【世界日報「View point」:2024年2月10日】
習近平氏の中華人民共和国による「中華民族の偉大な復興」の当面の目標は、「中米二大国による国際秩序」のイニシアチブ確立である。本来、「中華民族の偉大な復興」は「中国による国際秩序」の実現だが、経済の苦境を抱え、総人口でインドの後塵(こうじん)を拝することになった中国は、経済復興等の時間を稼ぐため、当面は「中米二大国」路線でいく作戦である。
◆経済復興へ協力求める
昨年11月15日、アジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に合わせてサンフランシスコでバイデン米大統領との2者会談に臨んだ習近平氏は、「正しい認識を共に確立すること」「意見の相違を共に効果的に管理・コントロールすること」「互恵協力を共に推進すること」「大国としての責任を共に担うこと」「人的・文化的交流を共に促進すること」の「中米関係の5本の柱」を提案した(人民網日本語版、2023年11月16日)。
これによると中国は、両国がパートナーとなり、互いに尊重し合い、平和的に共存することを求めるが、それには中国が守らなければならない利益・原則・一線をアメリカが尊重するようにと要求した。例えばそれは「一つの中国」の原則だろう。
実は、先進7カ国(G7)首脳会談は、2021年のエルマウから、翌年のコーンウォール、昨年の広島と3回続けて、共同コミュニケで「台湾海峡の平和と安定の重要性」を確認したが、広島サミットで「台湾に関するG7メンバーの基本的な立場(表明された「一つの中国政策」を含む)に変更はない」と付言した。日米は、予(あらかじ)め中国の立場を尊重する意思を示していたわけだ。
そうであれば中国は、アメリカとの台湾認識等の相違について、「相手の原則的な一線を理解し、むちゃをせず、事件をつくらず、境界を超えず、意思疎通や対話、協議をより多く行い、意見の相違」に冷静に対処すると約束する。つまり、中国は台湾問題で、当面、武力行使を控えるということである。
その代わり中国は、アメリカに「外交、経済、金融、ビジネス、農業などの分野で交流のメカニズムをしっかりと回復」することを求める。対中経済制裁ではなく、経済協力を進めてほしいという意思表示である。
そこで中国は、アメリカに対して、世界の二大国として中米両国が、国際・地域問題について協調し、協力してイニシアチブを発揮しようと提案した。国際社会における中国の優越的地位をアメリカに認めさせ、「中米二大国時代」を演出しようという算段だ。
また中国は、両国間の「直行便を増やし、観光協力を促進し、地方往来を拡大し、教育分野の協力を強化し、両国の人々の往来と意思疎通を奨励・支援」しようと提案した。
つまり中国は、アメリカに「中米二大国」の対等な関係を認めさせるとともに、米国に蔓延(まんえん)する対中警戒感を消滅させ、精神的武装解除を進めようと意図している。
これを見た台湾の蔡英文総統は11月30日、米紙ニューヨーク・タイムズのインタビューに「中国の指導部は国内に大きな課題を抱え、今は大規模な侵略を検討する時期ではないと考えているのではないか」との認識を示した。
さて今年1月13日、台湾の有権者は総統選挙で、習近平氏が最も望まない対中強硬派の民進党・頼清徳氏を選んだ。この結果に対して中国の王毅外相は、「選挙結果がどうであれ、世界に中国は一つしかなく、台湾は中国の一部であるという基本的事実を変えられない」と嘯《うそぶ》いた。また中国は、台湾の数少ない国交国のナウルに対台湾断交を宣言させるとともに、台湾を取り囲む海域の4カ所以上に海軍艦艇を常駐させ、台湾併合への強固な意志を明示している。
他方、王毅外相は26、27日にバンコクでサリバン米大統領補佐官と会談し、春には米中首脳が電話会談を行うことで合意した。つまり、台湾総統選挙の結果がどうあれ、昨年11月の米中合意は不変であると確認した。
◆対中警戒心高める必要
以上の米中間の合意の下、台湾の総統選挙は平和裏に執行された。そこで示された台湾有権者の強固な「現状維持」の意志に対して、中国は虚勢を張りつつ「静観」の姿勢である。要は、習近平政権は、今は我慢の時、と決めているのだ。だからこそ今、自由と民主、法の支配を尊重する日米韓等、価値観を共有する同盟国は、中国からの精神的武装解除の働き掛けに警戒心を高めなければならない。
<<(あさの・かずお)>>
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