【傳田晴久の臺灣通信】「台湾の北京語(3)」

【傳田晴久の臺灣通信】「台湾の北京語(3)」

             傳田晴久(台南在住)

1. はじめに

先月(2018年9月)初めに待望の「台湾の北京語」が出版されました。この台湾通信で2回にわたり紹介させていただきましたが、今回は3回目(最終)です。本の宣伝で申し訳ありません。

2. 取り上げた語

本書で取り上げた言葉は約500語ですが、配列は漢語拼音(ピンイン)のアルファベット順です。対象語を分類すると日治時代に生まれた言葉、戦後生まれた言葉、最近の流行語、外来語、人名に起因する言葉、政治がらみの言葉、慣用句・諺・警句、少々怪しげな言葉などに分類できるかと思います。今回は人名、怪しい語、政治、慣用語などを紹介してみます。

3. 人名にからむことば

次の文字列「柴契爾夫人」は人名ですが、どなたでしょうか?「鉄の女」の異名をとるイギリスの宰相マーガレット・サッチャー夫人です。サッチャー夫人を中国語訳すると「柴契爾夫人」となり、それを台湾語読みすると「菜市仔夫人」となり、意味は市場のオバサン、即ちごく普通の人と言うことになります。北京語で「看她的樣子很像柴契爾夫人」と書きますと、普通には「彼女は見たところサッチャー夫人のようだ」となります。

が、台湾北京語では「彼女は見たところごく普通のおばさんだ」となってしまうのです。「鉄の女」も市場のおばさんにされてしまうとは・・・・。
もうひとつ、「櫻櫻美代子」はどなたでしょうか?台湾でお付き合いいただいているある小姐にお聞きしましたら、彼女はケタケタ笑って「母にいつも言われていました」とのこと。「櫻櫻」は台湾語「閒閒」(暇なこと)の発音から台湾北京語に当てた文字、「美代子」は台湾語「沒代誌」(仕事がない)にあてた台湾北京語で、「櫻櫻美代子」は「暇で何もする事がない」と言う意味です。親日の台湾人が遊び心で日本女性の名前に似せて作った言葉であるとのこと。
「歐巴馬」は前米国大統領オバマの中国語訳ですが、台湾北京語になりますとその意味は、「むやみやたらに買いまくる。買い物魔」と言うことになります。「歐巴馬」を台湾語で発音すると台湾語「烏白買」(むやみやたらに買いまくる)の発音に似ているからです。

4. 怪しい語:機車、炒飯・・・・

前々号で「炒飯」を性行為をすると紹介しましたが、私が国立成功大学の華語中心で北京語の勉強をしている頃、課外活動で動画を作るイベントがありました。あるチームの作品は、「チャーハンの作り方」と言うタイトルでしたが、それは男性が台所で、ビニール製のレインコートを頭からすっぽり被ってフライパンをゆすっている動画でした。

台南の街も他の街と同様「摩托車」と呼ぶバイクが沢山走っています。その中にナンバープレートの下に「非常ㄐ車」と書かれている車を時々見かけます。これはバイクの販売・修理屋の屋号のようです。「ㄐ車」は「機車」のことですが、これがちょっと問題です。「機車」には①オートバイと言う意味と②あら捜しをするという二つの意味がありますが、後者の北京語に相当する台湾語には女性のナニを意味する言葉があるそうです。その台湾語をそのまま発音するにはさわりがあるので、北京語の「機車」(ji1-che1)を当てたというのです。黄英甫老師は「台湾では若者を中心に「機車」を粗探し(をする)という意味で使用しているが、その語源について知っている人はあまり多くない」と解説されています。

5. 政治がらみのことば

今回の出版にあたっては、政治がらみの言葉や使用例(文)が問題になりました。我々としてはその用語の使い方の例として政権の主要人物にかかわる事柄を題材にしたいのですが、出版社としては政治的偏向の誹りを恐れてか、例文の変更を求められました。出版物としては書けなかったいくつかの例を紹介します。

「半山仔」というのは、戦前に中国大陸に移住し、戦後中国国民党と共に再び台湾に戻ってきた人の事で、台湾語が出来るために戦後国民党政府内で重用され、出世した。
この言葉の説明として以下のように記したが、問題視されてしまった。「元国民党政府の要人である台湾人連震東氏が、国民党に中国大陸から台湾に呼び戻されて、一代目の半山仔になった。その後彼の息子である連戦氏は中国国民党主席にもなった。連家が強い影響力を発揮できたのは連戦氏までであり、三代目の連勝文氏は、2014年の台北市長選挙に立候補し、柯文哲氏に大敗した。」この説明はあえなく、自粛。

「漏屎馬」と言う言葉があり、意味は「下痢馬、無能な者、駄目な人、弱い奴」と言うことです。台湾語の「漏屎」は下痢を意味します。この言葉の使用例として「那隻漏屎馬真沒用(あの無能な奴は全く役に立たない)」を上げましたが、誰のことをさしているか明示しませんでした。

今年の約2か月後(2018年11月24日)、台湾では「九合一」と呼ばれる統一地方選挙が行われます。選挙と言いますと、台湾北京語「賭爛票」が話題となります。私はこの言葉を「嫌々票」と名付けました。すなわち「自分の意思に反して投票する(しない)票の事」です。台湾語「賭」は突くという意味、同「爛」は陰茎のこと。台湾語「賭爛」は陰茎が下着を突き、不快な感じがし、やり場がないというニュアンスを表しているんだそうです。台湾北京語「賭爛票」は投票しても不愉快で、やり場がないような、嫌々投票する「票」の意味です。
ある方に伺いましたら、ある政党の買収は毎度のことで、有権者が5人いる一家に5票分の現金を渡すと、少なくとも4票はその党に、1票はそれ以外の党に投票されるそうです。その党に投票する人も決して積極的に投票するわけでなく、「嫌々」投票しているようです。

6. 面白い言葉・慣用句・諺など

台湾の前総統馬英九氏が2008年の総統選挙の時に使った“long
stay”が語源で、台湾人はそれを(台)long1-si3-ke2と聞き、台湾北京語「攏是假」の字を当て、「すべてが嘘だ」と言う意味で使っています。この言葉は新聞やテレビの画面に頻繁に出てきます。
台湾語には多くの慣用句や俗語、諺がありますが、「摸蜆兼洗褲」もその一つです。この言葉の意味は「二つの事を同時にやる;一石二鳥」と言うことですが、直訳すると「蜆(しじみ)を採りながら、同時に下着を洗う」という意味で、川で蜆を取るときに、下着が水に浸かることからの言葉だそうです。

7. ちょっとした工夫

私の手元に台湾語の諺の本があるのですが、収録した諺はある基準(運命、男、女、親子、金銭などのテーマ毎)で配列されています。自分が知りたい諺の意味が解っていないと検索できません。「台湾の北京語」では対象語を発音(漢語拼音)順に並べましたので、北京語の発音を知らないと索引できません。そこで調べたい言葉の頭文字を日本語読みして索引できるようなインデックス(日本語索引)を設けました。例えば、「櫻櫻美代子」の頭文字は「櫻」ですので、漢語拼音であればying1ですが、日本語読みすれば字訓で「さくら」、字音で「オウ」ですので、日本語索引の「さ」か「オ」を探せばよいのです。

この本は、中文がわかる方も利用されると考えましたので、本文には中文による説明をつけ、中文索引も付けました。これは頭文字の総画数順の索引です。我々日本人は漢字の総画を数えるのに慣れていませんが、当地で見かけた名簿は総画順になっていましたので、きっと慣れておられるのでしょう。

8. おわりに

図々しくも3回にわたって「台湾の北京語」の紹介(宣伝)をさせていただきました。この本の価格は520元で、誠品書店、国家書店、五南書店、通販サイトの「博客来」に置いてあるとのことです。よろしかったらご利用ください。


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