日本版「台湾関係法」を急げ!  柿沢 未途(衆議院議員)

 本会常務理事の浅野和生・平成国際大学教授が2005年10月に提案し、それを受けて本会が2013年より制定を提言している「日台交流基本法」をめぐり、最近、新たな動きが出てきています。

 昨年10月26日には、台湾に友好的な日本の地方議員約300人が参加する全国日台友好議員協議会(藤田和秀会長)による6回目の「日台交流サミット」が石川県加賀市で開催され、採択した「加賀宣言」では「日台の外交・安全保障政策推進のため『日台交流基本法』を早急に制定すること」と提言しました。

 12月1日には湾支援友の会主催により開催した「今こそ日本版台湾関係法成立を」では、月刊「正論」に「今こそ日本版『台湾関係法』の制定を」(2018年9月号)を発表していたロバート・D・エルドリッヂ氏や仲村覚・日本政策研究フォーラム代表などが制定を訴えました。

 本年に入って、3月15日には石垣市議会において「『日台関係基本法』制定を求める意見書」が賛成多数で可決されたことは、本誌3月16日号でお伝えしたとおりです。

 本誌3月17日号では、浅野和生氏の「来年9月、現状と国益に合致しない日中共同声明が50周年を迎える前に、日台関係に新たな法的基礎を置く『日台交流基本法』を制定するよう、国会の奮起を促したい」とする論考「中国との3声明を換骨奪胎した米国」を紹介したばかりです。

 この浅野氏の声に応えるかのように、衆議院議員の柿沢未途(かきざわ・みと)氏が「台湾と日本は共通の地政学的脅威にさらされている『運命共同体』と言っても過言ではない」「日本版の『台湾関係法』を制定し、台湾との外交・安全保障上の協力関係を公式に行えるようにすべきだ」と主張しています。

 いささか長い論考ですが、私ども日本李登輝友の会の制定理由とも相通ずる観点ですので、下記に全文をご紹介します。

—————————————————————————————–日本版「台湾関係法」を急げ! 対中国戦略に建前論はもういらない柿沢 未途(衆院議員)【オピニオンサイト「iRONNA(いろんな)」:2021年3月17日】https://ironna.jp/article/17105?fbclid=IwAR1ya8HRvpnREDd01sIBPp6E7nznOTVrKP6wjWxU_yHJOZRh45INwXGpYKI

 先日施行された中国の国内法である中国海警法は、国際法で認められていないにもかかわらず、領海の外側の接続水域や排他的経済水域(EEZ)、そして大陸棚までもが自国の「管轄海域」として航行が認められている他国の船舶を検査したり、航行を制限する権限を中国海警局に勝手に与えている。

 あまつさえこの法律では、「管轄海域」で「国家主権、主権的権利、管轄権」が「不法に侵害された、または不法に侵害される緊迫した危険がある時」には、武器使用を含む一切の措置がとれるとしている。

 これは中国自らが批准国でもある国連海洋法条約を無視した国際法違反の野蛮な国内立法であり、国際社会の規範を逸脱した非常識な立法と断じざるを得ない。

 そして中国海警法が射程に入れていると思われるのが、いわゆる「第一列島線」の内側の海域全体を中国の「管轄海域」として、中国海警局ならびに中国海軍の支配下に収めようという狙いである。

 第一列島線とは、中国がこれまた勝手に引いた海軍・空軍の戦力展開の目標となる地図上のラインであり、対米防衛ラインとして設定されているものである。日本列島の九州・沖縄から台湾、そしてフィリピンに伸びている。

 中国としては仮に対米戦争になったら日本列島を含む第一列島線を最前線として、米軍と正面衝突する腹づもりだということになる。

 そのために第一列島線の内側の日本海や東シナ海を中国のいわば内海として日本やその他の国から奪い取り、掌中に収めてしまおうというのだろう。これはとんでもない思惑であり、このような中国のたくらみは絶対に阻止しなければならない。

 そこで重要になるのが台湾だ。第一列島線を日本列島から延ばした延長線上にあるのが、台湾であるからだ。そして中国は台湾を自国の一部とみなし、武力統一の選択肢を捨てていないどころか、最近でも香港のような「一国二制度」を断固として拒絶する蔡英文政権に対し、武力による威嚇をたびたび加えている。

 今年7月は中国共産党の結党100周年を迎えるため、記念すべき節目の年である。習近平国家主席としても、2期目の任期満了を迎える来年秋の党大会後に最高権力者の地位を保ち、長期政権を続けられるよう国内でその布石を着々と打っているとされる。

 だからこそ、エポックメイキングな偉業として尖閣諸島や台湾に手を出してくるのではないかと警戒する観測は絶えない。

 つい先日の今月9日、米インド太平洋軍のデービッドソン司令官が米連邦上院軍事委員会で証言し、「中国は今後10年以内、いや6年以内に台湾を併合しようとすると信じる」と、中国による台湾進攻の差し迫った可能性に警戒を露わにしている。

 また、今月には米国のブリンケン国務長官、オースティン国防長官が初来日にあたり、米国務省が報道官声明を出し、尖閣諸島を念頭に「米国はいかなる東シナ海の現状の一方的な変更、またはそれら島々の日本の施政権を損なう試みに反対し続ける」と、強いコミットメントを発している。

 このように、いわば台湾と日本は共通の地政学的脅威にさらされている「運命共同体」と言っても過言ではない。

 そもそも有事の際の米軍との協力について規定した1999年の周辺事態法(現重要影響事態法)は、96年の米クリントン政権時の「台湾海峡危機」の発生を受けて、台湾有事の発生を想定して制定された法律であったはずだった。

 そのため、仮に台湾有事となれば、日米は相互に協力して事態対処を進めることになるのは間違いないだろう。だが、それ以前に台湾有事はわが国のシーレーンに致命的な影響を与え、沖縄を含む南西諸島の島嶼(とうしょ)防衛をも脅かし、「周辺事態」どころか「日本有事」そのものだとも言える。

 もちろん台湾の蔡英文政権も有事に対する備えを怠ってはいない。現代型F16戦闘機を66機、M1A2エイブラムス戦車108両、地対空ミサイルや対艦ミサイルなどを米国から購入する大型契約をたて続けに結んでいる。

 最新鋭装備の購入契約の総額は174億ドル(約1兆8千億円)と台湾の年間国防予算を上回る規模にのぼっており、対中配慮から台湾への武器売却に消極的だったオバマ政権時と比べて大きな変化である。もっとも、それが中国の反発を引き起こし、先述のような数々の威嚇行動にも結びついている。

◆進まない日台協力

 しかるに日本の対応はどうかというと、日本が台湾を安全保障上の共通利害を有しているカウンターパートとして「重視している」と言うに言えない状況があるのだ。

 仮に中国が台湾に対して軍事的冒険に出るとすれば、日本は米国と共同でそれを阻止しなければならない。先述の「重要影響事態法(旧周辺事態法)」に基づき、「そのまま放置すればわが国に対する直接の武力攻撃に至るおそれのある事態」として「重要影響事態」と認定し、同盟国である米国の軍事行動に対して日本の自衛隊は後方支援等の共同対処を求められることになるはずだ。日本自身の「存立の危機」に直結しかねないのだから自衛隊が動くのは当然だろう。

 しかし、平時における日本の自衛隊と台湾の軍は、果たしてどのようなコミュニケーションをとっているのだろうか。「今、そこにある危機」に備えて、緊密な連携や情報交換を行っているのかというと、残念ながらそうではない。

 日本と台湾では軍対軍、いわゆるミリ・ミリ(ミリタリー・トゥ・ミリタリー)の協力関係がないのである。これだけ地理的に近接し、安全保障上の共通利害を有していながら、両者による合同訓練や情報偵察衛星やレーダー情報といったインテリジェンスレベルの相互交換も(少なくとも公式には)行われていないのだ。

 なぜそうなっているのか。理由は「台湾は国ではない」からだ。国ではない台湾とは国交がなく、「一つの中国」原則を支持する日本が台湾の軍を独自の軍隊とみなして公式に対話することはできないというわけだ。

 しかし、同じく「一つの中国」原則を堅持している米国(*編集部註)は台湾と軍事協力しているではないか。数々の最新鋭の武器売却が米国の意思を示す通りであるし、戦闘機パイロットへの訓練供与やサイバー攻撃に対処する両者の合同訓練も行われている。米国と日本のこのような違いはどこから生まれてくるのであろうか。

*編集部註:米国が堅持しているのは「『一つの中国』政策」(”one China” policy)で、中国が主張している 「『一つの中国』原則」(‘One China principle’)ではない。米国の「『一つの中国』政策」は「3つの米中 共同コミュニケ」「台湾関係法」「台湾に対する『6つの保証』」の3つからなる。中国の「『一つの中国』原則」 は、「中国は世界でただ一つ」「台湾は中国の不可分の一部」「中華人民共和国は中国を代表する唯一の合法政 府」という3つの主張からなっている。

 米国には台湾への軍事協力と防衛について規定する「台湾関係法」があり、上記のような武器供与や訓練は同法に基づいて承認されている。

 同法第2条では「同地域(台湾)の平和と安定は、合衆国の政治、安全保障および経済的利益に合致し、国際的な関心事でもあることを宣言する」と規定されており、中華民国(台湾)との国交断絶後も外交・安全保障上の協力関係を継続する法的根拠となっている。

 上記の「台湾関係法」第2条の規定に示されている米国の認識は、日本の私たちが台湾に対して抱いている認識とほとんど変わらぬものではないだろうか。ところが国会議員の中でも随一の親台派の1人として衆目の一致している岸信夫防衛大臣に衆院安全保障委員会で質問したところ、以下のような認識が返ってきた。

「台湾は、わが国にとって、自由や民主主義、基本的人権、法の支配といった基本的価値を共有している、緊密な人的往来、そして経済関係を有しています極めて重要なパートナーという位置づけであります。そして、大切な友人でもあるところです」とのことだ。

 さすがお兄さまの安倍晋三前総理大臣と同じく親台派の岸防衛相と言いたいところだが、ここには米国の「台湾関係法」とは違って、日本にも台湾にも死活的な問題であるはずの「安全保障」の一言が外されている。「安全保障上の共通利害を有する」という点について、防衛相として明言を避けているのである。

◆まだ遅くはない

 そして仮に台湾有事となった場合、日本にとってそれを「重要影響事態」と認定して対処行動を自衛隊が取る可能性が当然あるわけだが、その可能性を問うた私の質問に対しても、岸防衛相の答弁は以下の通りであった。

「今、台湾有事となれば重要影響事態になるかというご質問がございました。これも、この重要影響事態というものについて、政府が全ての情報を総合して客観的、合理的に判断するということになっておりますので、一概に述べるということは困難でありますが、その判断要素について申し上げるならば、実際に武力紛争が発生しまたは差し迫っている等の場合において、個別具体的な状況に即して、主に、当事者の意思、能力、事態の発生場所、事態の規模、態様、推移を始めとして、当該事態に対する日米安保条約の目的の達成に寄与する活動を行う米軍その他の外国軍が行っている活動の内容等の要素を総合的に考慮して、わが国に戦禍が及ぶ可能性、国民に及ぶ被害等の影響の重要性などから客観的、合理的に判断をするということになると考えておるところでございます」

 中国が台湾に手を出した場合は日本は米国とともに行動する用意があると、言っていないわけでもないが、言っているわけでもないという歯切れの悪い答弁である。「重要影響事態」にならないわけがないと思うが、それすら「中国を刺激する」との配慮からか明言できないのが今の日本政府のスタンスなのである。

 今からでも遅くはない。私は日本版の「台湾関係法」を制定し、台湾との外交・安全保障上の協力関係を公式に行えるようにすべきだと考える。

 一足飛びに防衛装備品の供与や共同訓練にまで行かなくてもいい。台湾の呉?燮(ジョセフ・ウー)外務大臣はインタビューに対して「まずは非軍事領域におけるサイバー攻撃に対する対処などの安全保障対話をやりましょう」と呼びかけている。日本の立場をおもんぱかっているのだ。

 にもかかわらず、それにも日本側が積極的に応じていないのが現状だ。中国の反発を懸念しているのだろうが、わざわざ「非軍事領域で」と台湾側が言っているのにそれも拒否するというのはあまりにも及び腰ではないだろうか。

 このままインテリジェンスの情報交換すら皆無のままで台湾有事が起これば、日本の自衛隊は台湾の軍と有効な協力ができずに、結果として日本の国益すら守り切れずに損なってしまう可能性もあるだろう。これだけ親日的で、共通の利害を有する、いわば「運命共同体」でありながら、日本が台湾を建前論でこれ以上ないがしろにするのは許されない。

 19年12月には、私自らが団長となった超党派訪問団で台湾に行き、呉外相や、ITを活用した新型コロナウイルス対策で世界の注目を集めた話題のオードリー・タン(唐鳳)IT担当大臣にも対面する機会を得た。

 中国海警法で脅威のレベルを上げてきた今こそ、中国による不測の行動に対して日本・台湾・そして米国とが緊密な連携により事態対処できる基盤を構築すべき時である。第一列島線の上にある私たちが中国の覇権のもとに置かれるような未来を現実のものとしてはならない。

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柿沢未途(かきざわ・みと)衆院議員。昭和46年、ベルギー・ブリュッセル生まれ。東京大法学部卒。NHK記者、都議会議員、維新の党政調会長、幹事長などを歴任し現職。平成21年にみんなの党から出馬した衆院選で初当選し、現在4期目(無所属)。著書に『柿沢未途の日本再生』(東川社)がある。

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