継承される「インド太平洋」構想  浅野 和生(平成国際大学教授)

【世界日報「View point」:2021年2月9日】

 バイデン米大統領は、1月28日の菅首相との初の電話会談で、「自由で開かれたインド太平洋」構想の維持を表明した。昨年11月にバイデン氏は「安全で繁栄したインド太平洋」と述べていたのを改めた形である。「安全で繁栄した」地域は、独裁国家を含めることができるが、「自由で開かれた」地域はそうではない。好ましい変化である。

 バイデン政権としては、トランプ政権の概念をそのまま継承することを忌避したかったのだろうが、「自由で開かれたインド太平洋」の概念がトランプ政権ではなく、日本発であるという日本の説明を受け入れたのだという。

◆関係各国が認識を共有

 ところで、政権交代を前にトランプ大統領のオブライエン国家安全保障担当補佐官が、元来2042年まで機密指定だった「米国の自由で開かれたインド太平洋戦略枠組み(US Strategic Framework for the Indo-Pacific)」の機密指定を1月5日に解除した。一部に黒塗りがあるものの大部分が12日に公開された。

 公開に当たってオブライエン補佐官はまず、アメリカは建国以来、インド太平洋の国家であると宣言した。そのうえで、「自由で開かれたインド太平洋」の構想が、07年にインドで安倍首相が語った「拡大アジア」の構想に始まるものだとし、次いで安倍首相が16年のアフリカ開発会議(TICAD)で「世界に安定、繁栄を与えるのは、自由で開かれた二つの大洋(太平洋とインド洋)」であると演説したことを土台として、トランプ大統領が17年のベトナム訪問の際に「自由で開かれたインド太平洋」構想を打ち立てたと説明した。

 第1期政権の07年8月22日、安倍首相がインド国会で「太平洋とインド洋は、今や自由の海、繁栄の海として、一つのダイナミックな結合をもたらしています。従来の地理的境界を突き破る『拡大アジア』が、明瞭な形を現しつつあります。これを広々と開き、どこまでも透明な海として豊かに育てていく力と、そして責任が、私たち両国にはあるのです」と語ったことを想起させたオブライエン補佐官の説明は行き届いている。

 さて、同構想が日本発であることは誇るべきことだが、日米豪印4カ国を含む関係各国の間で、「インド太平洋」認識が共有されるようになったのは、トランプ政権の努力に負うところが大きい。

 オブライエン補佐官によれば、17年「国家安全保障戦略」に基づく18年2月の上記「戦略枠組み」を大統領が承認すると、同年4月と10月に、大統領府の国家安全保障担当官、国務省および国防省のスタッフが、関係各国代表をホノルルに集めて、概念共通化のための会合をもったという。

 また、19年6月1に国防省が「インド太平洋戦略報告」を、同年11月4には国務省が「自由で開かれたインド太平洋─共有されたビジョンの前進─」を発表して、アメリカ政府の意図を国内外に示した。

 そしてアメリカは、中国が豊かになれば自由と民主を認めるようになるという幻想を捨て、豊かになり科学技術が発達した中国が、中国式社会主義の自由・民主主義に対する優位を確信して、世界の覇権を掌握しようとしている現実を率直に認めた。これを二大政党の共通認識にしたのは、トランプ政権の大きな功績である。アメリカン・ドリームに「中国の夢」が取って代わろうとしていることに気付いたのである。

◆中国の影響力拡大阻止

 「戦略枠組み」でアメリカは、「インド太平洋地域でアメリカの優位を維持し、中国の非自由主義的な影響力拡大を阻止し平和と繁栄を促進すること」を第一の目的として、そのために日本、韓国、オーストラリアの意志と能力を高めさせるとし、インド、日本、オーストラリア、アメリカの四辺形を基礎として、日米豪3カ国の協力強化を図ることとした。さらに日本を地域統合および技術的に発達した、インド太平洋の安全保障構築の柱たらしめると明示した。

 したがって、菅首相とバイデン大統領が、「自由で開かれたインド太平洋」構想の継承で一致したのであれば、日本は、この地域の安全保障の柱にならなければならないのである。菅内閣に、その覚悟が求められている。

(あさの・かずお)

──────────────────────────────────────※この記事はメルマガ「日台共栄」のバックナンバーです。


投稿日

カテゴリー:

投稿者: