李登輝閣下を偲んで  大橋 光夫(日本台湾交流協会会長)

 台湾との窓口機関の日本台湾交流協会が発行する台湾情報誌『交流』8月号(8月27日発行)が亡くなられた李登輝元総統の追悼特集を組んでいます。執筆は、会長の大橋光夫氏と産経新聞論説委員で『李登輝秘録』著者の河崎眞澄氏の2本。

 大橋会長は、まるで李登輝元総統に兄事してきたかのごとく「私は、永久に李登輝閣下の御人柄とその御功績を忘れることはありません」と述べるとともに「李登輝閣下の御遺志を継ぎ……世界に誇るべき日台関係を、世界に拡げていくべく信念と気概をもって努力して参ります」と誓いの言葉を述べ、胸に迫る気迫の籠った追悼文です。

 下記にその追悼文をご紹介します。また、河崎氏の追悼文は下記のPDF版でご覧ください。

◆河崎真澄氏「李登輝元総統のご逝去を悼んで」 https://www.koryu.or.jp/Portals/0/images/publications/magazine/2020/8月/05_litoukikakka2.pdf

—————————————————————————————–李登輝閣下を偲んで  大橋 光夫(日本台湾交流協会会長)【交流:2020年8月号】https://www.koryu.or.jp/Portals/0/images/publications/magazine/2020/8月/03_litoukikakkka1.pdf

 李登輝閣下のご逝去の報に接し、誠に痛惜の念に堪えません。

 李登輝閣下は、今日の台湾における自由で民主的な社会と経済発展の礎を築かれた偉大なる政治家であり、日台関係の発展を促進された余人を持って代えがたいリーダーでありました。

 今日の国際社会において、これほどまでに良好な隣人関係を築いているのは、日本と台湾のほかに類を見ません。昨年の日台間の交流は、700 万人を超えるほどまでに目覚ましい成長を遂げています。日本と台湾がここまでの関係を築くに至ったのは、両者の関係が困難な時にあっても、熱意を持って、交流の発展に取り組まれた李登輝閣下の御尽力あってこそと言えるでしょう。

 2014 年6月13 日は私の生涯で忘れられない日です。李登輝閣下は私を御自宅に親しくお招き下さいました。李登輝閣下より「我是不是我的我李登輝」と揮毫されたお皿を賜りました。これは、李登輝閣下の無私の心を表すお言葉です。そのお言葉どおり、李登輝閣下は無私の心で台湾の人々を導き、数多の困難の末、今日の台湾の民主化と経済発展を成し遂げられました。

 この訪問の際、李登輝閣下が記念写真を撮影するときも、隣に並んだ私の手を長い間強く握っておられたことをよく覚えています。その手の力強さと温かみに、これからの日台関係の更なる緊密化のみでなく、世界の平和を託すと、李登輝閣下自ら激励いただき、また、身に余る重責とともに非常に光栄に感じました。

 李登輝閣下は、学ぶことにも一貫して大変真摯でおられました。すでに類い稀なる知日家であったにも関わらず、2007 年初夏に日本を訪問された際には、「日本を勉強して、また来ます」と発言されています。そのように学びに対して熱心であった李登輝閣下だからこそ、台湾初の総統直接選挙で総統に選ばれてから、その積極的な働きかけにより、台湾の歴史教育の見直しを進め、台湾としての歴史や文化を、教科書「認識台湾」という形で世に送り出しました。今日、「認識台湾」は使用されてはいませんが、台湾の人々に台湾の歴史を自らが考え語るという意識を根付かせました。

 李登輝閣下は、台湾だけでなく、日本の多くの人々からも敬愛の念を集められました。「日本人としての誇りと自信を持ってほしい」。2019 年12月、李登輝閣下が日本の高校生一行との面会で贈られたお言葉です。かつての日本人が持っていた精神や文化を深く理解しておられた李登輝閣下は、現代の日本人に多くのことを教えて下さいました。時に日本について厳しい言葉を発されることもありましたが、その裏には誰よりも深い日本への理解と愛情があったのだと感じます。だからこそ我々は李登輝閣下を師と仰ぎ、私を含む多くの日本人が敬愛の念を抱いてやまないのです。

 私は、永久に李登輝閣下の御人柄とその御功績を忘れることはありません。李登輝閣下の御遺志を継ぎ、隣国はとかく諸々な問題を抱える国際社会で今日最良といわれる日台関係をさらに発展させ、世界に誇るべき日台関係を、世界に拡げていくべく信念と気概をもって努力して参ります。

 李登輝閣下、どうぞこれからも天上から日本と台湾の世界平和への貢献をお見守りください。

 李登輝閣下の御功績に改めて深く敬意を表するとともに、謹んで御冥福をお祈り申し上げます。

                                        2020 年8月10 日

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