【傳田晴久の臺灣通信】「核四と公投(2)」

【傳田晴久の臺灣通信】「核四と公投(2)」

1. はじめに

前回の台湾通信(核四)について多くのご意見を頂きまして、まことにありがとうございました。原発を推進すべきか止めるべきかの判断はまことに難しいものがあります。それを「公投」(公民投票)で決めようという運動がありますが、今回はそれについて考えてみたいと思います。

2. その前に

五月初め、新聞を見ていましたら「割闌尾動刀…罷免×××」というタイトルが目に入りました。×××には3人の名前が載っていました。「闌尾」はどこかで見たことがあるが、どういう意味だったか思い出せない。辞書を見て、「あれっ」と思った。「闌尾」は虫垂、虫様突起のことで、私が2011年秋に台湾で盲腸炎の手術を受けた時、診断書に書かれていたことを思い出しました。

「割」は切り取るという意味で「割闌尾」は虫垂を切り取る、盲腸炎の手術をするということです。この「闌尾」の発音はピンイン(中国語の発音記号の一つ)で書けばlan2-wei3(ランウェイ)ですが、中国語には同音異義の言葉が沢山あり、それを「諧音」(シエイン)と言いますが、上手に利用すると面白い表現が可能になります。この「ランウェイ」は同じ発音の「藍委」lan2-wei3を連想させるのです。「藍」はブルー、国民党を意味し、「委」は委員、すなわち立法委員を意味します。「割闌尾」は「割藍委」の事で、国民党の立法委員を切り取る、すなわち罷免するということです。

「ランウェイ」はもう一つのことば「爛委」lan4-wei3を連想させるのです。こちらの「爛」は乱れたとか腐っているという意味があります。すなわち「割闌尾」は「割爛委」の事でもあり、腐った立法委員を罷免するということです。

立法委員を罷免しようという動きがあり、そこではフェースブックの投票によって、罷免すべき立法委員のリストがあります。そのリストには国民党立委はもちろんのこと、民進党立委も、その他の政党の立委も、「割爛委」候補として名を連ねています。

3. 辞めさせることは可能か?

台湾の立法委員は日本の国会議員に相当します。日本では有権者が国会議員を直接辞めさせることはできないようですが、台湾では、「公職人員選挙罷免法」(2011年5月25日修正)の手続きによって可能なようです。ここで言う公職人員とは中央の立法委員、地方自治体の議員や首長を指します。手続は先ず当該選挙区の有権者の2%の同意を以って罷免案を提起、次に罷免提議書を選挙委員会に提出、そして有権者の13%以上が罷免案に同意し、連署する。そして罷免投票が行われ、選挙人の投票率50%以上でかつ賛成票が有効票の半分以上であれば、この罷免案は成立します。

日本では地方自治法が定める直接請求制度(リコール)があり、都道府県知事・市町村長の解職、地方議会の解散、地方議員の解職などを直接請求することが出来ます。これらは間接民主制を補完する制度です。

4. 「公投」とは?

公投、すなわち公民投票は直接民主制を具体化したものの一つであり、公民は提起された案件に対する賛成か反対かを投票によって表明する制度です。台湾では2004年に公民投票法が制定されましたが、それは2つの制度に分けられ、一つは全国性公民投票と呼ばれ、法律の制定、重大政策の可否、憲法の修正などにかかわるもので、もう一つは地方性公民投票と呼ばれ、地方自治の法律、地方自治にかかわる重大政策の可否などを問うものです。

しかし、公投成立の条件は極めて厳しく、投票率50%以上、且つ賛成票が過半数を越えなければ成立しないというものです。台湾ではこの条件を「門檻」(敷居)と呼び、高すぎる敷居を下げるべきだとの議論が出ています。

5. 全国性公民投票

前者(全国性公投)は過去、次の6項目について実施されましたが、いずれも投票率の門檻をクリアできずに否決されてしまいました。

回目 時期   テーマ      投票率 賛成率   成否 提出者

1、2004年3月総統選、強化国防、45.17%、91.80% 否 陳水扁総統

2、2004年3月総統選、対等談判、45.12%、92.05% 否 陳水扁総統

3、2008年1月立委選、討党産、26.34%、91.46% 否 游錫コン民進党主席

4、2008年1月立委選、反貪腐、26.08%、58.17% 否 王建セン財政部長

5、2008年3月総統選、台湾入聯合国、35.82% 94.01% 否 游錫コン民進党主席

6、2008年3月総統選、務実返聯公投 35.74% 87.27% 否 蕭萬長副総統候補

第一回目の公投のテーマ「強化国防」とは「中国のミサイル配備に対抗するために政府が迎撃ミサイル装備を購入して防衛力を強化することに賛成するか?」、第二回目の公投のテーマ「対等談判」とは「政府と中共が協議し、両岸が平和的安定的な関係を築き、以って両岸のコンセンサスと人民の福祉を追及する事に賛成するか?」、第三回目の公投のテーマ「討党産」とは「政党による不当取得財産を処理する条例」を制定し、中国国民党の財産を国民に返還することに賛成するか?」、第四回目の公投のテーマ「反貪腐」とは「国家のリーダーないしその部署にあるものが故意または過失により国家に重大な損失を与えた場合、立法院に調査委員会を設け、政府の全ての機関は協力して調査し、全国民の利益を守り、違法職員を処分し、不当所得を弁償させる法を制定することに賛成するか?」、第五回目の公投のテーマ「台湾入聯合国」とは「1971年中華人民共和国が台湾に代わって国連に加入したことにより台湾は国際的孤児になった。台湾人民の意志を強く表明し、台湾の国際的地位並びに関与を高めるために、台湾名義で国連に加入することに賛成するか?」、第六回目の公��蠅離董璽沺嵬骸楕嵶��蝓廚箸蓮峅罎�颪�駭△覆蕕咾亡慙∩反イ忘堂弾�垢襪燭瓩法¬松里麓駄嚇�法⊇斉陲丙��鬚箸蝓�羃斂厩顱�耋僉△修梁祥��並左靴鯤櫃討詭松里魄覆辰董�駭△覆蕕咾亡慙∩反イ忘堂弾�柔舛垢襪海箸忙神�垢襪��廚箸いΔ發里任后��

公投の投票率の低さが目立ちます。同時に行われた2004年3月の総統選挙の投票率は80.28%で、2008年3月のそれは76.33%でした。2008年1月の立法委員選挙の投票率は選挙区58.50%、比例代表区58.28%でした。総統選挙や立法委員選挙には行ったが、同じ場所で行われた公民投票には参加しなかったということです。

6. 地方性公民投票

後者(地方性公投)は過去3回行われており、その中の2つは不成立、一つが成立しました。もともとの条件は全国性と同じで、投票率50%以上、且つ賛成票過半数以上、いずれかに合致しなければ不成立ですが、2009年に実施された澎湖島、2012年に実施された連江県(馬祖列島)の賭博場に関する公投では「離島建設条例」を成立させて、投票率の「門檻」を廃して過半数規則のみで行ったようです。その結果澎湖島は否決、連江県は成立しました。もう一つの地方性公投は高雄市で2008年に行われた、小学校中学校の少人数学級実現に関するもので、投票率5.35%で否決されました。

7. 核四と公投の問題

さて問題の「核四」(第4発電所の建設工事を進めるか否か)にかかわる「公投」ですが、私は難しい問題(決めかねる問題)を公投で決めることができるのか、という疑問を持ちます。

上記の公投の結果を見て分かることは、賛成か反対かの投票のみで、「分からない」とか「どちらともいえない」という選択肢がない事です。分からない、どちらともいえないと考える人は投票せず、よく理解している人、明確な答えを持っている人のみが投票するのではないでしょうか。その結果、投票率は低くなると思われます。

仮に、「どちらとも言えない」、「分からない」という有権者が合わせて50%いたとしましょう。この人たちが投票に行かなければ投票率は50%を切ってしまい、公投は不成立です。半数以上の人々が決めかねている案件は軽々には決めないという意味ではよい制度かもしれません。日本の支持政党を問う世論調査で支持政党なしは半数近く居りますね。ある世論調査では6割を超えていました。いわんや原子力政策、防衛問題などになれば「DK回答」(分からない)はかなりな数になると思われます。特に問いかけ文が複雑で、分かり難い場合はなおさらでしょう。

若し、「核四建設を中止すべきか、継続すべきか」を問う公投において、前記地方性公投(澎湖島、連江県)の様に門檻(投票率)を低くする、ないし外してしまうと、投票に行った少数者の多数決で物事が決まってしまうのではないでしょうか。「どちらとも言えない」、「分からない」という有権者は黙って公投の結果に従えということになりはしまいか。
ちなみに地方性公投の高雄市の例では、賛成は91.21%、反対は8.79%で、圧倒的多数が賛成したように見えますが、投票率は前記のように、たったの5.35%に過ぎません。

8. 思い出す「あの論理」

中華民国の国父・孫文は「政府有能、人民有権」(三民主義)の中で「政府は有能であるから人民は政府に任せておけばよい。政府は有能であれ」と述べています(臺灣通信No.74「帝王の術」で引用)が、私は、これは独裁政権の論理と思います。間接民主制を補完するつもりの「公投」は何と「政府有能、人民有権」の独裁になってしまう可能性があるのではないでしょうか。

政府が有能であれば問題はないのかもしれませんが、政府にもいろいろありまして、「ルーピー(鳩山由紀夫首相)」あり、「バンブラー(馬英九総統、菅直人首相)」ありです。立法委員も政府高官にも貪官污吏がおり、とても任せておけない、だからこそ台湾の人々は「公投」を求めているのでしょうが、その公投もやり方次第ではとんでもないことになりかねない訳です。

問題は有権者がその案件を如何に正しく理解しているかです。一般の有権者はその案件にかかわる情報は、新聞やテレビが報道する番組から入手しています。台湾も日本もメディアが発達しておりますが、非常に偏った情報を流しているように思われます。台湾の多くのメディアの資本は大陸系、国民党系と言われておりますし、日本の新聞、放送は偏った報道をしていると批判されています。このような偏った報道に接している有権者は洗脳されるか、ミスリードされてしまいます。思想、信条、信仰は自由ですからどのような報道を聞き、読み、信じようが構いますまい。しかし、誤った科学知識、科学的、論理的に未だ証明されていない知識を植え付けられて、誤った判断をしてしまうのは問題です。

9. おわりに

公投であれ、住民投票であれ、決めるべき内容が如何に正しく表現され、投票する人々が如何に正確にその内容を把握し、理解するかがポイントであると思います。問う側の表現力、問われる側の理解力が問題であります。メディアの責任きわめて大であります。
敢えて申し上げますが、「核四」可否の問題は原発、放射性廃棄物処理の問題もさることながら、第4発電所の工事の品質そのものに問題があるとも聞きます。また、「公投」の問題にしても、投票に行った方の感想としては、そのやり方にいろいろ問題がありそうです。出来るだけ投票しないように誘導したり、公投の設問の表現がわざと理解しにくいようになっていたり、地域によってはやくざの様な人が投票者の行動を見張っているとか、本来あってはならないような事柄を耳にします。

私の調査力ではまだまだ深く調べることはできません。しかし、色々気になる噂もありますので、この「核四」と「公投」の問題のついては関心を持ってフォローしていく必要があると考えております。
(文責在傳田晴久)

2014.6.6