*読みやすさを考慮し、小見出しは本誌編集部で付したことをお断りします。
◆中国の台湾への個人旅行禁止という圧力を冷静に受け止める台湾
中国文化観光省は、本土の47都市の住民に対し8月1日から台湾への個人旅行を認めないと表明しました。この措置の背後には、2020年の台湾総統選があると報道されています。蔡英文政権へのダメージを狙ったものだというのです。
しかし、報道にもあるように、台湾側はこの措置を至って冷静に受け止めています。台湾側がどうして冷静でいられるのか、以下、報道を一部引用します。
<16年に中国大陸からの客足が遠のいた際、台湾の観光産業は大きなダメージを受けた。台湾では中国大陸からの観光客を「陸客」と呼ぶが、「陸客専門」をうたうホテルやレストランの中には倒産したところもあった。当時の反省を踏まえ、台湾では韓国や東南アジアからの旅行客を中心にビジネスを展開する動きが加速した。
台湾の当局も、中国大陸に依存しない経済成長を目指すスローガン「新南向政策」を掲げ、こうした動きを後押ししている。対象となる東南アジア、南アジア、ニュージーランド、オーストラリアの計18カ国に対し、観光分野のプロモーションを強化。現在、東南アジア諸国から台湾を訪れる旅行客に対してビザ申請手続きを簡素化したり、免除したりする動きを加速させている。
大陸からの旅行客の落ち込みを東南アジアで補う構図は、訪台旅行者数の推移からも見て取れる。16年に1000万人を突破して以降、その勢いは衰えず、17年1072万人、18年は1106万人と大陸からの旅行者数の減少にもかかわらず、全体の訪台旅行者は増えている。>
中国のやり方に精通している台湾にとっては、観光業の政治利用もお見通しというわけです。それにしても、総統選挙まであと半年あまりとなった今、中国の蔡英文いじめはだんだんとあからさまになってきましたね。
◆香港デモでは参加者や記者になりすます警察官や情報工作員
今、中国は米中関係、香港問題など様々な問題を抱えています。竜巻や地震など国内の自然災害も絶え間なく各地で起こっています。そんな問題山積の状態で、個々の問題への対応がおざなりになっているのではないかと思えるほど、お粗末なやり方です。
ロイターの報道によれば、香港のデモに対しても、フェイスブックとツイッターの両社が中国政府による情報操作を発表、これを批判し、該当するアカウントを削除したとのことです。以下、報道を一部引用します。
<ツイッターは936件のアカウントを停止したと発表。情報操作は中国からのもので、国家に支援された協調的なものだったとの見方を示した。これらは最も活発に利用されるアカウントの一部に過ぎないとして、約20万アカウントのネットワークを活発化する前に積極的に停止したとも説明した。
ツイッターが示した投稿には、立法会(議会)庁舎に突入したデモ隊の写真とともに「立法会を破壊した者は気が狂っているのか、悪人から便益を受けているのか。完全に暴力的な行動で、香港に急進的な人間は要らない。出て行け」と書かれていた。
ツイッターから情報を受け、フェイスブックもアカウントやページなどを削除したと発表。内部調査で中国政府との関係がある個人へのリンクが検出されたことを明らかにした。
フェイスブックが示した投稿では、デモ参加者らを「香港のゴキブリ」と呼び、「顔を出すことを拒んだ」と主張した。>
これも中国政府お得意の情報操作です。
香港デモでは、8月13日、香港空港を占拠したデモ隊が人民日報系の環球時報の記者を、デモ参加者に扮した警察官と疑って殴るという事件がありました。これに対して中国政府は「テロに近い行為だ」などと批判し、中国メディアは連日、殴られた記者を英雄として讃える記事を掲載しました。
ところが、この記者について中国情報機関の工作員だという見方が内外で広がったため、礼賛記事は一気に沈静化、まったく報じられなくなったそうです。
香港では、デモの参加者に変装した警察官が若者らを拘束した事件もあり、警察が記者になりすまして情報収集しているとの疑念が深まっています。
香港のテレビ局は、同社のロゴが入ったベストを着て取材する男性の写真を公開し、「当社とはまったく関係のない人物だ」と注意を呼びかけました。
中国の工作機関関係者が、メディアを偽り、香港デモを取材すると称して、混乱や過激化を煽動、これを批判する世論をでっち上げるという自演自作を行っているわけです。いずれ人民解放軍が香港に介入するために、理由を積み重ねているのでしょう。
しかし、その手口は次第にバレ始めており、ツイッターやフェイスブックも中国政府の関与を明言するようになっています。
◆全てを敵に回す中国共産党政権の愚かしさ
一方、中国はこれまで、台湾いじめも情報操作もコソコソやっていましたが、だんだんと堂々と公にやるようになってきています。
それは、コソコソする余裕がないのか、脅しの意味も含めてわざとなのかは分かりませんが、どちらにしてもやり口が雑だとしか言えません。
このメルマガでは、これまでも台湾における中国当局によるフェイクニュース流布について解説してきました。とくに2020年1月には総統と政権政党を選ぶ台湾総統選挙および国政選挙があります。現在の台湾でも中国からのフェイクニュースが氾濫しており、蔡英文総統も警戒を呼びかけています。
さらに、関係が悪化の一途をたどっている米中関係ですが、台湾への戦闘機売却を決めたアメリカに対して、武器売却の取り消しを要求しています。
取り消し要求の大義名分としては、「中国の主権と安全保障上の利益を損なうもの」としていますが、その実は、アメリカに長期滞在したり武器購入を決めたりして親密さを増している米台関係に嫉妬からではないかとの噂もあります。
さらに、深圳を香港よりも魅力的な都市にするとも宣伝しています。
いったい中国は、誰と競っているのでしょうか。国内問題そっちのけで台湾や香港を混乱させ困らせるような真似をし、アメリカには八つ当たり的な要求を何度もし、すべてを敵に回しています。
香港の林鄭長官を失脚させて新しい人物を長官にさせたところで、混乱は収まらないし、そもそもこんな状況下で中国と香港の板挟みになりたがる人材はいません。
しかし、中国政府が少しでも柔軟な態度を取って、香港人の要求に対して譲歩を示せば事態は簡単に打開されるのですが、それができないのが一党独裁をどうしても死守したい中国共産党の愚かしい点です。
中国共産党としては民主主義などもっての他で、自らの独裁維持のためには、問題を武力と権力で解決するしかできないのです。譲歩や理解は一切ありません。中国の自業自得による混乱はどこまで拡大するのでしょうか。
◆観光業の政治利用が逆に観光客の質の向上をもたらした
中国が、歴史やスポーツだけでなく、芸能活動や観光までも政治利用することは、近年広く知られるようになりました。
そのきっかけとなったのは、中国人による韓国旅行禁止からでした。その理由は、韓国が中国の反対を押し切って在韓米軍に高高度ミサイル防衛システムTHAADを導入したからです。
こうした観光業の政治利用は、習近平体制の言論統制やデジタル管理を強化するためにプラスになっています。一方で、台湾や日本など渡航を禁止された地域においては、観光客の質の向上をもたらしています。
日本のホテルチェーンのアパホテルも、中国によりボイコットの標的にされたことがありました。ホテル室内に常備していた本の内容が、日本の中国侵略を認めず「南京大虐殺」を否定しているという、こじつけの理由をネットで拡散し、アパホテルへの宿泊をボイコットしようと呼びかけたのです。
この時の主犯が誰なのかは明らかにされませんでしたが、この騒動によって一時ホテルの部屋は中国人からの予約はストップしたそうです。アパホテルの代表は、こうした脅しには屈しないと公言しました。そして、この騒動を機に日本人客を多く取り込むことにしたおかげで、宿泊客のマナーも向上し売上もアップしたということです。
そもそも中国経済のGDP成長率は「保八」(8%を守る)というデッドラインがあります。これにより、年間で最低1500万人くらいの新規雇用が確保できるということなのですが、現在ではすでにGDP成長率6%を守れるかどうかという状態です。現在では大卒の雇用率は約5割にとどまっています。
今の中国はデジタル監視社会となっています。景気悪化、雇用悪化による民衆の不満を抑え込むため、監視システムのデジタル化、AI化が進められているわけです。
米中貿易戦争により、中国経済の低迷は避けられません。そのため、今後、ますます中国共産党は人民監視を強めてくるでしょう。AIを利用した民衆監視のスパイシステムも稼働が始まっています。かつてのような密告社会も復活する可能性が高いでしょう。
香港や台湾のみならず、中国本土でもフェイクニュースはさかんに流されています。真実を伝えず、嘘によって人民を統治するのが中国共産党の伝統だからです。
当然、日本にも中国産のフェイクニュースが大量に流れ込んでいると思われます。尖閣諸島周辺海域への中国公船の侵入頻度はますますエスカレートしていますが、日本国内ではそのことをメディアが伝えず、むしろ沖縄の米軍基地移転問題ばかりクローズアップしています。これが中国にとって都合のいい状況であることは言うまでもありません。
次第に暴かれつつある中国の工作活動の実態を日本人もよく研究し、日本も中国からの情報操作に本気で対処する必要があると思います。