【世界日報「View point」:2021年7月8日】
5月上旬まで、国内の新型コロナウイルス感染拡大を完全に抑えこんでいた台湾で、その後、感染が急拡大し死者が増加する事態となった。すると中国は、中国製ワクチンの台湾への供与を申し出たが、台湾人の多くはその使用を望まない。中国の台湾併呑に向けた政治的思惑は明らかだし、そもそも中国製ワクチンは信用できないからである。だから台湾政府は中国製ワクチンを拒否した。
台湾政府は、国産ワクチンの開発を進める一方、欧米からのワクチン入手を急いだが、中国の妨害で思うに任せない事態に陥った。
◆菅政権が速やかな対応
こうして5月24日に新型コロナウイルス対策ワクチンをめぐる台湾の窮状が伝わると、日本は6月4日に、124万回分のワクチンを台湾に無償供与した。菅政権としては迅速な対応であり、時宜と国益にかなった対応であった。これに対して台湾から日本に数多くの感謝のメッセージが寄せられたことは周知のとおりである。6月25日、日本政府は100万回分のワクチンの台湾への追加供与を発表した。
これに対して中国は、「中国への内政干渉に断固反対する」とし、「新型コロナ対策を政治的なショーに利用」するものだと日本を非難した。自らの行動原理を他に当てはめて攻撃する、中国らしいやり方である。
さて、英国コーンウォールでの先進7カ国(G7)首脳会議が始まった6月11日、参議院本会議は、世界保健機関(WHO)総会への台湾のオブザーバー参加を認めるよう関係各国に呼び掛ける決議を、全会一致で採択した。
この決議は、台湾が新型コロナウイルスの発生直後から先駆的な取り組みを実践してきたにもかかわらず、昨年と今年のWHO年次総会への参加が中国の反対で認められなかったことを指摘している。その上で「台湾が参加できないことは国際防疫上、世界的な損失だ」と強調した。
これを受けて茂木敏充外相は同本会議で、WHOは「地理的空白を生じさせるべきではない」として、WHO総会への台湾の参加について日本政府は関係各国への働き掛けを続けると表明した。
茂木発言は、現在WHOに中国が加盟しているにもかかわらず、台湾の参加が認められないと「地理的空白」が生まれると言っているわけである。つまり、台湾は中国に含まれていないとの日本政府の認識を示したものだ。同決議も同じ認識だ。
日中共同声明(1972年9月)で日本は、中国が台湾を「中国の不可分の一部」だと主張したのに対して、中国の主張を承認せず、「十分理解し、尊重」するにとどめた。したがって、日本政府は「中華人民共和国政府が中国の唯一の合法政府であることを承認」したが、台湾が中華人民共和国に包摂されるとは認めていない。そこから、台湾が参加しないとWHOに「地理的空白」が生まれる道理となる。したがって参議院の、WHO年次総会に台湾のオブザーバー参加が認められるべきだという決議を、日本政府は受け入れられるのである。
これに対して在日中国大使館は、「中国内政への公然たる干渉だ」とし、「強烈な不満と断固とした反対を表明する」との報道官談話を発表した。さらに「台湾問題は中国の内政で、いかなる外部の干渉も許さない」と主張し、台湾問題で「中日関係をさらに損なわないように促す」と述べた。しかし日本は、台湾問題を中華人民共和国の内政問題とは認めていないのであるし、いくら中国が非難したところで、茂木外相の中台関係認識の方が正しい。
◆G7各国と共に行動を
さて、菅首相が初めて参加したG7首脳会議は6月13日に終了した。その共同声明は「台湾海峡の平和と安定の重要性を強調し、両岸問題の平和的解決を促す」と明記したが、これは6月7日に筆者が本欄に記した通りの結果である。これに対して在英中国大使館は、「中国の内政に干渉すべきではない。中国の評判を傷つけてはならない。中国の国益を侵害してはならない」と最大限の表現で非難した。
いくら中国が非難しようと、日本としては価値観を同じくするG7各国と共に行動すべきである。菅首相が、この共同声明に躊躇なく加わったことを慶びたい。
(あさの・かずお)
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