしてようやく馬英九総統が動いた。その場が立法院や総統府では
なく、李登輝元総統が設置した国家安全会議を招集して行われたことにまず安堵した。
その指示も「平和的解決」と「日本との漁業権交渉再開」だったというから、日本とし
てはそれまでの台湾側の対応の拙さに不快感は残るものの、振り上げた拳の落としどこ
ろとしては、これでよかったのではないだろうか。

 もちろん、馬英九総統を動かした要因の一つは、アメリカの動きである。まず15日に
スティーブン・ヤング駐台大使が日台へ平和的解決を呼び掛け、翌16日には国務省のガ
レゴス副報道官が「事態の進展を見守っている」と憂慮を示し、「いかなる摩擦も関係
当事者により平和的に解決されるべきだ」として、対話による事態の沈静化を日台双方
に促した。

 しかし、現在の台湾においてもっともよく日本をよく知る台湾駐日代表処の許世楷代
表が16日、その身を挺して台湾政府に冷静な対応を求め、辞表表明という捨て身で投じ
た一石の大きさを看過するわけにはいかない。

 許代表は台湾の対日関係の責任者である。その責をまっとうできない批判を甘んじて
受ける覚悟で、辞表を懐に日本との対話による解決を迫ったのだ。辞表表明で一番悔し
い思いをしたのは、その責任感の強さで日台関係を最良といわれるほどにリードしてき
た許代表であることに思いを馳せたい。一身を賭した諫言が台湾を動かしたのである。

 残念ながら、台湾側に冷静な対応を求めた福田康夫首相の16日の発言は、馬英九総統
から「声明は理性的であり、冷静だ」と切り返される始末で、実際はアメリカ同様の効
果をもたらしているのだろうが、馬英九政権にとっては許世楷代表による諫言がよく効
いたようだ。

 これで事態は収束に向かうだろう。今回、台湾側が中国の日台離間策に乗らなかった
ことで、日台関係が外交交渉で解決できる目処が立ったことは見過ごすべきではない。

 そこで、以前にも書いた政策提案を再度掲載して参考に供したい。

 日本は台湾との関係を「非政府間の実務関係」としているが、訪台できる国家公務員
は課長までと自らを規制しているのが実態だ。台湾と外交交渉をするのに、決断できな
い課長が行っても問題の解決には至らない。局長や次官が訪台してこそ解決に至る。外
務省の内規を改正するだけでよいのだから、政府が胆を決めればよいことなのだ。

 日本の国益のためにも、台湾の国益のためにも、その最善の策が国家公務員の台湾渡
航制限解除であることは他言を要しない、喫緊に解決すべき問題だ。それが今回の衝突
事件で改めて日本に突きつけられた課題だ。

                   (メルマガ「日台共栄」編集長 柚原 正敬)


尖閣問題 収束の動き 馬政権「日本の善意」評価
【6月19日 産経新聞】

 【台北=長谷川周人】尖閣諸島(中国語名・釣魚島)沖で日本の巡視船と台湾の遊漁
船が接触した事故をきっかけとし、日本への強硬姿勢を貫いてきた台湾の馬英九政権が、
一転して事態収束に動き出したもようだ。外交部(外務省)は台湾船の尖閣接近を控え
るよう呼びかけるなど、これ以上の問題拡大は避け、険悪化した日台関係の修復を目指
す狙いとみられる。

 馬英九総統は17日、日本領海に侵入した台湾の巡視船と抗議船の行動を「自国領土に
行くのは自然なことだ」と支持。日本に対する正式謝罪や遊漁船の賠償要求に加え、尖
閣への領有権を改めて主張する一方、平和的な問題解決を図る必要性を指摘していた。

 これを受けて外交部は会見終了後の当日夜、謝罪と賠償を求める立場は不変としなが
らも、「日本側はすでに善意を示した」として対日交渉に前向きな姿勢を示す報道資料
を発表。18日に計画された海軍艦船の尖閣派遣を見送った立法委員(国会議員)に謝意
を示し、台湾の船舶は当面、尖閣の12カイリ海域での活動を行わないよう通知した。

 抗議船で尖閣を目指したメンバーを「抗日英雄」とたたえ、過熱報道を繰り返してき
た一部台湾メディアも、18日付の紙面では1面から尖閣に絡む記事が消えてトーンダウ
ン。中国領有権を主張する香港民間団体「保釣(釣魚島防衛)行動委員会」は、尖閣上
陸を目指して台湾との共闘を図ろうとしたが、台湾側から協力を得られず、台北で立ち
往生を強いられている。

 尖閣問題で態度を軟化させる馬英九政権が、何らかの圧力をかけているとの見方も当
地ではあるが、政権は今後の対日交渉では問題を漁船の賠償問題などに絞り、政治色を
薄めて事態の打開を図る思惑があるとみられている。



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