一歩前進した日台関係 与党間「2+2」開催  浅野 和生(平成国際大学教授)

【世界日報「View point」:2021年9月6日】

 台湾の蔡英文総統は2019年2月28日の産経新聞インタビューで、台湾側としては、日本側と安全保障の情報データを共有することについて開放的な態度を保っているので「日本側が法律上の障害を克服し、われわれと相互協力や、有効な情報交換の機会を持つことができるのを期待している」と述べた(産経3月2日付)。

 しかし当時、安倍政権の菅義偉官房長官は、3月8日の記者会見で「1972年の日中共同声明にある通り、日本と台湾との間では、非政府間の実務関係を維持していくのが日本政府の立場」であるとし、政府としては「今申し上げた立場に基づいて適切に対応していきたい」と述べるにとどめた。

◆台湾併呑公言する習氏

 日台間では、日本台湾交流協会と台湾日本関係協会が「非政府間の実務関係」を担っており、多くの協定を締結してきた。その中には「出入国管理分野における情報の交換と協力」や「所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止」の取り決めなど、国家以外には対処できない問題についての「民間協定」も含まれる。しかし、安全保障の実務対話や情報交換を「非政府間の実務関係」で対処することは困難である。

 中国による自由・民主・人権の抑圧と覇権的行動拡大の中で、今年3月16日、現政権となって初の日米外務・防衛担当閣僚協議(2プラス2)では、4閣僚が台湾海峡の平和と安定の重要性を強調した。また4月16日の菅首相、バイデン大統領による日米首脳会談の共同声明は「台湾海峡の平和と安定の重要性を強調し、両岸問題の平和的解決を促す」と明言した。6月12日の先進7カ国(G7)首脳会議共同声明はこれと同じ文言を用いるなど、今やこれが自由・民主主義主要国共有の立場となっている。

 一方、中国の習近平共産党総書記は7月1日、「中国共産党結党100年式典」において、一党独裁の継続と台湾併呑《へいどん》への野心を改めて公言した。

 すると7月29日、超党派の国会議員による日華議員懇談会(古屋圭司会長・自民党)が3カ国議員による「日米台戦略対話」のウェブ会議を開催した。そこで安倍前首相は、新疆ウイグル自治区や香港での中国による人権侵害に懸念を示し、「香港で起こったことが台湾で起こってはならない」と中国を牽制《けんせい》した。

 さらに8月27日、今度は、「日台与党間外務・防衛2プラス2」会合がオンライン形式で開催された。日本側は自民党政調会・外交部会長の佐藤正久参院議員と国防部会長の大塚拓衆院議員、台湾側は民進党党団書記長・国際事務部主任の羅致政立法委員(国会議員)と元陸軍砲兵大尉、外交および国防委員会招集委員の蔡適應立法委員が参加した。

 中国からの圧力が高まり、台湾海峡の安全、ひいては日本の安全への懸念が増す中、日台政府間交流に制限があるため、与党議員間の交流を強化すべきだとする自民党側の提案で実現したものだ。佐藤外交部会長が、これを契機に今後も持続的に交流を進めたいと呼び掛けると、羅致政立法委員は、自民党と民進党は政府与党として安全、環境保全、海洋、経済などの課題について共同で行動する必要があると応じた。

 すると早速、中国外務省の趙立堅副報道官が、「台湾は中国の領土の不可分の一部」であり日本は「内政干渉」をやめ「台湾独立勢力に誤ったシグナルを発しないよう」にと抗議した。中国からの強硬な反発は事前に想定されたが、自民党は敢《あ》えてこの会を挙行した。なお、8月12日に、自民党親中派の重鎮でもある二階俊博幹事長を、台湾の謝長廷駐日代表が自民党本部に訪ねていた、というのは何か示唆的である。

◆軍事行動を強める中国

 「日米台戦略対話」も「日台与党間外務・防衛2プラス2」会合も、「非政府間の実務関係」の範疇《はんちゅう》である。蔡総統の期待したレベルには程遠いが、日台の与党議員が外交・安全保障に関する新たな継続的情報交換の機会を設けたことは「一歩前進」である。常態化する尖閣諸島海域での中国公船の遊弋《ゆうよく》、台湾海峡周辺での頻繁な中国の軍事行動はすでに現実である。時間はない。日本は躊躇《ちゅうちょ》なく日台関係強化のための「次の一歩」を踏み出さなければならない。

<<(あさの・かずお)>>

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