【陳水扁・一辺一国連線】民進党が抱える爆弾

【陳水扁・一辺一国連線】民進党が抱える爆弾
【陳水扁・一辺一国連線】民進党が抱える爆弾

「ヴェクトル21」2015年2月号より転載

    鈴木 上方人(すずき かみほうじん)中国問題研究家

 2014年は台湾にとって大きな転換期だった。3月18日に起こったヒマワリ運動によって2001年より始まった中国傾斜路線にひとまずブレーキがかかった。ヒマワリ運動の影響は11月29日の統一地方選挙にまで及び、親中派の国民党を大敗させた。

台湾社会における中国傾斜にノーというコンセンサスは、この選挙で確固たるものとなった。政治の地殻変動で国民党が2016年に行われる総統選挙で政権を失うことも予想されている。だからこそ、地方選挙後の話題は、将来の総統は民進党党首の蔡英文になるか、台南市市長の頼清徳になるかで賑わっていた。

●議長選挙で負けた民進党

 だが、そうは問屋が卸さない。2014年12月25日に行われた地方の議長選挙では22の県と直轄市の内、民進党は3席しか獲得出来ず、国民党が15席も獲得したのだ。特に首を傾げざるを得ないのは新北市と台南市である。この二つの直轄市では民進党の議席数が多かったのにも関わらず、議長選挙には国民党に負けてしまい、親中派の国民党にとどめを刺そうと期待していた民進党の支持者たちにとってはまさに青天の霹靂となった。

 一体、何が起こったのか。民進党議員が国民党に買収されたのである。所属議員がいとも簡単に買収される民進党に国民の信頼は地に落ちた。当然の事として蔡英文も頼清徳も監督責任を問われる。勿論、票を買収する国民党も批判はされてはいるが、民進党の傷の方がより深刻だ。そもそも国民党は露骨的な利益誘導で今までの勢力を築いたのだから支持者は買収という不正行為に対し寛容的だ。しかし、民進党の支持者たちは国民党の不正や腐敗を毛嫌い人たちであり、買収は許しがたいものがある。

●民進党の最大派閥になった「一辺一国連線」

 さらに民進党を悩ませる問題はそれだけではない。陳水扁を精神的リーダーとする民進党内の派閥「一辺一国連線」は選挙後、党本部を巻き込んで陳水扁の釈放を求めた。地方選の躍進を「陳水扁釈放を要求する民意の表れ」とした「一辺一国連線」の主張は、決して台湾社会のコンセンサスではない。それなのに、民進党はいとも簡単にこの圧力に屈してしまった。民進党は地方選で得たエネルギーを喫緊の課題である選挙制度改革や憲政改革に注がず、陳水扁釈放運動に使ったのだ。

全身の細胞が政治で構成されていると言われる陳水扁は、仮釈放の直後に長男の陳致中を立法委員選挙へ出すようにと民進党に圧力をかけ、蔡英文を悩ました。蔡英文の悩みが陳致中の出馬だけならばまだしも、陳水扁の野心がこれだけで止まるはずもなく、現在、一辺一国連線はすでに民進党の最大派閥になっており、派閥を持たない蔡英文をライバル視する手強い反対勢力になっている。

●陳水扁は独立志向なのか

この問題が民進党内部のみにとどまるならば大したことではないのだが、独立建国を潰す要因が孕んでいるから始末が悪い。「一辺一国連線」は急進独立派と見做されるため、独立勢力のエネルギーを吸収して真の独立派の力を削ぐことになるのだ。この現象を中国的に表現すれば、「打着紅旗反紅旗」(紅旗を掲げて紅旗を倒す)ということになる。つまり、台湾独立の旗を掲げているこの勢力は台湾独立を潰す勢力と見做されるべきなのである。

そのことはまず、精神的リーダーである陳水扁が果たして独立志向なのかを検証しなければならないだろう。民進党きっての理論家である林濁水元立法委員は、陳水扁は台湾独立を権力闘争の道具として利用しているに過ぎないと断言している。独立派と期待された陳水扁は、2000年に政権をとってからすぐさま中国傾斜路線を推進し、中国進出に急ぐ企業から莫大な政治献金をせしめていた。独立の仮面を被りながら実際中国統合政策を進めていた陳水扁を見破れる識者は、李登輝元総統と黄天麟元第一銀行会長ぐらいだと林濁水は嘆いている。

●政治ハゲタカ

 しかし陳水扁は統一を悲願としている馬英九のような親中派ではない。彼が台湾独立を権力の頂点に立つための道具として利用したのと同様に、中国傾斜政策もまた利権を貪るための道具に過ぎないのだ。そもそも陳水扁は政治理念を持って政治の世界に投身したわけではない。彼は政治をビジネスとして従事し、独立の旗を掲げた方がこのビジネスに有利であるから、独立派のお面を被っただけのことで、その彼に集まってきた「一辺一国連線」人たちを台湾の政治評論家陳茂雄は「政治ハゲタカ」と表現している。いくら腐っていても利益があれば、群がってくるからだ。

この「一辺一国連線」は12月25日に行われた台南市の議長選挙でもその「ハゲタカ」ぶりを存分に発揮した。台南市議会では民進党籍の市会議員は28名、国民党藉の議員は16名だったが、5名の民進党議員が買収されたために議長席を親中派である国民党の李全教に譲ってしまったのである。李全教に買収された民進党議員の五名の内に「一辺一国連線」の議員は三名もいた。台湾独立派であるはずの一辺一国連線が、親中派と結託して有権者を裏切ったのだ。この議長選挙で判明したことは、民進党は派閥に分断されており、その権力闘争の体質からして台湾を独立国家にする意欲も気力もないということだ。

●台湾の独立を阻む最大の阻害

 現在の小選挙区の選挙制度の下では第三勢力の存在は極めて困難である。もっとも台湾の発展を阻害するこの選挙制度は2005年に陳水扁主導の憲法改正で決められた。憲法に組み込まれたこの選挙制度を改正しようとするのならば、憲法を改正しなければならない。だが、2005年の憲法改正は実質的に憲法をこれ以上修正できないものとなった。民進党と国民党の合意で憲法改正条項を国会議員の四分の三の出席と四分の三の賛成で発議し、国民投票を付して、全有権者数の過半数が賛成しなければ改正できないものにしたのである。このハードルの高さが実質的に憲法改正を不可能にした。

 「国民党不倒、台湾不会好」(国民党を倒さなければ、台湾は良くならない)という若者の掛け声で国民党は統一地方選で大敗を喫した。だが、民進党はこのエネルギーを陳水扁復権に費やし、権力闘争に熱をあげている。民進党の主導権を握りつつある「一辺一国連線」による表面的独立急進路線と実質的権力争奪戦は、すでに台湾の独立を阻む最大の阻害になっている。残念ながら、それを見抜いているのは李登輝前総統と彼に近い一握りの識者のみである。

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