日米首脳共同声明で問われる首相の決断  浅野 和生(平成国際大学副学長)

【世界日報「View point」:2022年6月9日】https://vpoint.jp/opnion/viewpoint/220215.html

*原題は「世界の未来担う2023年の日本」ですが、本誌掲載に当り「日米首脳共同声明で問われる首相決断」と改め たことをお断りします。

 岸田文雄首相とバイデン米大統領は、去る5月23日、東京で開かれた初めての日米首脳会談で、邦文で8000字に及ぶ日米首脳共同声明を発出した。

 冒頭、両首脳はルールに基づく国際秩序に対する当面の最大の脅威は、ロシアによるウクライナに対する残虐でいわれのない不当な侵略だと指摘した。しかし、欧州で進行中の危機のいかんにかかわらず、両首脳は「インド太平洋」がグローバルな平和、安全及び繁栄にとって極めて重要な地域であるとの認識を示し、ルールに基づく国際秩序に対する戦略的挑戦の高まりに直面している、と警鐘を鳴らした。ここで両首脳は「経済的なもの及び他の方法による威圧を含む、ルールに基づく国際秩序と整合しない中国」について議論した。つまり、両国が今日懸念しているのは、何よりも中国によるルール違反なのである。

◆台湾問題の重要性強調

 さらに両首脳は、近年の中国による核能力の増強に留意し、「核リスクを低減し、透明性を高め、核軍縮を進展させるよう」中国に要請した。また、東シナ海におけるあらゆる一方的な現状変更の試みに強く反対し、南シナ海における、中国の不法な海洋権益に関する主張、埋立地の軍事化及び威圧的な活動への強い反対を改めて強調した。こうして、国連海洋法条約(UNCLOS)に整合するよう、中国による東シナ海、南シナ海での不当な権益拡張、支配権確立の試みに対抗して、日本はアメリカとともに、船舶の航行及び航空機の飛行の自由のために取り組むという決意を示した。

 このため、日米両首脳は、地域の平和と安定を維持するために協力することで一致した。

 さらに両首脳は、同盟の抑止力及び対処力の強化に取り組むことで合意し、岸田首相は、「ミサイルの脅威に対抗する能力を含め、国家の防衛に必要なあらゆる選択肢」を検討し、「日本の防衛力を抜本的に強化し、その裏付けとなる防衛費の相当な増額を確保する」決意を表明した。すると、バイデン大統領はこれを強く支持した。つまり、ミサイル防衛を含めて防衛力を抜本的に強化すること、そのために防衛費を相当増額することを、岸田政権はアメリカ大統領に約束したのである。

 また、台湾問題について、昨年4月16日のバイデン・菅会談の共同声明では「日米両国は、台湾海峡の平和と安定の重要性を強調するとともに、両岸問題の平和的解決を促す」としていた。しかし、今回の共同声明では、「国際社会の安全と繁栄に不可欠な要素である台湾海峡の平和と安定の重要性」と形容詞を付し、台湾問題の重要性を一層強調する表現へと改めた(太字著者)。今回の両首脳は、「台湾に関する両国の基本的な立場に変更はない」と述べつつ、実は変更があったのだ。

 日米首脳共同声明は、その末尾において、日米両国は「民主主義的な二大経済大国として」、世界における民主的な価値、規範及び原則を支持するとともに、平和、繁栄及び自由が確保される未来のビジョンを推進する義務を負っているとの認識を示した。そして岸田首相とバイデン大統領は、「共にこの責任を引き受けた」と共同声明に記した。一国平和主義は、もはや過去のものである。

 その上で、「両首脳は、2023年に日本がG7(先進7カ国)の議長国を務め、米国がAPEC(アジア太平洋経済協力会議)を主催することに留意」しつつ、この共通のビジョンを推進するため、志を共有するパートナーとの連合を構築していくことの重要性を日米両国首脳が確認して、共同声明の結びとした。その言や良し、である。

◆G7議長国務める日本

 この秋、中国では5年に1度の中国共産党大会があり、来春にはその結果を国家機関に反映させる全国人民代表大会が開催される。こうして、今は見通せない中国情勢が、はっきりと見えてくる頃、日本はG7の議長国になる。その頃には、ウクライナ情勢をめぐる「戦後」秩序づくりも進められているだろう。

 上記の共同声明に記された岸田首相の決断が実践されているならば、日本は、今までにない自信と威信をもって、新たな国際秩序の歩を進めるべくG7の議長国を務めることになる。今から楽しみである。

(あさの・かずお)

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