「シン・国共合作」を目指す中国  浅野 和生(平成国際大学副学長)

【世界日報「View point」:2023年4月10日】https://vpoint.jp/opnion/viewpoint/223566.html

 中米ホンジュラスが去る3月26日、台湾と外交関係を断絶して中国と国交を樹立、台湾の国交国は過去最低の13になった。3月29日からアメリカ経由で中南米2カ国訪問に向かう蔡英文(総統)に、中国は強烈な先制攻撃を仕掛けたのである。来年1月の総統選挙に向けて与党・民進党に一撃を加え、かつ蔡英文のアメリカ訪問の出端をくじこうと、中国が仕掛けた「外交戦」だった。

 一方、中国は野党・国民党に接待攻勢を仕掛け、国民党政権なら中台関係が改善し、台湾に平和と繁栄が訪れるというメッセージを、台湾の選挙民と国際社会に発信した。どうやら「シン・国共合作」が姿を現したようだ。

◆空と海から安全脅かす

 2月8日から17日まで党副主席の夏立言、3月27日から13日間にわたって馬英九(前総統)が訪中し、中国の歓迎を受けた。夏立言は、北京で「新型コロナ後の両岸関係と交流協力」シンポジウムを、上海では「両岸青年企業家交流活動」を実施したが、台湾弁公室主任の宋濤だけでなく中国共産党最高幹部、いわゆるチャイナセブンの一人、政治局常務委員にして統一戦線工作担当の政治協商会議主席、王滬寧とも会談した。これについて国民党主席の朱立倫は、蔡英文政権で途絶した中国との公的交流の再開、対話の道を拓き、台湾の農民、漁民その他産業の問題解決につながると期待を示した。

 しかし、中国が台湾産パイナップルや釈迦頭(バンレイシ)の輸入を再開しても、輸入禁止にした「加害者」が、台湾農民に対する「救済者」役を演じるだけのことだ。

 さて、中国を訪れた馬英九は、台湾海峡両岸は血を分けた親戚・同胞・同宗であり、言語、歴史と文化を共有し、地理的に隣接している事実を消し去ることはできないと強調した。そして馬政権では中国と23の協定に署名し、中台分断70年来で最も平和で繁栄した相互関係を築いたと自賛した。しかし、馬英九が大陸に向けて飛び立った3月27日から翌朝6時までに、中国軍艦4隻と軍用機9機が台湾周辺で活動し、そのうち3機は中間線を越えた。この直近1週間で中国軍艦25隻と航空機33機が台湾周辺を遊弋(ゆうよく)し、台湾の安全に重大な脅威を与えていたことも事実である。

 国民党は、台湾の中国への併合ではなく、「親米、友日、和陸」と、中台双方が「一つの中国」に属すると認める「92年のコンセンサス(九二共識)」、そしてその「中国」は「中華人民共和国」なのか「中華民国」なのかについて双方別々に述べる「一中各表」で、「相違を残して一致を求め(求同存異)」、「台湾独立反対」の基礎の上に中台関係を促進すると主張している。この点は馬英九政権以来変わっていない。

 しかし、3期目に入った習近平の中国は、台湾併合による「祖国統一」完成を国是として掲げ、武力行使を視野に入れつつ「台湾問題を解決する新時代の共産党総合戦略」により国民党との交流を強化するが、「中華民国」の存在を認めてはいない。江蘇省の共産党書記・信長星は、馬英九との会談で肩書を付けずに「馬さん(馬先生)」と呼び掛け、「台湾地区の元指導者」と称した。「中華民国」も「総統」も決して認めないのである。

 ところで馬英九は、国父・孫文の中山陵を拝謁した際、「和平奮闘・振興中華」と揮毫(きごう)し、その末尾に「馬英九 百十二、三、二十八」と記した。つまり「中華民国百十二年」の元号を、ただ「百十二」と記し、献花の署名を「中華民国総統」ではなく「中国国民党前主席馬英九」としたが、これには自らを矮小(わいしょう)化するものだとの批判もあった。

 それでも朱立倫の国民党は、我々の「九二共識」は「中華民国」であって「一中各表」なしに「九二共識」はないと強調している。つまり、中華人民共和国による台湾併合を認めてはいない。しかし、馬政権時代よりさらに強大化し、習近平独裁化が昂進(こうしん)した中国を相手に、台湾は「求同存異」でいけるのか。「シン・国共合作」は制御不能の怪物にならないか。

◆対抗するか関係改善か

 いずれにしても、台湾は民主主義国家である。価値観を共有する欧米日、とりわけ米中対峙(たいじ)に向かうアメリカとの関係強化で中国に対抗する民進党と、「親米、友日、和陸」で中台関係改善を進める国民党との間で、次期政権を選択するのは台湾の民意である。(敬称略)

(あさの・かずお)

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