【浅野和生】台湾新総統就任を祝して防災担当大臣を派遣せよ
平成国際大学副学長 浅野和生
来る5月20日、台湾では三期連続で民進党から頼清徳総統が就任する。
この総統就任式典に、日本から日華議員懇談会や、日本台湾交流協会等の代表が参列するだろうが、これとは別に日本政府は現職大臣を派遣して祝意を表明すべきである。
周知のとおり、日本と台湾には「まさかの時の友は真の友」の関係がある。
1995年の阪神淡路大震災に際して、さまざまな支援が台湾から現地に届けられて以来、大地震のたびに相互の支援の輪が大きく広がっている。
1999年に台湾中部大地震(九二一地震)が発生したときには、いち早くかけつけたのが日本からの救援隊であった。
その整然たる行動と、被災者に対する礼を尽くした態度が台湾の人びとに称賛された。
2011年3月に今度は日本で東日本大震災が起きると、台湾の市井の人々からの善意の寄付が200億円に達した。
結局、台湾からの支援は合計250億円超、世界最高レベルとなったが、台湾の人口が2300万人ほどだから、老若男女一人1,000円ずつの拠出という計算になる。
つづく2016年2月、台南を中心とする台湾南部大地震が起きると、再び日本から台湾に支援が送られた。
灰燼が鎮まる間もなく、4月になると、前震と本震の二回にわたる大地震が熊本を襲い、被災地には台湾からの支援が届けられることになった。
熊本市と台湾南部の最大都市である高雄市は姉妹都市であり、直航便の往来もあったが、震災によりしばしの間、空路は中断された。
その定期便が再開されると、陳菊高雄市長と頼清徳台南市長が六月十日に熊本入りして、蒲島県知事と熊本市長に相次いで面会し、2億円超(6516万台湾元)の義援金を届けた。
この2016年は、任期による総統交代の年にあたり、国民党の馬英九総統から民進党の蔡英文総統に政権交代となっていた。
つまり、民進党籍の陳菊市長と頼清徳市長の熊本来訪は、蔡英文政権発足から二十日後のことであって、蔡英文政権の対日関係重視のシグナルでもあった。
これは同時に、このたび総統に就任する頼清徳氏と日本との縁の深さを物語るものである。
あれから8年、今回は日本と台湾の被災の順序が逆になった。
一月一日の能登半島大地震が発生すると、台湾からはいち早く救援隊の派遣や、多額の義援金の支援が表明された。
そして4月3日、台湾中東部の花蓮近くを震源とする大地震が発生すると、日本政府は各種の支援や援助金の提供を表明した。
凶弾に倒れた安倍晋三元首相の葬儀に参列されたのも頼清徳副総統であった。
浅からぬ縁で結ばれた頼氏が台湾の総統に就任するのである、日本政府としては、今に至る日台の相互支援に思いをいたし、能登半島地震への台湾からの支援に感謝の意を表すために、新たな総統就任に際して現職大臣の特使を派遣して祝意を表すべきではないか。
頼清徳新総統の就任式典が行われる5月20日は、昨年のG7広島サミットからちょうど一周年の日でもある。
広島サミットではこの日にG7首脳宣言がまとめられたが、そこには「自由で開かれたインド太平洋を支持し、力又は威圧による一方的な現状変更の試みに反対する」と記され、「我々は、国際社会の安全と繁栄に不可欠な台湾海峡の平和と安定の重要性を再確認する」として「両岸問題の平和的解決を促す」と明記した。
またG7首脳は、「中国に率直に関与し、我々の懸念を中国に直接表明することの重要性」の認識で一致したのだから、中国への強いメッセージとして、政府は上記特使と頼清徳新総統との会見を実現し、武力による威圧に反対し、台湾海峡両岸関係の平和的解決を求め、中国による「力又は威圧による一方的な現状変更の試みに反対する」決意を中外に鮮明にすべきである。
この際、日本からは能登半島地震に際して特定災害対策本部の本部長を務めた防災担当、国土強靭化担当の松村祥史大臣を特使として派遣し、大いに両国の防災と復興の談義を深めてはどうか。
松村氏は、TSMCの工場建設で台湾ブームに沸く熊本県出身でもある。
これは実務的な必要性に基づく意見交換であるから、東アジアの現状を一方的に変更しようとする隣国の反応など気にする必要はない。
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