1.はじめに
昨日(11月29日土曜日)、台湾では「九合一選挙」が行われ、驚くべき結果が出ました。我々の予想を上回る結果、政権党の国民党が惨敗、野党の圧勝でした。私は政治評論家でもないし、情報網を持っているわけではありませんので、本格的な解説は今後いろいろ報道されるであろうニュースや評論に期待して、速報と若干の期待を申し上げたいと思います。それにしてもこれほどの結果になろうとは・・・・。
2.驚くべき結果
最も注目されていた直轄6都市の市長は野党勢力が5つ取り、国民党は現職朱立倫氏の新北市一つだけ、それも対立候補民進党の游錫コン氏に辛くも勝つという体たらくでした。投票前の予想では、国民党は新北市、桃園市はまず間違いなし、民進党は高雄市、台南市は間違いなし、台中市と台北市をどちらが取るかということで、3対3で引き分け、否3対3では国民党の負け、野党側が台北市を取ればむしろ勝利、台中市もとり、4つ取れたら大勝利の見通しでした。それが台北市を圧勝(柯文哲氏)、台中市も圧勝(林佳龍氏)、さらにまず無理と思われていた桃園市も圧勝(鄭文燦氏)したわけです。台南、高雄は予定通り民進党候補の圧勝ですから、直轄市の市長選挙は国民党の完全なる惨敗と言ってよいでしょう。
その他の同時に行われた地方政治のレベル別の各種選挙も国民党の後退は著しく、国民党主席である馬英九総統の責任は厳しく問われることになるでしょう。開票途中、行政院長江宜樺氏は敗戦の責任は国民党の政治にありとして、辞任を表明しました。
3.九合一選挙とは
台湾通信No.88「国家の品格を取り戻そう」でご紹介いたしましたが、台湾の選挙は総統と立法院委員(国会議員)を選ぶ国政選挙と直轄市や県市の首長並びに地方議会議員、里長村長を選ぶ地方選挙があります。今回は9種類の地方選挙を同一日に行うので「九合一選挙」と呼ばれましたが、これで11,130人の「地方公職」(首長、地方議会議員など)が選ばれました。その内訳は直轄市長6名、直轄市議員375名、県市長16名、県市議員532名、郷鎮市長198名、郷鎮市民代表2,096名、村里長7,851名、山地原住民区長6名、山地原住民区民代表50名です。
この選挙は台湾史上最大の選挙と言われ、各メディアも大規模な報道体制を敷いて、報道しました。投票は朝8:00開始、午後4:00に投票締め切り、直ちに開票が行われました。
4.直轄市市長選挙の結果
今回の選挙で最も注目されたのは直轄市の市長選挙、中でも台北市の選挙でした。直轄市というのは人口が125万人以上で、政治・経済・文化の発展に重要な都市で現在台北市、新北市、台中市、台南市、高雄市の5市ですが、12月25日に桃園市の昇格が決まっています。最高権力者である総統は皆台北市市長の経験者ですから、この台北市の市長に誰が成るかは当然注目の的です。市長の座を与党国民党が取るか、野党民進党などが制するかはもちろん、地方議会の勢力がどのようになるかも重大関心事でした。
結果は前述のとおりですが、詳細得票などは次のようになりました。候補者名・政党名の後ろの数値は得票数、(今回の実績得票率)、(予測得票率)です。予測得票率は未来事件交易所が11月18日に公表したものです。
●台北市の結果
柯文哲(無所属) 853,983票(57.16%) (52%) 当選
連勝文(国民党) 609,932票(40.82%) (45%)
柯文哲氏は開票直後から終始リード、危なげなく当選を果たしました。
色々な失言や中傷情報が乱れ飛びましたが、見事に克服しました。
●新北市の結果
朱立倫(国民党) 959,302票(50.06%)(57%) 当選
游錫コン(民進党) 934,774票(48.78%)(44%)
游錫コン氏は一時朱立倫氏をリード、6市制覇の希望を持たせてくれまし
たが、惜しくも破れました。決定は開票の5時間後、終了直前でした。
●桃園市の結果
呉志揚(国民党) 463,133票(47.97%)(54%)
鄭文燦(民進党) 492,414票(51.00%)(46%) 当選
両者互角、一進一退を繰り返して居りましたが、鄭文燦氏が予想を覆し
て、逆転勝ちを収めました。
●台中市の結果
胡志強(国民党) 637,531票(42.94%)(47%)
林佳龍(民進党) 847,284票(57.06%)(54%) 当選
一時胡志強氏がリードする局面もありましたが、徐々に差が付き、最後
は予想通りの結果、林佳龍氏の圧勝となりました。
●台南市の結果
頼清徳(民進党) 711,557票(72.90%)(63%) 当選
黄秀霜(国民党) 264,536票(27.10%)(36%)
頼清徳氏は最初からぶっちぎりの独走、下馬評通り、大差で黄秀霜氏を
下しました。相手が巨人過ぎました。
●高雄市の結果
陳 菊(民進党) 993,300票(68.09%)(57%) 当選
楊秋興(国民党) 450,647票(30.89%)(41%)
陳菊氏も最初からぶっちぎりの独走、楊秋興氏を大差で下しました。
高雄市民の心意気、ここにありを示しました。
5.県市の市長、議員選挙の結果
自由時報紙(2014年11月30日)の統計によれば、直轄市を含む県市の市長選挙の結果は国民党6名(27%)、民進党13名(59%)、その他3名(14%)、県市の議員の数は国民党386名(43%)、民進党291名(32%)、その他230名(25%)でした。また、郷鎮市区長の数は、国民党80名(39%)、民進党54名(26%)、その他70名(34%)でした。
6.里長村長選挙の結果
里長村長は行政の最末端の長で、政治家というより、どちらかというとその地の世話人と言った方々ですが、矢張り住民に一番近い所にいるわけですから、関心をもたれるのです。
今回は今年の3月から4月に話題となった「ひまわり學運」の若い力が地方末端にヒマワリの種を蒔く、「島国前進」を進めていましたが、その結果が見えるかもしれませんので、矢張り注目されていたわけです。
その結果については、11月30日朝の時点では残念ながら報道されていないようです。やはり上位のレベルの選挙結果が注目されるので、この時点ではまだ統計も出ていないということでしょう。いずれ、発表されると思いますので、その時点でお伝えできるかと思います。
7.国政選挙への影響
総統、立法院委員を選ぶ国政選挙は2016年、2年後に行われますが、今回の「九合一選挙」がその前哨戦と見られていたわけです。結果は上記のとおり、国民党の惨敗、野党の圧勝に終わりましたが、詳しい内容分析、今後の予想、予測については専門家にお任せせざるをえませんが、素人の、床屋談義としては、政権与党に対しては相当なダメージ、インパクトがあったことは間違いありませんし、大いに2016年に期待が膨らむのではないでしょうか。
8.私が注目した結果
今回の選挙で私が一番関心を持って見ていたのは、もちろん台北市、台中市、台南市、高雄市の市長に誰が、どのくらいの票数で選ばれるかでした。
特に高雄市の国民党候補者の小さな巨人と言われていた楊秋興氏、台南市の国民党候補者黄秀霜氏、この二人は巨人現職(高雄市の陳菊市長、台南市の頼清徳市長)に挑んだわけですが、もちろん国民党としては候補者を立てない訳にはいかなかったでしょうが、果たして市民のどれほどの支持が得られるか、特に楊秋興氏に関しては元民進党員であってその後国民党に鞍替えした人です。台湾人は忘れっぽいとか、政治音痴とか悪口がありますが、私は高雄の数字で、その正否を判断しよう考えておりました。
台北市の連勝文候補は連戦の息子です。連戦は台湾で「半山仔(ポアソアンナ)」と呼ばれる典型的な人で、日本語にすれば「出戻り台湾人」とでも言おうか。すなわち、戦前に中国大陸に移住し、戦後中国国民党と共に再び台湾に戻ってきた人の事で、台湾語が出来るために戦後国民党政府内で重用され、高い位につき、金持ちになった。その大金持ちの息子が、台湾医大のドクターに、しかも無党派に敗れたのであり、台湾政界に与えるインパクトは極めて大きいと言えます。
もう一つの選挙、台中市の胡志強対林佳龍は台北市と同様国民党の牙城でしたが、ここも遂に国民党は城を明け渡しました。勝利した林佳龍氏は苦節10年、10年磨1剣、遂に胡志強を追い落としたとTVや新聞は報道していました。
9.おわりに
台湾の複雑な政治事情を変え、民主化を更に進めるための第一歩が踏み出されたのは確かと思いますが、問題は国政をどのように変えるかです。2016年に予定されている総統選挙と立法院委員選挙で国民党を打ちのめして初めてその可能性が見えてくると思います。最大の問題は立法院選挙だと思います。現在の立法院(定員113名)の勢力図は与党国民党が65名、野党47名、無所属1名で、立法院は国民党が多数を占めています。曾て民進党の陳水扁氏が総統になりましたが、立法院は国民党が抑えているために、政策の遂行は困難を極めました。
今回の里長村長選挙に打って出た「ひまわり學運」の若者たちの戦いについてもお伝えしたかったのですが、残念ながら今回はできませんでした。
2週間すると日本でも選挙ですね。偶然ですが、私は投票日の前日に一時帰国いたします。他人の選挙もさることながら、今度は自分が投票する番です。