【世界日報「View point」:2023年8月8日】https://vpoint.jp/opnion/viewpoint/224833.html
勤務先の大学所在地、埼玉県加須市の中心街に4年ぶりに祭りが返ってきた。その名を「加須どんとこい祭り」という。この夏は全国で祭りが復活して、故郷に人が集い、各地で悲喜こもごもの人情劇が演じられたに違いない。
今や日本の大学の47.5%、284大学が定員割れである。先ごろの中央教育審議会大学部会の予測では、2040年に大学入学者数は今より13万人減少して、大学総定員の約8割にまで下がる。募集停止・大学閉鎖はありふれた風景になるかもしれない。
東京一極集中、大都市集中は、若者世代において顕著である。大学生の年齢で実家を離れて暮らす人は少なくないが、「それなら東京へ」「都会へ」という流れがある。だから、これから入学者減少が18年も続けば、地方の小規模大学は次々と廃校になって不思議ではない。
◆課外活動移転の受け皿
さて、大都市圏に集まった大学生の多くは、卒業後にそのまま大都市圏で就職する。というのは大学では今、1年生の時から大手就職支援企業のインターネット登録を勧めている。学生がそこにプロフィルを書き込み、さらに大学生活の成果を入力し続けると、その学生に適合する企業が紹介されるからである。これによって学生と企業のミスマッチを低減させ、就職率を引き上げようというわけだ。しかし、求人企業がこれら就職支援サイトに搭載させるには、かなりの費用がかかる。だから、地方の中小企業は参入しない。つまりこの仕組みは、大都市圏に進学した学生が、都市部の大企業中心に就職する傾向を助長させている。
ところで中小企業でも、地方大学の就職課にならアプローチが難しくない。こうして地元企業から情報提供があり、大学側に地元に根を下ろす意欲があれば、学生に地域企業の魅力が伝えられる。こうすれば地方大学は地域活性化の人材供給源となる。
また、文部科学省とスポーツ庁は、中学校等の課外活動の、学校から地域への移転を進めている。その背景に、教員の過重労働緩和の要請と、一校あたりの生徒数減少の結果、各学校が従来の部活動を維持できなくなっている実情がある。生徒数が減ればチームスポーツに必要な部員数を維持できないし、生徒数が減れば教員の数も減るから、指導者不足によって部活削減に拍車がかかる。
課外活動を学校から地方へ移転するとなれば、地域に各種スポーツの支援体制が必要である。しかし地域の各種スポーツクラブがあるのは都市部のみで、地方には課外活動の受け皿がない。その点、運動部のある大学には、それなりの施設と指導者があり、競技実績をもつ大学生がいる。だから地域の自治体、教育委員会、各学校と協力する体制が構築できれば、地方大学は課外活動地域化の受け皿になる。
ところで、夏祭りの件である。コロナ禍以前には、平成国際大学は地元町内会の要望に応えて、神輿(みこし)の担ぎ手としてボランティア学生を派遣していた。今年の「どんとこい祭り」復活に際して、地域からの要請に応じて、大学は担ぎ手派遣を再開した。こうして、伝統の祭りの復活を支えることができたのだが、元気な女性や中高年男性が活躍しても、実は、本学学生の派遣なしに祭りの伝統を維持できないのである。
◆地域文化を継承・存続へ
以上、地方の中小企業への人材供給のために、中学校等の課外活動の地域移転を進めるために、地域文化の継承・存続のために、地方大学の存在は不可欠である。そして地方大学を核とする地域活性化から、地方における自然人口増につながる可能性もある。
無論、大学の教職員も、地方活性化の智慧(ちえ)やエネルギーを提供できる。
しかし、財務省と文部科学省は、財政規律健全化と効率性のために、一定以下の比率に定員割れとなった大学の補助金をカットしており、さらにはゼロにしているのが現状だ。これでは地方活性化の核を失って、日本という生命体が、末端から壊死(えし)するばかりとなる。しかも、衰退する地方には大学を支える財力が乏しい。地方の活力を高め、国土の均衡ある発展を図るために、政府は、文化・スポーツの拠点としての地方大学の存続を力強く支援すべきなのである。
(あさの・かずお)
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