日本笠間台湾弁事處の取り組み  木下 知香(笠間市台湾交流事務所)

【日本台湾交流協会『交流』:2021年11月号】https://www.koryu.or.jp/Portals/0/images/publications/magazine/2021/11%E6%9C%88/2111_01jichitai.pdf

1.台湾に初めての市町村の駐在員事務所を開設

 茨城県笠間市は、2018 年の夏に外国人観光客誘客の推進や交流人口の拡大、地域経済の活性化を目指し、台湾に駐在員事務所を開設しました。台湾での日本の自治体の駐在員事務所は沖縄県、静岡県に次いで 3 番目の事務所となり、日本の市町村としては初めてとなります。事務所は笠間市と台湾、茨城県と台湾の懸け橋となり、様々な分野で交流が図れるよう、事業に取り組んでいます。事業内容は多岐に渡りますが、事務所の取り組みについて簡単にご紹介させていただきます。

2.インバウンド誘客

 インバウンド誘客では、事務所は大きく分けて、3 つの柱で知名度向上・誘客促進を行っています。

 1 つ目は観光です。笠間市には年間約 350 万人が訪れる日本三大稲荷の一つ「笠間稲荷神社」、日本遺産に認定された「かさましこ」の「笠間焼」、日本有数の産地として知られる「栗」、四季を感じる花々では春にはつつじや藤の花、秋には日本最古の菊まつりなどがあり、観光資源が豊富です。しかし、笠間市内には宿泊施設が少なく、笠間市に来ていただいても滞在時間が短くなってしまうというウィークポイントがあります。その点を補うため、様々な体験メニューを用意しているほか、次の 2 つ目、3 つ目があげられます。

 2 つ目はゴルフです。台湾全土でゴルフ場は 61か所、茨城県には 114 か所、笠間市には 9 か所のゴルフ場があります。笠間市は「ゴルフのまち」を目指しており、東京オリンピックに出場した日本代表選手 4 名の内 2 名が笠間市出身です。観光として訪れるインバウンド客は、広域に周遊することが多く、笠間市や茨城県にずっと滞在してくれるわけではありません。しかし、ゴルフ客は全日程を茨城県で滞在し、ゴルフプレー、宿泊、食事、お土産等の全てを茨城県内で消費してくれます。笠間市でゴルフプレー、プチ観光、食事をしていただけるなら、滞在時間は長くなり、経済効果も高くなります。

 3 つ目は教育旅行です。笠間市では「NPO 法人笠間の魅力発信隊」によって、民家で日常の体験ができる「笠間ふれあい体験旅行」が取り組まれています。台湾の教育旅行では日本の生活を体験するために民泊をしたいという要望も多くあります。笠間市では 100 戸以上が受入民家に登録されているため、バラエティに富んだ民家体験ができることが魅力です。日本の生活を体験するとともに笠間市民との交流を深める機会にもなっています。宿泊施設が少ないというウィークポイントも宿泊体験ができることにより滞在時間が長くなり、観光事業者だけではなく市民が外国の方々と触れ合う機会が増えることで、地域全体で訪日外国人観光客の受け入れの機運を醸成させることもできるのではないかと思います。

 現在は往来ができない状況ではありますが、昨年度に事務所が独自で行ったアンケートでは往来再開後 1 年以内に訪日を希望する人は 70%以上であり、訪日意欲が非常に高いことが伺えます。そのため、往来できない時期に少しでも茨城県笠間市の知名度向上を図ることにより、往来再開時の旅行先として選んでもらえるよう、事業に取り組んでいます。

3.物産

 台湾では東日本大震災の影響により、茨城県を含む周辺 5 県の農産品の輸入規制がされている中で、台湾に輸出できるのは日本酒と工芸品だけになります。笠間市には日本最古の一つといわれている酒蔵、新酒鑑評会で 8 年連続受賞している酒蔵、日本三大稲荷の一つである「笠間稲荷神社」に御神酒として奉納している酒蔵の 3 酒蔵があるほか、2020 年 6 月に日本遺産に認定された「かさましこ」の笠間焼があります。事務所が開設された当時は、台湾で笠間の日本酒や笠間焼が常時購入できるところはありませんでしたが、現在は3 酒蔵 18 銘柄の日本酒や笠間焼を購入できる場所が増えてきました。農産品の輸入規制緩和を見据え、現在できる日本酒・笠間焼による笠間市の知名度向上や販路開拓・拡大を図っていきたいと考えています。

4.東京オリンピック

 今年の夏に開催された東京オリンピックに台湾のゴルフのホストタウンとして登録されたほか、事前キャンプ地として台湾ゴルフ協会と基本合意書を 2019 年 7 月に締結しました。新型コロナウイルス感染症の防疫ガイドライン等により、事前キャンプ地として笠間市に来ていただくことは中止となってしまいましたが、これまで台湾ゴルフ協会と連携していたことにより、オリンピック終了後もスポーツ合宿や将来の選手の育成等におけるゴルフの更なる交流促進を進める予定です。

5.交流促進

 事務所を台湾に開設したからこそできたこと、それは様々な分野での交流促進だと思います。海外から見て、人口が僅か 7.3 万人程度の笠間市を知っている人は少ないと思いますが、事務所を台湾に開設したことにより、様々な分野での交流が始まり、それぞれの分野で知名度が向上しています。

(1)行政院農業委員会農糧署

 2019 年 7 月に日本の農林水産省にあたる行政院農業委員会農糧署と「食を通じた文化交流と発展的な連携強化に関する覚書」を締結し、2019年 11 月に笠間市内の小・中・義務教育学校の給食に台湾バナナ約 5,800 本を提供したことをきっかけに、3 年連続で笠間市の給食に台湾のバナナを提供しています。また、給食で台湾バナナを食べる前には食育として台湾のことを勉強する機会もあり、往来が制限される中でもこのような交流をすることにより、子どもたちにとっては給食を通じた国際理解の一環につながっていると思います。

(2)台北市政府

 台北市とは 2019 年 3 月、共通の花のまつりである「つつじまつり」から連携が始まりました。2019 年 7 月には事務所開設 1 周年ということもあり、市長、市議会議員含む約 30 名で台北市政府及び台北市議会を訪問し、意見交換を行いました。その後、つつじまつりだけではなく、菊まつりでも交流しているほか、今後は更なる交流促進として、台北市のランタンまつりに参加、来年度は人事交流を行う予定です。

(3)台南市政府

 新型コロナウイルスの感染拡大により往来ができない状況の中、2020 年に台南市と「特産品を通じた交流」と「図書館交流」が始まりました。特産品を通じた交流では、台南市の特産品であるマンゴーと文旦を笠間市の給食に提供させていただきました。日本ではなかなか食べることのできない台湾のマンゴーと文旦を食べた生徒は「甘くておいしい」、「さわやかな風味が口の中に広がっておいしい」と笑顔で味わっていました。人の往来が制限されている中でも、食文化を通じた気持ちのやり取りが将来を担う子どもたちに少しでも届いたのではないかと思います。図書館交流では、笠間市の図書館で台南市の紹介コーナーを、台南市の図書館で笠間市の紹介コーナーを作り、相互に PR を行いました。

6.地方創生

 台湾では、地方創生元年として 2019 年から地方創生に取り組んでいます。台湾に事務所を開設したことにより笠間市の取り組みに興味を示していただき、2018 年に地方創生の視察として笠間市へ視察団が訪れました。そのことがきっかけとなり、2019 年 4 月には南投県と台北市で笠間市長が地方創生講演を行ったほか、2019 年 11 月には南投県魚池郷農會との地方創生の一環として、特産品の紅茶コンテストで特賞を受賞した茶葉をいれる茶壷を笠間焼で提供するコラボレーションを実施しました。また、2020 年からは往来ができない状況でありますが、行政院農業委員会農糧署の職員向けに笠間市長によるオンライン地方創生講演会を実施するなど、地方創生での交流促進も行っています。

7.大学との交流

 台湾の大学とも 2020 年から交流が始まり、笠間市の観光や地方創生の取り組み等について講義をさせていただきました。往来再開後は更なる交流促進を図れるよう、現在取り組んでいます。

 上記の取り組みは一例ではありますが、台湾に事務所を開設したからこそできる事業や交流が多くあります。今後も駐在員事務所を十分に活用し、更なる交流促進ができるよう積極的に取り組んでいきたいと考えています。

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