しかし、最近、台湾でタピオカミルクティーが飲めなくなるのではという存続危機問題が表面化しました。問題になったのはタピオカパールの直径よりもわずかに太いプラスチック製のストロー。このプラスチック製ストローが深刻な海洋汚染をもたらしていることから、スターバックス社がストロー廃止を宣言し、タピオカミルクティーのストロー廃止に連動しました。
台湾では世界に先駆け、すでにプラスチック製ストローの使用を規制する法案が検討されはじめたそうで、黄文雄氏は台湾のこの「政治的意思決定」を高く評価し、なぜ蔡英文政権がこのような決断ができたのか、戦後台湾の環境保護運動にさかのぼって解説しています。
————————————————————————————-台湾で環境保護運動が進む本当の意味【黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」第243号:2018年7月10日】http://www.mag2.com/m/0001617134.html
*読みやすさを考慮し、小見出しは本誌編集部で付し、見出しも「台湾で環境保護運動が進む本当 の意味」から「タピオカミルクティーのストロー廃止問題で世界に先駆ける台湾」に付け替えた ことをお断りします。
◆台湾発祥のタピオカミルクティーが存続の危機!
日本でも、もはやお馴染みとなった台湾発祥のタピオカミルクティー。あの大きめのタピオカをストローで吸い上げる大胆な飲み方と、グミのような食感が受けてロングセラーとなっています。
そのタピオカミルクティーが存続の危機だというのです。理由はストロー。大きめのタピオカを吸い上げるには、専用の太いストローが必要ですが、そのストローの使用を規制する法案が台湾当局で検討されているというのです。
消費者からは、タピオカミルクティーが飲めなくなるとの不満が噴出しており、それに対して環境保護署の担当者が、「スプーンで食べればいい」との発言をしたことが、さらに消費者の反発を招いたという火に油状態です。
上記の記事によれば、「蔡英文総統はこの発言について会議で、『そんな言い方は社会に受け入れられない。私だって、タピオカミルクティーをどうやって飲めば良いか知りたい』と語ったという」とのことですが、プラスチック製のストローを規制する方向にあるのは間違いありません。
台湾に先駆けてプラスチック制ストローの使用を廃止すると発表したのは、アメリカのスターバックス社でした。以下、報道を一部引用します。
<コーヒーチェーン世界最大手の米スターバックスは9日、2020年までに世界の全店でプラスチック製ストローの提供をやめると発表した。使い捨てストローの大量消費が、プラスチックごみによる海洋汚染につながっているとの批判に配慮した。プラスチック製ストローのかわりに、直接口をつけて飲めるふたを使う。デザート風の「フラペチーノ」には、紙製や自然分解される素材のストローを提供する。本社がある米シアトルやカナダ・バンクーバーで今秋から切り替えを始め、世界に2万8千以上ある全店舗に順次広げる。
これにより、年間で10億本以上のプラスチック製ストローを使わずに済むことになるという。スターバックスのケビン・ジョンソン最高経営責任者(CEO)は「持続可能なコーヒーを世界で追求する私たちにとって重要な節目になる」とコメントした。>
◆深刻なマイクロプラスチックによる海洋汚染
ストローに限りませんが、プラスチック製の小さな製品による海洋汚染はかなり深刻な地球環境問題となっています。NHKは3年前の2015年に「クローズアップ現代」という番組で特集を組んで、視聴者に警告を発していました。
小さなプラスチック製品が海に捨てられると、海野中でプラスチックは細かく溶解し、海水に溶け出します。そして1ミリ以下の小さなゴミになって海水の中を浮遊します。この状態になったプラスチックをマイクロプラスチックと呼んでいます。マイクロプラスチックは、食物連鎖の中に入り込み、プランクトンが食べ、小魚が食べ、魚が食べ、海鳥が食べ、といった具合に様々な生物の体内に取り込まれます。
専門家によると、マイクロプラスチックは海水中の有害物資と融合することも多く、有害物質ごとマイクロプラスチックを体内に溜め込んだ生物は、なんらかの体調異変を起こしていくということまでが研究で分かっているそうです。もちろん、魚を食べている人間の体内にもマイクロプラスチックは体積します。
特に、アジアの海はマイクロプラスチック汚染が進んでいると指摘する専門家もいます。中国や東南アジアなど、リサイクルやごみ処理の方法が進んでいない国々がゴミを海に投棄するからです。
スターバックスの意思決定は実に潔いものであり、現代社会を代表する大企業としてあるべき姿だと言えるでしょう。しかし、どれだけ大きな企業でも、民間の一企業の動きだけでは世界を変えることはできません。そこには政治的意思決定が不可欠なのです。そういう意味では、台湾当局の決定はお見事としか言えません。
◆「打倒国民党」のカードだった台湾の環境保護運動
アジア経済研究所に在籍している寺尾忠能氏の論文『台湾の環境保護運動』には以下のような一文があります。
<台湾では、環境保護運動は政治的自由化、民主化の過程で、非国民党勢力と協力することで、それぞれが目的を実現し、その結果政治的自由化、民主化が進展していったと考えられる>
つまり、環境保護運動は、台湾の国民党政権と野党の攻防の中で、かつては野党だった民進党が「打倒国民党」のカードのひとつとして利用し、さらなる政治的自由を求めるためのツールの一つでもありました。そして民進党が政権を担ったいま、環境問題に力が入るのも自然の流れなのでしょう。
台湾は九州ほどの小さな島国でありながら、環境保護に対しては高い意識を持つよう努力してきました。スーパーで配っていたビニール袋を有料にしているのはもちろん、地球温暖化防止への取り組みとしてCO2削減の努力もしています。
◆タピオカミルクティーが台湾の街角から消えることはない
さて、話を冒頭のタピオカミルクティーに戻しましょう。プラスチック製ストローがなくなるかもしれないとの噂だけで、すでに代替品としてステンレスやガラスのストローが登場しています。台湾人の商魂を侮ってはいけません。プラスチック製ストローが廃止されたところで、タピオカミルクティーが台湾の街角から消えることはないでしょう。
資源問題と環境問題は、人類共通の課題として深刻な問題ですが、世界各国に問題意識があったとしても、その改善のために実行できるかというと、なかなかできないものです。意見の相違や国益がらみの問題などが、環境問題以前に各国の間に横たわっているからです。
台湾では、蒋介石親子時代に民主化運動のひとつとして環境運動がありました。台湾の環境運動は、実質的には華僑王国を打倒する民主化運動の一形態として推進されてきました。もちろん政治的には、代替エネルギー問題など即決できない問題が山積しています。
一国の中でも意見が割れて決着がつけにくい環境問題ですから、世界的に解決の道を探るのがどれだけ大変かが想像できます。しかし、そうして結論を先延ばしにしている間にも、マイクロプラスチック問題をはじめとする環境問題はどんどん進行しているのです。政治的決断が急がれます。