プロパガンダとしての「一つの中国」論
改めるべき日本の台湾認識
平成国際大学教授 浅野和生
台湾では、自分は「中国人」だと考える人は少数派である。台湾から来た留学生に、「君は中国人だよね」と言ったら十中八九、「やめてください。私は台湾人です」と答える。これは政治的主張なのではない。多くの日本人は、このことをよく理解していない。
台湾は、1624年にオランダによって南部が支配されるまでマレー・ポリネシア系原住民の島だった。台湾海峡は130キロから200キロの幅があり、潮流は早く風も強い。だから、近代以前には渡航は困難だった。しかも台湾にはマラリアやコレラなどの伝染病が蔓延しており、原住民のいくつかの種族は剽悍な「首狩り族」だったから、島外の人びとは恐れて近づかなかったのである。
漢人が台湾に多数移住するようになったのは、1624年にオランダ人が台湾支配を始めてからだ。それまで明は「海禁政策」、つまり鎖国であったし、1661年から20年余りの鄭成功一族による支配の後、1683年に清朝が台湾を支配下に置くと、康熙帝は「渡台禁止令」を出した。
オランダ統治以来、労働力として台湾に渡るのは男ばかりであり、女性は皆無に近かった。だから1721年当時、台湾在住の漢人約26万人のうち女性は約1000人、諸羅近くの大埔庄では、漢人257人のうち女性は1人だった。
その後、1760年に乾隆帝が「渡台禁止令」を廃止したが、基本事情は変わらなかった。それなのに18世紀に台湾の漢人人口が急増したのは、漢人男性と原住民女性の通婚による。だから、「有唐山公、無唐山媽」、つまり、祖父が漢人でも祖母は漢人の台湾人はいない、といわれた。
しかし1945年に日本の敗戦による国民党の台湾統治以後、さらに1949年に国共内戦に敗れると、蒋介石軍、政府関係者その他多くの漢人が一気に大陸から台湾に移転した。そうなると、台湾が中国でないとすれば、蒋介石政権は中国代表権を主張できないし、毛沢東の中国も「祖国統一」を掲げて台湾併合を進めるわけにはいかない。どちらにとっても台湾は中国固有の領土でなければならなかった。
こうして、台湾で中国人教育が徹底され、中国人化が進められるとともに、中台両者による対外宣伝が浸透して、もともと台湾は中国ではないという史実も、台湾人の多くが生粋の漢人ではないという事実も、台湾内外で消し去られたのである。
しかし、李登輝総統の「寧静革命」が成功して、台湾では民主主義が定着・浸透するとともに、中国とは別の台湾として、日本統治の功罪と輝ける民主化を含む歴史認識が浸透し、台湾アイデンティティが広がった。無論、中国では従前のままである。
さて、国立台湾大学医学部で教鞭をとり、台湾で有数の歴史を持つ大病院、馬偕紀念病院の輸血医学及び分子人類学研究室の林媽利教授は、「台湾人の85%が原住民の血統に属する」という研究を発表している。台湾の人口のおよそ85%がいわゆる台湾人(戦前から台湾在住の漢人)だとして、台湾の72.5%の人びとにマレー・ポリネシア系の原住民の血が流れているということになる。
こうして、多くの人びとが「私の先祖には原住民の人がいますよ」と平然と言うようになった。蔡英文総統も、父方の祖母が原住民であると明らかにしているし、蘇嘉全前立法院長、潘孟安屏東県長などの有力政治家も同様である。
国立政治大学選挙研究センターの世論調査によると、2021年には、「自分は中国人ではなく台湾人である」と認識している人が63%以上、「中国人であり台湾人でもある」と答えた人が30%前後、「私は中国人」と答えた人はわずか2.7%であった。同じ調査で、「すぐに中国と統一したい」人は1.5%、「どちらかといえば統一したい」人が5.6%で合わせて7%に過ぎず、「現状維持」と「独立派」が合計で80%を超えた。「現状維持」とは、中国と統一はしないということである。
以上のとおり、台湾の人びとの多くは、政治的立場というより、台湾が中国の固有の領土ではないと認識し、自分たちは中国人ではない台湾人と考えるから統一したくないのだ。台湾人は台湾人、中国人とは別ということである。
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