進む「中華民国」の台湾化
「廃省」で「大陸地区」消し去る
平成国際大学教授 浅野和生
1946年12月25日、中華民国憲法が制定された時、その領土は中国大陸と台湾にまたがるもので、河北省、浙江省、四川省などと台湾省を含む35の省と、南京市、上海市、北平市(つまり北京市)など12の直轄市からなっていた。
なお、同憲法によると、外交、国防、国籍、国税など国家そのものに属する事項は中央政府の管轄だが、「省の教育、衛生、実業及び交通」「省の財産の経営及び処分」「省の市政」「省の農林、水利、漁業牧畜及び工事」「省の財政及び税金」「省立銀行」などの立法、執行権が「省」に与えられていた(第109条)。
<<台湾省廃止した蔡総統>>
その後、中国共産党との国共内戦に敗北した中華民国国民党政府の統治範囲は台湾および周辺の島嶼(とうしょ)と、福建省の金門島・馬祖島のみとなった。このため、1991年になると李登輝総統が憲法を修正して、中華民国の実効統治範囲を「自由地区」、統治していない領域を「大陸地区」と区分することとした。さらに、中央直轄市の台北市と高雄市を除いて、中央政府の統治領域の9割が台湾省政府の領域と重なる二重統治体制は組織・人事など非効率であることから、97年7月の第4次憲法修正で台湾省の省長選挙を凍結し、民選議員による省議会を廃止することとした。
この憲法修正で、「省」には9人の委員からなる省政府を設けることとし、その中の1人を主席とし、諮問議会を設けて諮問委員若干名を置くこととした。なお、省政府の委員も諮問委員も行政院長(首相に相当)が総統に任命を要請するもので、一般有権者による選挙は行われない。
この条文を読むと、省政府がそれなりに維持されるようにみえるが、実態はそうではなかった。98年の任期満了を待って新たに設置された省政府の委員、諮問議会は全く形式的なものとなり、地方行政はもっぱら市と県以下を指すこととなった。省の存在感は羽毛のように軽くなった。
とはいえ、人員が張り付けられ、オフィスが存在する以上、台湾省の予算が存続した。金門島と馬祖島だけの中華民国福建省も事情は同じである。
さて、2016年5月に発足した民進党の蔡英文政権は、選挙中から中台関係の「現状維持」を掲げた。その政権が3年目に入った昨年7月、19年度予算で台湾省関連予算をゼロとし、7月20日には台湾省政府のオフィスを廃止した。また、金門島に置かれていた福建省政府も、18年末をもって福建省政府主席ただ1人を残して廃止された。中華民国の会計年度は1月1日に始まるので、18年度末をもって、事実上の「廃省」が実施されたことになる。
その際、地方制度の基礎単位を「省」とした中華民国憲法は改正されていない。要するに、蔡英文政権は、憲法の追加修正条文第9条の執行をやめることで、行政措置として「廃省」が行われたのである。
実は、中華民国憲法体制では、地方制度の基本に「省」を置き、「自由地区」にも省を存続させることで、実効統治はしていなくても中華民国の主権が「大陸地区」の各省に及ぶことを示していたのだともいえる。とすれば蔡英文政権は、「省」とともに中華民国から「大陸地区」を消し去ってしまったことになる。
来る10月1日は、中国共産党が北京で中華人民共和国の成立を宣言してから70周年の記念日である。中国が建国70年を祝う年を迎えるにあたって、台湾の蔡英文政権は、台湾省を実質的に廃止し、福建省の名目化を究極まで進めることで、中華民国=台湾であって中華人民共和国と重複しないことを宣明したのではないか。つまり、蔡英文政権は、中華民国の基本構成から「省」を排除することで、中国の主張する「一つの中国」に台湾の中華民国が含まれないことを示したのである。
<<習主席、武力行使を示唆>>
本年1月2日、「台湾同胞に告げる書40周年」記念式典で、習近平国家主席が「一国二制度」による台湾統一を強く打ち出し、武力行使の不排除にも言及したのは、蔡英文政権による「中華民国の台湾化」推進に断固たる反対の意思を示すものでもあった。
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