「台湾海峡両岸」問題の平和的解決とは  浅野 和生(平成国際大学教授)

【世界日報「View point」:2021年6月7日】

 去る4月16日、ワシントンでの日米首脳会談で菅首相とバイデン大統領は「新たな時代における日米グローバル・パートナーシップ」と題する共同声明を発表した。そこには「台湾海峡の平和と安定の重要性を強調し、両岸問題の平和的解決を促す」と明記された。

 さらに5月5日にロンドンで開かれた先進7カ国(G7)外相会議、27日にテレビ会議方式で行われた、菅首相と欧州連合(EU)のミシェル大統領およびフォンデアライエン欧州委員長の日・EU首脳会議でも、全く同一の文言を含む共同声明が発出された。

◆統合望まぬ台湾の人々

 ところで、台湾を併呑(へいどん)しようとする中国の意図は、習近平政権によってたびたび示されてきた。しかし、台湾国民の大多数は、中国との統合を望まず、自由で民主的な台湾が、中国と別の国として存続することを心から願っている。一方、中国は台湾併合達成のために武力行使を放棄しないと明言している。現状は、3月23日の米国上院公聴会でジョン・アキリーノ太平洋艦隊司令官(当時。現インド太平洋軍司令官)が、中国による台湾侵攻が「大多数の人たちが考えるよりも非常に間近に迫っている」と警告した通りである。その時期は6年以内ともいわれている。

 あるいは中国の武力行使がないまま、台湾の現状維持がまだしばらく続くかもしれないが、それは「問題の平和的解決」とは言えない。結局、前述の共同声明発出の意図は、台湾統一のために中国が武力を発動することに我々は反対する、という中国に対する一致した意思表示にあるのだろう。

 しかし、共同声明は「台湾海峡問題の平和的解決を促す」といっているので、その意味について具体的に検討してみよう。想定される「平和的解決」シナリオは三つである。

 第一に、「習近平の中国」が方針を変えて、台湾の併呑を取りやめ、自由で民主的な「台湾」の国家としての存在を公認する場合である。しかし、習近平政権、あるいはその後継の中国共産党政権にとって、台湾の併合は、1842年に南京条約で香港を手放して以来の、中国屈辱の200年史に終止符を打つことであり、1949年の中華人民共和国成立から100年かけた革命と建国の完成を意味する。それだけに、「習近平の中国」が自主的に方針を変える可能性はゼロである。日米豪印やG7各国からの圧力によって達成期日を先延ばしすることはあっても、中国が台湾統合を諦める可能性は限りなくゼロに近い。

 第二は、中国からの政治的、軍事的、経済的圧力に耐えかねて、台湾の国民が自立の希望を失い、台湾アイデンティティーを喪失して、台湾が「習近平の中国」に統合されることである。しかし、現在の「台湾」が消滅し、2300万人が独裁国家の爪牙(そうが)にかけられる悲劇を、各国は「平和的解決」として容認するわけにいかないだろう。

 残る第三のシナリオは、1989年から91年に展開された東欧の民主化とソ連の解体が、中国版として再現されることである。その場合、台湾や香港が、北京政権の軛(くびき)から逃れられるだろうし、中国が解体する過程で、新疆ウイグル自治区やチベットに新たな政権が生まれるチャンスもあるかもしれない。そういえばトランプ政権のポンペオ国務長官は、昨年7月23日の対中政策演説で「中国の変化を誘発する」ことに触れていた。

 さすがにバイデン政権その他のG7各国がこの期待感を明言することはない。しかし、台湾人の悲劇にならない「台湾海峡両岸問題の平和的解決」とは、中国共産党支配の終焉(しゅうえん)か中国の解体ではないか。

◆予想外だったソ連解体

 無論、今日の中国は30年前のソ連ではなく、中国共産党はロシア共産党ではない。しかし、1989年6月4日の天安門事件の時、11月のベルリンの壁の崩壊は予想されなかったし、壁の崩壊の時には、その後にソ連の解体が続くと予想した人はほとんどいなかった。だが2年後にはそうなった。ただし、ソ連邦の解体が、旧ソ連全土の自由化、民主化の達成を意味しなかったことは現状の通りである。これが世界史の現実である。

 いずれにしても、6月の英国コーンウォールG7首脳会議は、「台湾海峡の平和と安定の重要性を強調し、両岸問題の平和的解決を促す」と決議することになるだろう。(あさの・かずお)

※この記事はメルマガ「日台共栄」のバックナンバーです。


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