日米同盟の強化にもつながる「日台交流基本法」の早期制定を  黄 文雄(文明史家)

【黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」:2020年10月28日号】*読みやすさを考慮し、小見出しは本誌編集部が付したことをお断りします。

◆「日台交流基本法」の早期制定を提言する「加賀宣言」が採択

 10月26日、石川県加賀市で「日台交流サミットin加賀」という日台友好促進の会が開催されました。

 この「日台交流サミット」というのは、日本と台湾の地方議員連盟の連携を含めることを趣旨として、2015年の石川県金沢市で開催されて以降、毎年行われ、日台友好に関する宣言が採択されています。今年は6回目で、来年は兵庫県神戸市での開催が予定されています。

 今年は新型コロナウイルスの影響により、台湾の議員は訪日できませんでしたが、それでも300人以上の日本の各地方議員や日台関係者が集まりました。

 サミット冒頭では台北駐日経済文化代表処(大使館に相当)の謝長廷代表が挨拶し、また、台湾からは蔡英文総統、桃園市の鄭文燦市長、台南市の黄偉哲市長、高雄市の陳其邁市長からの祝電メッセージのほか、頼清徳副総統からのビデオメッセージが寄せられました。

 昨年9月、富山市で行われた日台交流サミットでは、台湾のWHOや国際民間航空機関(ICAO)、アジア太平洋地域における経済連携協定(CPTPP)などの国際組織への参加支持を表明する「富山宣言」が打ち出されました。

 その数カ月後、中国発の新型コロナウイルスの猛威が世界を覆ったわけであり、この富山宣言はその危機を予見するかのようなタイムリーな宣言だったわけです。

 そして今年のサミットでは、外交・安全保障政策推進のため日本政府に「日台交流基本法」の早期制定を提言する「加賀宣言」が採択されました。

 この「日台交流基本法」は、私が副会長を務める「日本李登輝友の会」が2019年3月に策定したものです。「日本李登輝友の会」は2013年にも、アメリカの「台湾関係法」にならって、「日台関係基本法」の制定を提言し、政界をはじめ各方面で法制定のための動きが見られましたが、実現には至りませんでした。

 そこで、改めて「日本李登輝友の会」の渡辺利夫会長と林建良・常務理事の論考を参考に付して、7条からなる「日台交流基本法」を発表したのです。

 謝長廷代表も、日台の良好な関係を次世代に伝えていくための礎となると、日本側にこの法律制定を促したいと公言されてきました。

この「日台交流基本法」の7カ条は、以下のとおりです。

日本と台湾との相互交流の基本に関する法律(略称:日台交流基本法)案

【目的】第一条 この法律は、アジア太平洋地域の安定と繁栄の実現のため、日本および日本人と台湾および台 湾人との通商��ぢ貿易・文化・安全その他の交流を発展させることを目的とする。

【基本理念】第二条 1.日本および日本人は、台湾および台湾人との、より広範、密接かつ友好的な経済・文化その 他の関係を維持および促進する。 2.アジア太平洋地域における平和と安全の基礎の上に日本の外交が遂行されることは、日本にとっ て政治、安全および経済上の利益であり、国際的に有意義である。

【法律上の権利の保障】第三条 台湾人がわが国の法律によりこれまでに取得し、または今後取得する権利は、公共の福祉に反し ない限り保障される。

【情報の共有】第四条 アジア太平洋地域の安定と繁栄の実現のために必要と認めるときは、日本政府は台湾政府に対し て必要な情報を提供することができる。

【相互交流に関する事項】第五条 日本と台湾の相互において、それぞれ日本人および台湾人の身体、生命および財産の保護その他 に関する事項、台湾人および台湾に在留する第三国人の日本への入国その他に関する事項、日本と台 湾との経済、貿易、観光等に関する事項、並びに日本と台湾との学術、文化およびスポーツの相互交 流等に関する事項は、財団法人交流協会と亜東関係協会との取り決め(一九七二年一二月二六日署名) によって処理するものとする。

【台湾側機構】第六条 1.日本政府は、台湾日本関係協会およびその職員の申請により、台湾日本関係協会の日本にお ける法人格の付与およびその職員の外交官に準ずる特権および免除の取扱いの措置を講ずることができ る。 2.前項の措置を講ずるにあたって必要があるときは、日本政府は、法改正の措置を講ずるものとする。

第七条 この法律において「台湾日本関係協会」とは、日本と台湾との相互交流に関する事項について権 限を有する、台湾によって設立された台湾日本関係協会と称する機構をいう。

・日本李登輝友の会:2019政策提言「『日台交流基本法』を早急に制定せよ」 http://www.ritouki.jp/index.php/info/20190630/

◆「日台交流基本法」の制定を急がなければならない理由

 この「日台交流基本法」の提言策定および制定を求める動きが加速している背景に、近年、アメリカが米台の政府高官の相互交流を促進させる「台湾旅行法」(2018年3月)や、台湾の外交的孤立を防ぐための「台北法」(2020年3月)などを次々と成立させていることがあります。

 アメリカが台湾との関係強化に動いている一方、その同盟国である日本には台湾に関する法律が1つもなく、日米同盟のバランスが取れておらず、不安定な状態にあるからです。

 最近、中国公船の尖閣領海侵犯がかつてないほど繰り返されており、今年の7月には領海侵犯の過去最長時間を記録、さらに昨年11月には海上保安庁の航空機が中国海軍の艦船から、尖閣付近の上空で「中国の領空を侵犯している」という警告を受け退去を求められていたことが発覚しています。

 また、台湾も、中国軍機による防空識別圏への侵入や近海における中国軍の軍事的挑発が続いており、事態は緊迫の度合いが高まっています。

 アメリカは大統領選挙が佳境を迎えていますが、トランプ大統領が新型コロナにかかり、マスコミの反トランプ攻勢も激化して、行方が見えづらくなっています。バイデンが大統領になれば、中国を勢いづかせることになりかねず、台湾にとっても日本にとっても、由々しき問題となります。そのような危機感も、「日台交流基本法」の制定を急ぐ理由のひとつです。

◆推進力は日本人の86%が「中国嫌い」という世論

 しかし、日本の政界には、菅政権の後ろ盾となっている二階俊博氏のような親中派も少なくありません。私の近著『親中派の崩壊』でも、アメリカの政府系シンクタンク「戦略国際問題研究所(CSIS)」が二階氏ら日本政界の親中派を名指しで警戒していることを紹介しました。

 その一方で、日本の世論は中国への不信感がますます強まっています。アメリカのピューリサーチが世界14カ国でアンケート調査を行った結果、「中国に好感が持てない」と答えた割合が最も多かったのが日本で、実に86%の人が中国を嫌っている実態が明らかになっています。この世論を味方に、日本国内に「日台交流基本法」のことをもっと広め、実現へと向かってもらいたいと思っています。

 昨年の日台交流サミットで台湾のWHO参加が謳われたにもかかわらず、それがかなわないうちに中国からの新型コロナ拡散が始まってしまいました。そして、WHOが台湾を排除し、台湾の警告を無視したことが、新型コロナの世界的流行を許してしまった一因ともなりました。

 今年の日台交流サミットで「日台交流基本法」の早期制定が謳われたにもかかわらず、それがかなわないうちに中国が………ということにならないよう、この法律のことを多くの日本人に知ってもらい、政治を動かしてほしいと思います。

◆台湾は日本の生命線

 また、今年の日本の国会においては、「台湾に対する武力行使を放棄しない」という中国の恫喝への非難決議もぜひ採択していただけるよう、良識ある政治家の方には熟慮をお願いしたいと思います。議会決議は、世界各国に対しての影響力がかなり大きいものです。

 台湾との外交承認がすぐには難しいというのも事実で、むしろこちらの決議のほうが現実的かもしれません。

 いま現在、毎日、台湾海峡を通過する日本の船舶は約300隻といわれます。もしも中国が台湾に武力行使をすれば、それは日本のシーレーンが脅かされることになります。そしてその脅威は日増しに高くなってきています。

 日本と台湾は一蓮托生であり、台湾は日本の生命線でもあることを、多くの日本人に再確認していただきたいと思います。

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