菅前首相の早期の訪台実現を 浅野 和生(平成国際大学副学長)

【世界日報「View point」:2023年6月13日】https://vpoint.jp/opnion/viewpoint/224294.html

 去る5月16日から20日まで、イギリスのトラス前首相が台湾を訪問した。イギリスの前首相による台湾訪問は、サッチャー元首相の1996年訪台以来、27年ぶりのことだった。

 トラス前首相といえば、首相在任期間こそ短かったが、司法大臣、国際貿易大臣、外務大臣を歴任した保守党の有力政治家である。そのトラス前首相が、首相の座を降りてわずか7カ月にして台湾を訪れた。

 先進7カ国(G7)広島サミット首脳宣言は5月20日発せられたが、「我々は、国際社会の安全と繁栄に不可欠な台湾海峡の平和と安定の重要性を再確認する」と、G7首脳の認識が一致したことを示した。この日に、トラス前首相が台湾にいたことで、イギリスはG7首脳宣言の意図を、行動をもって示した形になった。

◆ウクライナ侵略教訓に

 その後、産経新聞のインタビューに答えたトラス前首相は、ロシアによるウクライナ侵略に言及して「ウクライナを真剣に支援していることを、私たちはロシアに対して早期に、十分に示さなかった」と述べた。アメリカを含むG7、欧州連合(EU)、北大西洋条約機構(NATO)が結束して、予(あらかじ)めウクライナ支援を力強く打ち出していたら、ロシアは安易にウクライナに軍事力を行使しなかったのではないか、という痛切な反省の弁である。

 実際には、西側諸国は結束力を示さず、ロシアが軍事侵攻をした結果、ウクライナは1年余にわたってロシア軍の攻撃にさらされ、東部・南部が占拠されるなど、多数の死傷者を出している。そして未(いま)だ戦争の終結は見通せず、悲劇は続いている。

 習近平氏の中国は、台湾を併合しようとしている。その手段として、武力の行使を排除していない。しかも、台湾を自国の一地方だと宣言する中華人民共和国は、台湾問題への他国の介入を「内政干渉」として退ける。「台湾有事は日本の有事」とは、2021年12月に安倍晋三元首相が発言し、多くの識者が認めるところだが、ひとたび台湾有事が発生すれば、四囲が海の島国・台湾を外から支援することは、陸続きのウクライナに対するより難しい。台湾の悲劇は未然に防がなければならない。

 だから、トラス前首相は、ウクライナの教訓を生かし「台湾を本気で支援することを示すために、できる限りのことをしなければならない」と訴えた。まだ、中国が軍事力行使に踏み切らないうちに、西側の結束を強く、固く示さなければならない。そしてトラス前首相は、「台湾は孤ならず」、イギリスが台湾に寄り添うことを、身をもって示した。

 イギリスと日本は、5月18日の日英首脳会談において「広島アコード」を発し、「欧州大西洋とインド太平洋の安全保障と繁栄は不可分」との認識を共有し、日英は「欧州・アジアにおける互いに最も緊密な安全保障上のパートナーとして、安全保障・防衛協力に一層取り組んでいくことを確認」した。

 そこで台湾有事を未然に防ぐために、日本が台湾と寄り添う姿勢を明示し、日英の結束を示すために、菅義偉前首相が訪台することを求めたい。

 菅前首相は、盟友の安倍元首相が第1期首相の任を1年で降り、再起を目指して雌伏していた2011年9月7日に、台湾安保協会主催のシンポジウム「アジア太平洋地域の安全と台湾海峡の平和」に参加するため、二人一緒に台北に赴いたことがある。主賓は後に総統となる蔡英文さん、特別来賓が安倍前首相と菅前総務大臣だった。そして二人は、日台関係の安全保障上の重要性について相次いでマイクを手に語った。

◆日英の特別な関係確認

 昨年7月8日、安倍元首相が凶弾に倒れた。台湾の、日本の安全を憂えた安倍元首相は、故・李登輝元総統を敬愛し、その墓参のため訪台するはずだった。しかしその念願はかなわなかった。そこで安倍元首相の遺志を継いで、菅前首相が李登輝元総統の墓参を遂げ、併せて日本が台湾に寄り添うことを世界に示してほしい。菅前首相が、蔡英文総統と並ぶ姿を世界に示すことで、日本がイギリスと同様に台湾に寄り添うことをアピールするのである。

 それは日英の特別な安全保障上の関係を確認するにもふさわしい。

(あさの・かずお)

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