王毅「尖閣暴言」に隠された狡猾ロジックの全貌  仲村 覚(日本沖縄政策フォーラム理事長)

 去る12月1日、参議院議員会館において「台湾関係法制定決議大会 今こそ台湾関係法制定を!」(主催:台湾支援友の会、後援:全国教育問題協議会)が開かれた。

 基調講演は「『日本版・台湾関係法』制定を今こそ」(月刊「正論」2018年9月号)の論考もあるロバート・D・エルドリッヂ氏(元沖縄米軍海兵隊政務外交部次長)。冒頭、石垣市の中山義隆市長によるビデオメッセージに続き、来賓として2005年10月に日本で初めて「日本版・台湾関係法」制定を提唱した浅野和生・平成国際大学教授や台湾独立建国聯盟日本本部の王明理・委員長などが挨拶。

 また、賛同者として情報アナリストの山岡鉄秀氏がショートスピーチを行い、主催者側からは日本沖縄政策フォーラムの仲村覚・理事長と議員立法支援センターの宮崎貞行・代表がスピーチした。

 いずれの発言も、本会が2013年に発表した政策提言「『日台交流基本法』を早急に制定せよ」および2019年に発表した政策提言「我が国の外交��ぢ安全保障政策推進のため『日台関係基本法』を早急に制定せよ」に沿った話で、新たにこのような動きが出てきたことをおおいに歓迎したい。

 このイベント内容は、主催した台湾支援友の会がYouTubeにアップしている。ダイジェスト版だが、発言のポイントは伝わってくる。下記にそのURLを紹介したい。

 登壇者の一人、日本沖縄政策フォーラム理事長の仲村覚氏はこのほど「iRONNA」に「外務省は知らぬふり! 王毅「尖閣暴言」に隠された狡猾ロジックの全貌」を寄稿した。茂木敏充外相との共同記者会見で尖閣中国領有論をぶち上げた中国の王毅外相の発言は、中国の狡猾ともいうべき「四つの原則的共通認識」という捏造された壮大な歴史観に基づいていることを解き明かす、切れ味するどい論考だ。

 仲村氏は「尖閣諸島の実効支配を強化する中国の意図は、単なる尖閣諸島やその海域の支配ではなく、沖縄の強奪でありサンフランシスコ講和条約体制の打破である」と剔抉、そのために琉球独立工作を仕掛け、在沖縄米軍を撤退させようと狙っていると説く。

 それを阻止するためには「日米台の同盟による中国封じ込め体制の強化」に向け日本版台湾関係法の制定が急務だと指摘している。メルマガで紹介するのはいささか長い論考だが、全文を下記にご紹介したい。

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仲村 覚(なかむら・さとる)昭和39年(1964年)、沖縄県那覇市生まれ。昭和54年(1979年)、陸上自衛隊少年工科学校(横須賀)入校。卒業後、航空部隊に配属。退官後、複数の企業勤務を経て、日本は沖縄から中国の植民地になるという強い危機感から「沖縄対策本部」を設立して活動を開始。平成29年(2017年)に「一般社団法人・日本沖縄政策フォーラム」を設立し理事長に就任。新聞雑誌等に沖縄問題の第一人者として論文を多数寄稿。「ビートたけしのTVタックル」(テレビ朝日系)などに出演。埼玉県在住。主な著書に『そうだったのか! 沖縄』(示現社)『沖縄の危機』(青林堂)『沖縄はいつから日本なのか─学校が教えない日本の中の沖縄史』(ハート出版)など。

—————————————————————————————–外務省は知らぬふり! 王毅「尖閣暴言」に隠された狡猾ロジックの全貌仲村覚(日本沖縄政策研究フォーラム理事長)【iRONNA:2020年12月10日】https://ironna.jp/article/16447

 11月24〜25日に来日し、尖閣諸島(沖縄県)の領有権を主張する暴言を繰り返した中国の王毅外相に対し、茂木敏充外相はその場で即座に毅然とした反論ができなかった。

 公式な外交の場で、尖閣諸島を実効支配しているのは中国だという国際発信を許してしまっただけに、茂木外相は多くの国民のみならず、自民党内部からも強い批判を受けた。

 批判は当然で、万一紛争が起きたとき、日本を著しく不利な立場に追い込んでしまう危険な対応だ。だが、中国の野望は決して尖閣諸島という小さな島では収まらない。

 今年に入ってから中国が尖閣諸島の領有を主張する際に必ず使っているフレーズがある。それは、「四つの原則的共通認識」という難解な言葉だ。

 これはすでに、中国外務省の報道官が5月以降2度にわたって、尖閣諸島を巡って日本を非難する際に使っている。5月11日には、人民日報のネットサイト「人民網日本語版」に、趙立堅報道官の「われわれは日本側に四つの原則的共通認識の精神を遵守し、釣魚島問題において新たなもめ事が起こることを避け、実際の行動で東中国海情勢の安定を守るよう要求する」と日本を批判するコメントが掲載された。

 そして11月26日の王毅外相の記者会見での発言が3度目の言及で、「われわれは3点の希望を持っている」とし、その1点目は「双方が4項目の原則的共通認識を堅持すること」(通訳者による日本語訳)と主張した。

 つまり、中国は「四つの原則的共通認識」に基づき、日本は尖閣諸島の主権を放棄せよと主張し、日中間には既にそのような共通認識があるというのだ。これに反論しなかったということは、その共通認識の存在を認めてしまったということになる。

 だが、この重要な背景を日本の大手メディアは一切報道せず、外務省はホームページでこの会談の報告を実施しているものの、この発言内容については完全無視である。

 そもそも中国の政治発言には意味のない嘘も言葉もない。日本人の嘘はとっさのいいわけが多いが、中国の嘘には国家的戦略と意思がある。このような嘘は、その意図を見抜くまでは徹底的に分析し、手を打たなければ大きな謀略にはまり、取り返しのつかないことになるのだ。

 では、中国が「四つの原則的共通認識」という言葉を使った意図はいったい何なのか。外務省のホームページの中に、中国に関する2014年11月7日付の「日中関係の改善に向けた話合い」という部分がある。その1項目に「双方は、日中間の四つの基本文書の諸原則と精神を遵守し、日中の戦略的互恵関係を引き続き発展させていくことを確認した」とある。

 中国が使う「四つの原則的共通認識」は、全くのデタラメではなく、表現は異なるが、日本の外務省と取り交わしていた言葉だったのだ。

 「四つの原則的共通認識」とは日中間で合意した四つの政治文書のことで、1972年の「日中共同声明」、78年の「日中平和友好条約」、98年の「日中共同宣言」、2008年の「日中共同声明」を指す。

 つまり、72年以来、日中間で合意を取り、約束してきた日中関係の基本方針のことだ。王毅外相の発言を意訳すると「日本はこれら日中間の政治文書に従って尖閣諸島の主権を放棄せよ。これこそ日中関係の基本だ!」と主張したことになる。

 これは、日中関係の根本を揺るがす大事件だ。日本にとっては、日中関係を継続することは、自ずと尖閣の主権を放棄することになり、日中友好と尖閣防衛は両立できなということになる。

 中国を担当している外務官僚はあの記者会見の場で、王毅外相の発言の重大さに気がつかないはずはない。おそらく、外務省は対中外交の失敗を隠すために「四つの原則的共通認識」発言の意味を理解しながら、あえて意図的に隠し、外務大臣にも伝えていない可能性が高い。

 いったいどのような思考回路からそのような傲慢な発想が出てくるのだろうか。これまでに人民網などに掲載され筆者が確認した、中国当局が尖閣諸島や沖縄について発信した複数の主張を分析して、彼らの歴史捏造ストーリーを分かりやすくまとめると以下のようになる。

<第二次世界大戦で米国は中国の代わりに琉球を日本から取り返した。しかし、米国は日本と締結したサンフランシスコ講和条約を根拠に琉球を中国に返さず、日本との密約により勝手に施政権を日本に譲渡した。

 中国は、サンフランシスコ講和条約には参加しておらず、それは不法で無効であり断じて承認していない。サンフランシスコ講和条約の3項の権利を米国が放棄して実現した72年の沖縄返還協定も茶番である。

 日中間の講和条約は、あくまでも72年の日中共同声明である。その第3項に「日本はポツダム宣言第8項に基づく立場を堅持する」と明記されており、ポツダム宣言の8条には「カイロ宣言ノ条項ハ履行セラルベク又日本国ノ主権ハ本州、北海道、九州、四国及吾等ノ決定スル諸小島ニ局限セラルベシ」と定めている。

 戦後の日本の版図に琉球諸島は全く含まれておらず、中国に返還するべきものだ。ましてや釣魚列島にいたっては論外である。日米両国はカイロ宣言、ポツダム宣言を遵守し、琉球の主権を放棄すべきだ。>

 「四つの原則的共通認識」を遵守せよという言葉の裏には、このような捏造された壮大な歴史観があったのだ。結局、中国は、琉球は古来より中国の一部であり、それを奪い取ったサンフランシスコ講和条約と沖縄返還協定を認めず、カイロ宣言とポツダム宣言に基づいて日本は琉球の主権を放棄せよと主張している。もはや、日中友好と尖閣・沖縄防衛は両立させることは不可能なのだ。

 中国のこのような主張は、一見突拍子もないように聞こえるが、日中友好運動の歴史をたどってみると、その立場は首尾一貫していることが見えてくる。

 大東亜戦争終結後の1949年、中国共産党は中国国民党との内戦に勝利し「中華人民共和国」を樹立。翌年6月朝鮮戦争が勃発、中国人民解放軍も参戦。同年10月1日、東京に日中友好協会が発足した。

 当時は、講和条約の在り方で世論が真っ二つに分かれていたが、日中友好協会は、中国を含む社会主義国も講和に参加する全面講和を推進。さらに、全占領軍の撤退と再軍備反対を主張していた。

 それは、まさしくポツダム宣言に基づく講和で、現在中国が主張していることと全く同じだ。幸い当時の吉田茂首相は、米英主導の単独講和で講和条約を締結し、同時に日米安保条約、翌年に日華平和条約を締結した。

 そのとき、日米台による共産主義勢力封じ込め体制ができた。当時の中国は国連の常任理事国ではなく、逆に国連総会が中国向け禁輸勧告を出し、さらに対共産圏輸出統制機構(COCOM)の対中国版といえる対中国輸出統制委員会(CHINCOM)が設置され、国際社会から厳しい経済制裁を受け、日本も対中貿易は禁止されていた。

 日中友好運動史(日本中国友好協会正統中央本部著)には、「日中友好運動はこのときから、いわゆるサンフランシスコ体制=『中国封じ込め』体制への抵抗という新しい段階に入っていった」と記されている。

 日中友好協会はそれから20年間、物々交換の民間貿易という蟻の一穴からさまざまな民間交流や経済交流という名の対日工作を行い、1972年の日中共同声明によって日本との国交を樹立した。

 その20年間は同時に、安保闘争や沖縄復帰闘争、原水爆禁止運動に深く関わったが、佐藤栄作首相が「米軍の基地機能を残したまま施政権の返還」を実現し、日米同盟による封じ込めを破ることはできなかった。だが、日華平和条約の破棄により、日本は中華民国と断交し中国包囲網の一部が破られたのだ。

 中国はそれから50年かけて軍事力と経済力を蓄えてきた。実力のついた今、サンフランシスコ体制の打破に向けて、日米にさまざまな工作を仕掛けている。

 2010年に尖閣諸島沖で起きた中国漁船衝突事件直後からは、琉球独立工作を仕掛け、5度も「琉球沖縄の人々を先住民族としてその権利を保護すべき」という趣旨の国連勧告を日本に対して出させた。国連による先住民族の権利宣言の30条には「先住民族の土地では軍事活動は行わない」という決まりがあり、日本政府も批准している。中国はそれを根拠に国際世論に訴え、在沖縄米軍の撤退を狙っているのだ。

 尖閣諸島の実効支配は、単なる局地的な軍事戦略ではなく、カイロ宣言とポツダム宣言を錦の御旗として、戦後の国際秩序を破壊するトリガーの役割を担っている。そのトリガーが引かれたとき、中国は日本に対して琉球の主権放棄を求めるだろう。

 そのときは、呼応するように沖縄のごく一部の琉球独立派が声を上げ、沖縄のメディアが針小棒大に報道し、全米主要メディアも「尖閣は琉球のもの!琉球独立こそ平和への道!沖縄が独立宣言!」などと大々的に報道する可能性がある。

 また、米国の主要メディアは、中国封じ込め政策をとるトランプ米大統領に異常なほど批判的で、それは中国の統一戦線工作に組み込まれている可能性が高いからだ。そうなると、米国の世論は米軍の沖縄撤退に傾きかねない。

 米軍が撤退した場合、最後の頼みは自衛隊だが、もし、独立宣言をした沖縄県知事が人民解放軍の沖縄の駐留を認めた場合、果たしてそれを阻止することができるのだろうか。人民解放軍が沖縄という軍事的要所を獲得したら、その先はどうなるかは想像に難くない。

 以上のことから、尖閣諸島の実効支配を強化する中国の意図は、単なる尖閣諸島やその海域の支配ではなく、沖縄の強奪でありサンフランシスコ講和条約体制の打破であることが見えてくる。

 そしてその先にあるのは、中国による新たな国際秩序だ。それは、東アジアが一党独裁の全体主義社会に組み込まれてしまうことを意味する。その圧力と対峙している日本は単なる尖閣防衛の強化ではなく、まずは、サンフランシスコ講和条約締結の原点に戻り、日米台の同盟による中国封じ込め体制の強化に向けて大きく舵を切るべきではないのか。この日米台同盟の中心に沖縄が位置するため、中国の沖縄分断工作をも封じ込める力を持っている。

 具体的には、日本版台湾関係法の制定が急務だが、何も新しいことをやるわけではない。中国の罠に掛かかった日中共同声明の締結前に時計の針を戻すだけだ。その先にこそ、中国の全体主義による世界支配の野望を阻止し、自由主義諸国による開かれた未来が見えてくるのではないだろうか。

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