◆「明日への選択」10月号表紙と目次
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去る9月9日、熊本県と熊本市が台湾の高雄市と「国際交流促進覚書」を締結した。これ
は、貿易や投資の促進、観光・教育分野の相互交流を図るほか、航空定期便の就航に向け
て協力関係を築こうということで結ばれた覚書で、姉妹都市の一形態だ。
台湾の通信社である中央通信社が報じ、地元の熊本日日新聞も同行記者による記事とし
て伝えたが、全国紙でこの覚書締結を伝えるところはなかった。
実は、日本と台湾の間では近年、自治体同士が覚書や友好交流都市、友好協力協定を結
ぶケースが格段に増えている。しかし、台湾紙か日本の地元紙が報道する程度で、全国紙
には載らないケースが多い。ニュースにならなければ事実として認知されない。したがっ
て日本では、日台の自治体がこのような姉妹都市を結んでいることはほとんど知られてい
ないと言っても過言ではない。
熊本のケースは、今年すでに4件目となる。他の3件は、群馬県と高雄市(友好協力協
定、3月4日)、長野県松川村と彰化県鹿港鎮(友好都市、6月12日)、浜松市と台北市(観
光交流都市、7月31日)がそれぞれ締結している。
昨年は北海道津別町と彰化県二水郷の友好都市提携など5件(長野県と高雄市の教育観光
協定、美濃市と高雄市美濃区の友好交流協定、群馬県と彰化県の友好協力協定、群馬県と
台中市の友好協力協定)も結ばれていて、この2年間で9件も結ばれている。
日本李登輝友の会の調査によれば、一昨年は1件もなく、その前年の平成22(2010)年も
7月に鳥取県北栄町が台中県大肚郷と友好交流都市を結んだ1件、その前の年も、日光市と
台南市による観光友好都市提携の1件だけだった。昨年から今年にかけてがいかに多いか分
かる。
その理由はいくつか考えられる。まず東日本大震災に対する台湾からの200億円を超える
義捐金と多大な物資支援により、台湾の親日ぶりが日本人に強烈な印象として残ったこと
が挙げられよう。
例えば、震災が起こった当時、仙台市と平成18(2006)年1月20日に交流促進都市を結ん
でいた台南市の頼清徳市長が市議会議長らと4月下旬に駆けつけ、市民が集めた義捐金1億
円余を仙台市に直接贈呈している。台南市は先にも述べたように、平成21(2009)年1月16
日に日光市と観光友好都市を締結していたことから、震災で外国人観光客が激減した日光
市の要請を受けた頼市長は、仙台から2ヵ月も経たない6月中旬、300人もの大観光団を率い
て鬼怒川温泉を訪れている。
台南市のこの心温まる積極的な行動は、朝日新聞や読売新聞などの全国紙も大きく取り
上げていた。
これらの報道で、日台間の観光客は格段に増えた。台湾からは2010年が127万人、2011年
は震災の影響で114万人に落ち込んだものの、2012年は149万人と過去最高を記録してい
る。日本からは2010年は108万人だったが、2011年は129万人、2012年は143万人と、日本も
過去最高の訪台者数だった。
台湾からの観光客の多さは自治体によるチャーター便や定期便誘致につながり、交流活
動の誘因の一つになっている。
政治の動向も見逃せない。民主党が政権を握っていた平成21年9月から安倍晋三氏が自民
党総裁に返り咲くまでの3年間で、日台間の姉妹都市提携は2件しかない。ところが、平成
24年9月末、安倍氏が自民党総裁に就いて以降、現在までの1年間で9件も提携しているのだ。
その背景には、安倍政権が日米同盟を強化しつつ価値観外交を展開、着々と中国包囲網
を構築していることと無関係ではない。
例えば、10年前のことだ。岡山市が台湾の新竹市と姉妹都市を進めようとしたところ、
岡山市と姉妹提携していた中国の洛陽市からやめて欲しいというクレームが入った。それ
ばかりではない。中国大使館や親中派議員からも圧力がかかったという。当時、岡山市長
だった萩原誠司氏がそのときの状況を、今年になって初めて明らかにしている。
〈在京中国大使館の書記官が私に接触してきて、「外交部長の顔に泥をぬるようなこと
は、やめてくれ。あなたのためにもならない」と伝えに来た。……岡山にゆかりの政治家
お二人、橋本龍太郎さんと片山虎之助さんから「萩原君、暴走はいけない」とご忠告をい
ただいた。〉(「日台共栄」平成25年8月号)
萩原市長はそれまで日中共同声明や日中平和友好条約を精査し、外務省条約局にも台湾
の自治体と交流協定を結ぶことがそれらの声明や条約に違背しないことを確認していた。
だから、中国大使館と親中派政治家の要請をはねのけ、新竹市と友好交流都市を締結し
た。平成15(2003)年4月21日のことである。
この3年後に仙台市は台南市と交流協定を結んでいるが、このときも中国は市長の後援会
組織など様々なルートを使い、当時の仙台市長だった梅原克彦氏に圧力をかけてきたそう
だ。梅原氏も「中国側の横槍には、本当にうんざりしました」と当時の状況を「日台共
栄」誌(平成22年5月号)で明らかにしている。
ところが、冒頭に紹介した今年9月の熊本県と熊本市による高雄市との提携では、中国や
政治家からの圧力はなかったと漏れ聞く。これだけ事例が多くなると、中国側も対処しき
れなくなったという事情に加え、現政権下での内政干渉的な妨害活動は中国にとって不利
であることをよく分かっているからでもあろう。
国交がない台湾とはいえ、交流の密度はますます高まっている。閣僚に近い政治家や官
僚高官の訪台も頻繁になり、修学旅行先に台湾を選ぶ高校も急増している。今後、日台の
自治体交流がさらに緊密になってゆくことは確実な流れとなっている。