◆選挙戦の本格化と同時に中国からの横やりも本格化
台湾の選挙活動が本格化して、今の台湾社会は選挙一色となりました。香港との関係で蔡英文有利と伝えられている選挙戦ですが、結果は蓋を開けるまでは分かりません。民間調査の支持率は蔡氏リードとのことですが、これについても対抗陣営から調査の信憑性がないと批判されていることは、このメルマガでもご紹介しました。
このように台湾内での選挙戦が本格化すると同時に、中国からの横やりも本格化しています。小さな嫌がらせがだんだんと増えてきているのです。まずは、台湾人の著名ユーチューバーへの中国からの圧力です。
波特王(ポッターキング)という名前の台湾人ユーチューバーの男性が、蔡英文と共演した動画を配信しました。その内容は、波特王が甘い言葉で蔡総統を口説くという政治色のないもの。しかし、その動画内で彼が蔡氏を「総統」と呼んだことが中国側に問題視され、契約先の中国企業から契約を解除されたということです。
これに対して彼は、「完全に受け入れられない。ばかげている」「自分の国の元首を『総統』と呼べないなら、こんなお金は稼げなくてもいい」と反論したとのことです。
蔡英文総統もこの件について、「この出来事から、民主主義と国家の安全を守ってこそ、経済や創作の各方面における自由を有することができるということが証明された」とコメントしました。
◆中国の嫌がらせは分散化
中国の嫌がらせはこうした細かいところをたくさん突いてきます。ボクシングに例えれば、細かいジャブを何度も繰り出して相手のダウンを狙うようなものです。
香港のデモ隊に対しても同じような手口を使っています。アップル社が提供している地図アプリ「HKmap.live」は、学生たちが警官の動きを知るために利用していると中国がクレームをつけたため、アップル社はこれをオンラインストアから削除しました。
また、香港の学生たちが考案した香港でもを疑似体験できるゲームアプリ「The Revolution of Our Times I」は、グーグル社がグーグルプレイストアから削除しました。
グーグル社はこの措置について次のようにコメントしています。
「わが社は長年、慎重に扱うべき問題を利用することを開発者に禁じてきた。たとえば、現実の深刻な紛争や悲劇的な出来事などを扱ったゲームで金もうけをするようなことだ」「注意深く検討した結果、このゲームアプリは規則違反だと判断し、提供を中止した。これまでにも、地震や危機、自殺、紛争など、世間の注目を集める出来事を利用しようとの試みには同様の措置を取ってきた」
つまり、中国政府の要請に従って削除したわけではないと言っているようですが、中国政府が香港の民主派デモへの支持を表明している外国企業への圧力を強化していることは明らかです。
ゲーム実況者であり、人気ゲーム「ウォークラフト」のスピンオフ作品「ハースストーン」のプレイヤーとして有名なBlitzchungことアン・ワイ・チャン氏は、香港デモを支持するコメントをしたため、主要なゲーム大会への出場禁止と賞金剥奪という処分を受けました。
一方で、中国で二隻目の国産空母『山東』が就役しました。すでに、この「山東」が11月に試験航行との名目で台湾海峡を通過し、台湾政府は中国政府に抗議しました。明らかに台湾の選挙に向けた脅しです。中国を敵に回すと恐ろしいということを軍事行動で示すわけです。
ただ、今は中国も香港と台湾の両方に対して嫌がらせをしなければならず、アメリカとの折衝もあります。そんなこんなで、中国の台湾に対する嫌がらせ攻撃の度合いは少し弱い気がします。嫌がらせが分散しているという感じです。
そもそも香港の民主派デモは蔡英文の追い風となっています。それに加えて中国政府の嫌がらせまで分担して背負ってくれているわけです。蔡英文が香港デモを擁護し支持し、逃れてきた香港人を受け入れているのも頷けます。
逆に、中国は台湾の総統選挙だけにターゲットを絞ることができずに歯がゆい思いをしているかもしれません。2020年1月11日の選挙まであと3週間程度、中国からの脅しや嫌がらせもこれからが本番です。どんな手に出てくるのかお手並み拝見といきましょう。
◆習近平の管理社会化は「人間不信」という中国の伝統的考え方の表れ
中華人民共和国は、国共内戦後に「世界革命、人類解放」を目指して樹立されてからすでに70年を超えました。そんな中国の最大の弱味は、「民意」よりも「党意」が優先された状態で世事万端を決めることです。
それは今も変わらず、「民意を問うシステム」は確立されていません。だからこそ、いかなる国の選挙も反対するだけでなく、妨害するわけです。1996年の台湾総統選挙の際は、「文攻武嚇」でミサイル演習と称して台湾に向けて実弾を発射したほどでした。2000年の選挙の際も、陳水扁が当選すれば戦争だと恫喝しました。
その後も、陳水扁に投票したのは南部の人々だから、人民解放軍を台湾南部から上陸させると恫喝を繰り返しました。また、中性子爆弾を使用するぞとの恫喝もありました。しかし、その当時から台湾が耳を貸すのは、中国の恫喝ではなくアメリカの意見でした。
習近平体制になってから、デジタル管理を登用し、人民の言動や行動をすみずみまで徹底管理するようになりました。これを「中国共産党最後のあがき」とみる学者やウォッチャーも少なくありません。しかし、これはむしろ中国の伝統的な儒教の全体主義的考え方であり、先祖返りだと私は見ています。
自分の思い通りにならないと気がすまないという気性は、中国人のメンタルです。それを理解すれば簡単です。つまり、すべては中国の思いのままに物事が運べば満足なのです。習近平個人は、共産主義者というよりも伝統的な中国人です。文革の際、母に裏切られた過去があります。下放された息子が家に逃げ帰ったことを、母が「密告」したのです。
習近平の人間不信が人一倍強いのは、ここに原因があります。そして、それは中国人全体に言えることであり、人間不信社会である中国において人間不信になるのは中国人としてごく普通のことです。誰が悪いわけではありません。この「人間不信」の心理は、中国人である以上、欠かせない宿命なのです。