香港と台湾の共闘を崩しにかかる中国  黄 文雄(文明史家)


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――――――――――――――――――――――――――――――――――――――1> >香港政府が「逃亡犯条例」改正案の正式撤回表明も民主派やデモ隊に根深い不信感

「逃亡犯条例」改正案の撤回要求にはじまった香港の抗議運動は、6月9日に約100万人が参加して以降、間もなく3ヵ月となり、2014年の雨傘運動の期間を上回っている。デモは長期化の様相を見せ始めていた。

 民主活動家の黄之鋒氏らが9月3日に台湾を訪れ、民進党とともに台北市内で記者会見を開き、香港デモは正念場を迎えていて、台湾もともにこの限界線を乗り越えてほしいと訴えた。

 その翌日(9月4日)、香港の林鄭月娥・行政長官が「逃亡犯条例」改正案の正式撤回を表明した。時事通信は「10月1日の建国70周年までの事態沈静化に向け、実害のない改正案撤回までは譲歩した格好だ」と解説し、下記に紹介する産経新聞は、建国70周年に加え「トランプ米大統領は香港問題の平和的解決が貿易協議妥結の条件と主張」していることも挙げている。

 しかし、学生らは遅すぎる、5大要求は一つも欠かせないと反発しており、共同通信は「大規模デモを主催した民主派団体は4日『闘争を続ける』との声明を発表。デモは香港の政治改革を求める運動に発展しており、3カ月近く続いている混乱が収束するかどうかは不透明だ」と報じている。

 その政治改革の5大要求は下記のとおり。

1)「逃亡犯条例」改正案の完全撤廃2)デモを「暴動」認定の取り消し3)警察の暴力に関する独立調査委員会の設置4)デモ参加者の釈放5)普通選挙の実現

 「逃亡犯条例」改正案の完全撤廃を求めて起こったデモではあるものの、すでに香港人が要求する政治改革の突破口の位置づけで、最終目標ではなくなっている。そこが、中国と結んだ「サービス貿易協定」の撤回を求めて2014年に起きた台湾のひまわり学生運動(太陽花学運)」と決定的に異なる。

 今回の香港デモは、台湾において李登輝氏が総統だった1990年3月に起こった野百合学生運動(野百合学運)とよく似ている。野百合学生運動は「万年議員の引退」「国民大会の解散」「動員戡乱時期臨時条款の廃止」「国是会議の開催」などの政治改革を要求し、それを李登輝総統が掬い上げて民主化という政治改革にまで昇華したからだ。野百合学生運動は台湾民主化の分岐点を為した学生運動だった。

 恐らく、「逃亡犯条例」改正案を完全撤廃しても、香港政府にも中国にも実害はないのだから、残りの4大要求実現を求める運動は続く。活火山が爆発してマグマが噴き出した感のある今回の香港デモは、一時的に下火になることはあっても、要求が実現されない限り続くものと思われる。

—————————————————————————————–中国、早期終息を優先 建国70周年迫り決断【産経新聞:2019年9月5日】

 【香港=西見由章】香港政府が「逃亡犯条例」改正案の正式撤回を決めた背景には、後ろ盾である中国政府の方針転換がありそうだ。香港で抗議活動が拡大を続ける中、10月1日の建国70周年祝賀行事が迫っており、習近平指導部はメンツよりも混乱の早期収束を優先させた形だ。

 これまで中国政府は条例案の扱いについて「(審議の)延期」と一貫して表現し、完全撤回は認めない立場をとってきた。香港政府の決定を中国当局が容認したことについて、北京の政治学者は「デモ隊の一部の要求に応じており、問題解決に向けた積極的なシグナルだ」と説明。建国70周年を前に中国側が「早期解決を促した」と指摘した。

 中国の習近平国家主席は共産党の幹部養成機関、中央党学校で3日演説し、中国が経済や香港、台湾、外交などの分野で「さまざまなリスクが集中的に現れる時期に入った」と言及、こうした問題が「ますます複雑になっている」と危機感をあらわにしていた。

 北京の天安門広場周辺では7、8両日に祝賀行事のリハーサルを行う予定で、建国70周年に向けた準備が本格化。また、トランプ米大統領は香港問題の平和的解決が貿易協議妥結の条件と主張しており、貿易摩擦がエスカレートする中で協議妥結に向けた意志を示す思惑もありそうだ。

民主派「5大要求」譲らず

【香港=西見由章】香港政府トップの林鄭月娥(りんてい・げつが)行政長官が中国本土への容疑者引き渡しを可能にする「逃亡犯条例」改正案の正式撤回を表明したことを受けて、立法会(議会)の民主派各党は4日、警察当局の暴力に対する独立調査委員会の設置や普通選挙の実現など政府に対する「5大要求」を継続して求めていく姿勢を強調した。民主派やデモ隊の香港政府に対する不信感は根深く、今後、抗議活動が収束に向かうかは不透明だ。

 民主党の胡志偉主席は、香港政府の決定が「偽の譲歩」だと指摘。一部のデモ参加者の怒りを和らげ、デモ隊の分断を図っていると主張した。さらに、政府の決定に不満を持つ市民がデモを継続した場合に、通信や集会の自由などを制限する「緊急状況規則条例」を発動する口実にしようとしているとの疑念を表明した。

 また公民党の楊岳橋党首は「問題を解決する唯一の方法は5大要求(に応じること)だ」とし、特に普通選挙制度に関する改革が非常に重要だと強調した。

 デモ隊の強硬派と穏健派はいずれも「5大要求」について「一つも欠かすことはできない」と主張してきた。SNS上では「政治的なわなだ」「長官は演説で謝罪しなかった」などと香港政府の決定に疑念や反発を抱く声が相次いでいる。


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