李登輝元総統の南部視察に同行(その2)
早川 友久(理事・台北事務所長)
李元総統が「台湾一周の旅」第2弾で台南・嘉義を訪問
李登輝元総統が「台湾一周の旅」を開始し、その第1弾として4月18日から20日にかけ南
部の屏東県と高雄市を訪問された。夏くらいまでに、台湾を一周される予定だという。
一昨日(5月16日)からはその第2弾がはじまり、今回は台南と嘉義を訪問されている。
一昨日は台南市の頼清徳市長らの案内で蘭の温室栽培などを視察、昨日は八田與一の烏山
頭ダムなどを視察された。
今回の「台南・嘉義」編には、本会理事で台北事務所長の早川友久(はやかわ・ともひ
さ)氏が「カメラマン」に任命されて同行している。ブログ「台北事務所」に、写真とと
もに同行記をつづっているので、昨日に引き続き紹介したい。
◆李登輝元総統の南部視察に同行(その2)[2012/5/17]
http://twoffice.exblog.jp/
*関係写真を多数掲載。
◆李登輝元総統が台湾一周の旅へ[2012/4/18] http://melma.com/backnumber_100557_5541946/
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李登輝元総統の南部視察に同行(その2) 早川 友久(理事・台北事務所長)
【ブログ・日本李登輝友の会台北事務所:2012年5月17日】
http://twoffice.exblog.jp/
南元レジャー農場(台南市柳営区)で台南・嘉義を視察する旅の2日目を迎えた李登輝元
総統は午前8時過ぎに起床。
園内を巡るカートに乗車して一周しながら朝食会場へ。たくさんの植物が植えられた園
内を周る光景は4年前に沖縄を訪問した際、東南植物園を同じくカートに乗りながら見学し
たことを思い出す。
楓cafeと名付けられた朝食会場からは眼下に豊かな植生を見ながら食事をすることが出
来る。前日に引き続き、黄崑虎・元総統府国策顧問らとともに朝食。
午前10時からは同じ会場を使って、今回の視察に同行したメディア限定の記者会見を開
催。次々にメディアからの質問が投げかけられるなか、ひとつひとつの質問に丁寧に答え
ていった。質疑の中で、総統は5月20日の総統就任式に招招待されているものの、私は出席
しないほうがいいだろう。今回の選挙は時期を早めすぎたなどと答えている。
1時間ほどで記者会見は終了。休憩後、12時から園内のレストランで地元名士を招いた昼
食会が開かれた。台聯の黄昆輝主席も駆けつけ、賑やかな会となった。
実はこの南元レジャー農場は、烏山頭ダムから車で15分ほどの距離。なるほどシャワー
の水の勢いも良かったわけだ。
午後2時に烏山頭ダムへ向けて出発。「烏山頭区管理処」へと到着すると、嘉南水利会の
楊明風会長らが出迎え、台南出身の元外交部長(外務大臣)で現在は民進党立法委員の陳
唐山氏も駆けつけた。
パワーポイントを使ったダムの概要説明に熱心に聞き入ったあと、2Fのバルコニーから
「珊瑚潭」とも呼ばれる烏山頭ダムを眺める。
そしてカメラを構えるメディアに対しては、このダムがいかに台湾の農業を一変させた
かについて即席のミニ講義。
その後、車で八田與一の銅像のところへ向かう。ちょうど日本人観光客が見学に訪れて
おり、突然の総統の登場にビックリした様子。八田與一の伝記を読んでダムの見学に来た
とか。
銅像に献花後、記者のぶら下がりに答えた総統は「八田與一は終戦前、フィリピンに向
かう途中で船が撃沈されて亡くなった。終戦後、台湾にいた日本人は日本に帰らなければ
ならなくなったが、奥さんはそれをよしとせず、ご主人の作ったダムに身を投げたんだ。
以前、慶應大学の講演に招かれた時に八田與一のことを話そうと思ったんだが行けなかっ
た。そしたら、産経新聞がその原稿を一面に載せたんだな。八田與一という人は日本精神
の代名詞みたいな人だよ」。そう話す総統の声は時々くぐもっていた。
車に乗り、ダムを離れる直前、同行していた張粲[洪の下に金]さん(李登輝民主協会理
事)から指さされた先にあったのは日本から送られた「絆の桜」。久しぶりに訪れたとい
う烏山頭ダムに、総統も感慨深げだった。
台南を離れた一行は続いて嘉義へ。嘉義市内にある228記念公園では黄敏恵市長が出迎
え。嘉義は市長も県長(知事)も女性という、台湾版「かかあ天下」の街である。
園内の記念館では「關鍵1987(カギは1987)」と題された展示会が開催されている。19
87年、戒厳令は解除されたものの、まだまだ民主化には程遠かった台湾社会で人々が声を
上げ始めるカギとなったのがこの年である。
翌年1月、蒋経国総統の死去により、李登輝副総統が総統に昇格し、以降12年の在任期間
を通じて、少しずつ民主化へのスピードが加速していったのである。見学後、休憩室でし
ばし黄市長らと歓談。
続いて市内に芸術家、呂勝南氏が主催する「呂勝南交趾陶工作坊」を訪問。呂氏からは
地元嘉義で伝統芸術の陶芸作品を作り出すだけでなく、啓蒙活動にも従事しており、総統
の健康と長寿を祈る作品が贈られた。こちらの工房には、総統在任中に呂氏へ贈った勲章
や賞状などが飾られている。
今日は朝から台南も嘉義も降ったりやんだりの雨模様だったが、不思議なことに総統が
屋外へ出るときには雨が止む。実際、昼食会が始まるとどしゃ降りの雨だったのだが、ま
もなく総統が出発されるという頃になると晴れ間が出て来たのだ。
呂氏の工房を辞去した一行は一旦ホテルに投宿。休憩後、嘉義県長主催の晩餐会に出席
するため、嘉義県太保市にある嘉義県長公館(公邸)へと向かう。渋滞する平日夕方6時ご
ろの出発で、市内からは通常1時間ほどかかるが、一行はパトカー先導のノンストップのた
め30分で到着。
公館では張花冠県長や県議会議長が出迎え、瀟洒な応接間で歓迎の言葉を述べた。県長
からは阿里山のお膝元らしく、ヒノキの大きな贈り物。
「永遠の民主化の父」とは、前述したとおり、李登輝総統の時代に台湾が大きく民主化
を進めたことに対する最高の賛辞だろう。
和やかな雰囲気の中で1時間半ほどの晩餐会を終えて宿泊先のホテルへと戻り、午後9時
前に公式の日程は終了した。
明日は午前から嘉義県内の農場や養護学校などを視察し、夕方に台北へ戻ることになっ
ている。