日本には「台湾関係法」さえないことを残念に思う  謝 長廷(駐日台湾代表)

 このところ、台湾の駐日大使に相当する台北駐日経済文化代表処代表の謝長廷氏がめまぐるしく日本各地を訪問し、4月26日、鹿児島市で東京オリンピック・パラリンピック大会で台湾のホストタウンに登録している奄美大島の大島郡龍郷町(たつごうちょう)、曽於郡大崎町(おおさきちょう)と台湾の友好表敬記念式典に出席した翌27日、午前中は塩田康一知事を訪問、午後はオンライン形式で行われた鹿児島県議会台湾との友好交流促進議員連盟と屏東県議会台日友好議員聯盟による「友好交流覚書」の署名式に立ち会っています。

 帰京後の30日には自民党青年局(牧島かれん青年局長)が主催した研修会で、最近の台湾情勢や日台関係などをテーマにあいさつや講演を行ったそうです。

 続いて西日本新聞のインタビューを受け、謝長廷代表は日米首脳会談を高く評価しつつ、台湾としては「まずは防災や災害救助などに関する台日米の共同訓練」という具体的な行動に期待する旨を述べつつも、「日本には『台湾関係法』(台湾に関する基本政策を定めた米国の国内法)さえないことを残念に思う」とも述べ、法治国家日本に台湾に関する法律が1つもない現状を指摘しています。

 本誌読者ならお気づきのように、「防災や災害救助などに関する台日米の共同訓練」とは、国際・地域テロ、海賊、捜索・救難、大規模自然災害など「非伝統的海洋安全保障」と言われる分野のことで、すでに本会は2018年の政策提言「台湾を日米主催の海洋安全保障訓練に参加させよ」で提言しています。

 日本版の台湾関係法というべき「日台交流基本法」制定についても、2013年と2019年の2度にわたって提言してきています。

 西日本新聞のインタビューでは唐突に「日本には『台湾関係法』さえないことを残念に思う」と出てきますのでいささか分かりにくいかもしれませんが、本会提案の日台交流基本法は、日米同盟を組む一方の米国が積極的に台湾との関係強化を図る措置を講じているにもかかわらず、日本には台湾に関する法律が一つもなく、これでは日米同盟のバランスが取れないばかりでなく、これまでに結び、今後も結ばれる取決めや覚書の法的基礎がなく、法律で担保できない極めて不安定な状態にあることを憂え、日本と台湾の情報の共有を主眼とした法律の制定を提言する内容です。

 謝長廷代表は本会提言に深い理解を示されているお一人で、先般の自民党の国会議員連盟「保守団結の会」でも日台交流基本法の制定に言及しています。下記に西日本新聞のインタビュー記事をご紹介します。 *日本李登輝友の会 2018政策提言「台湾を日米主催の海洋安全保障訓練に参加させよ」(2018年3月25日発表) http://www.ritouki.jp/index.php/info/20180423/

*日本李登輝友の会 2019政策提言「『日台交流基本法』を早急に制定せよ」(2019年3月24日発表) http://www.ritouki.jp/index.php/info/20190630/

—————————————————————————————–台湾駐日代表、有事備え「日本は行動を」 共同声明評価「米含む演習必要」【西日本新聞:2021年5月3日】https://www.nishinippon.co.jp/item/n/733138/

 日米両国は4月16日に開かれた首脳会談の共同声明で「台湾海峡の平和と安定の重要性」を強調した。台湾の駐日大使に相当する謝長廷・台北駐日経済文化代表処代表は西日本新聞のインタビューに応じ、台湾問題を52年ぶりに明記した声明を高く評価。有事に備えた共同訓練の実施など具体的行動を日米に求めた。 (聞き手は久永健志)

── 今後の日米同盟の「羅針盤」となる共同声明では、同盟を一層強化して台湾問題などで中国に対抗する姿勢を明 確に打ち出した。

「日米が台湾周辺の安全保障に関心を寄せていることに心から歓迎、感謝する。台湾は東アジアの『第1列島線』の要衝に位置し、地域の平和と安定に重要な役割を果たしている。インド太平洋地域の繁栄と安定には、台湾海峡の平和と安全が直結している。今後も自由や民主主義といった理念を共有する国々が、台湾海峡の平和と安定にコミットすることを期待する」

──「平和と安定」を強調した日米両政府に、台湾は何を期待するか。

「台湾は具体的な行動を期待する。例えば、まずは防災や災害救助などに関する台日米の共同訓練だ。そして日本の自衛隊を含めた防衛面での交流や研修などに広げていくべきではないか。有事に備えて普段から演習、訓練をしておかなければならない」

「インド太平洋地域の平和と安定の観点では、台日は運命共同体である。台湾が危うくなれば、日本の将来も危うい。台湾は自由民主陣営の最前線であり、自己防衛能力の強化に努めているが、いま中国に単独で対抗できる国は米国以外にない。台日米は経済力なども戦略的に運用し、対抗していかなければならない」

── 日本は経済面で中国依存度が高く、政府も台湾や人権などの問題で中国を刺激することによる経済的な不利益を 懸念している。

「日本が中国と平和的に共存したいと考えていることは理解できる。日本は中国と国交があり台湾との外交関係はないが、台湾との地方間、民間の交流はもっと盛んに行っていくべきだ。こうしたことが、国の台湾政策への働き掛けにもなるだろう。日本には『台湾関係法』(台湾に関する基本政策を定めた米国の国内法)さえないことを残念に思う」

── 中国の習近平指導部は、台湾に対して「一国二制度」に基づく統一構想を提示している。

「台湾では80%の人がこれに反対しており、蔡英文総統も民意を踏まえて明確に受け入れないと宣言している。中国が台湾に見せてきた香港の一国二制度は既に“死刑宣告”を受けたではないか。これを見た台湾の人は、中国のリーダーの言うことを信用しない」

── 米軍幹部が3月、「6年以内に中国が台湾を侵攻する可能性がある」と証言している。それほど緊張が高まってい るのか。

「米軍のプロとしての観察と、相応の根拠があっての発言だろう。ただ私の考えでは、中国も具体的に『いつ』と決めているわけではなく、力の動向を注視しているのではないか。台湾と米国などの関係がさらに強固になれば、中国も考えるはずだ。中国にとって台湾攻撃は、政権の力を強める目的がある。成功する見込みがなければ踏み切れないだろう」

「中国軍が近年、台湾海峡周辺で頻繁に活動している。台湾周辺空域に出現した中国軍機は昨年100回を超え、うち6回は海峡の中間線を越えて台湾側に侵入した。今年は2月までで40回、延べ90機だ。4月12日には25機が台湾の防空識別圏に侵入した。中国による緊張をエスカレートさせる挑発行動の狙いは、実力で現状を徐々に変更しようとすることにある」

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謝長廷氏台湾大卒。京大大学院に留学し、法学博士課程修了。台湾で弁護士として活動した後、政界入り。高雄市長、民進党主席などを経て、2005〜06年に陳水扁政権で行政院長(首相)を務めた。08年の総統選に同党候補として出馬したが、国民党の馬英九氏に敗北。16年6月から現職。知日派の重鎮として知られる。74歳。

【ワードBOX】第1列島線沖縄、台湾、フィリピンを結ぶ軍事戦略上の海上ライン。1982年に当時の中国の最高指導者、〓小平氏の意向を受け、海軍司令官だった劉華清氏が打ち出した概念とされる。他国の侵入を阻止する防衛線として重視し、制海権を握る目標にしていた。第1列島線の外側に、伊豆諸島からグアム・サイパン、パプアニューギニアをつなぐ第2列島線がある。(※〓は「登」に「おおざと」)

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