北京市内で行われたシンポジウムにおいて「必要があれば、軍事手段で台湾問題を解決することも
選択肢だ」と述べたと伝えている。
また、この発言について、共産党関係者の「党組織の管理下にある中国要人は“失言”するはず
はない。指導部の意向を代弁しているのだろう」と「対台湾政策転換のための観測気球だ」という
2つのコメントを紹介している。
この記事を書いた矢板明夫記者は「11月末に行われた統一地方選挙で野党、民主進歩党が圧勝し
た台湾の“中国離れ”を牽制する思惑があるとみられる」と指摘している。
12月3日から6日にかけて実施した日本李登輝友の会の「役員・支部長訪台団」(梅原克彦団長)
では、李登輝元総統はじめ沼田幹夫・交流協会台北事務所代表などいろいろな方から統一地方選挙
の感想を伺ったが、もっとも驚いているのは中国政府かもしれないという感想もお聞きした。
中国の対台湾政策はこれまで「三中一青政策」と言われるものだった。三中とは「中小企業、中
産階級、中南部」という3つの中、そして「太陽花学運(ひまわり学生運動)」以降は「一青」つ
まり青年層を重視するという政策を取ってきた。
ところが、統一地方選挙で、中国に近づき過ぎた警戒感から馬英九政権は民意を失い、与党であ
る中国国民党は歴史的な大敗北を喫した。その要因として、特にこれまで選挙にあまり関心を持た
なかった20代から30代の青年層が投票行動に出たことが大きい。
ましてや、中国が重視していた「中小企業、中産階級、中南部」のほとんどが反中国国民党の投
票行動となって現れた。
高雄市の陳菊候補(民進党)の得票数は100万票近くに伸び、次点だった中国国民党候補とは54
万票もの票差をつけた。台南市の頼清徳候補(民進党)も71万票を獲得、得票率は72.9%となり、
次点の中国国民党候補に44万票、得票率27.1%に大差をつけて当選した。いずれも過去最高の得票
数だった。
ましてや、鉄壁といわれた新北市では中国国民党の朱立倫氏は2万4528票差で辛うじて当選し、
桃園市では中国国民党の呉志揚候補が民進党の鄭文燦候補に2万9753票差で落選している。中国国
民党の牙城だった台北市も、中国国民党候補は24万票差で落選している。
つまり、中国国民党は中南部どころか北部でも負け、大きな地殻変動が起こったのだ。
地方選挙とはいえ、江宜樺・行政院院長が辞任して内閣は総辞職し、馬英九氏も中国国民党主席
を辞任する事態になってしまった。この想定外の事態に慌てたのは、やはり中国政府だろう。
これまで台湾を核心的利益と位置づけ、胡錦濤政権以来、武力統一という言葉を避けつつ「平和
的統一」を狙って馬英九政権を経済面で手なずけてきた中国に、台湾の民意は「中国NO!」を突
き付けた。中国の「三中一青政策」という台湾政策は破綻した。
この事態は「台湾の“中国離れ”を牽制」するという段階ではなく、対台湾政策を転換せざるを
得ない事態だろう。それが、これまで封印してきた「武力統一」について、劉精松・大将の口を借
りて「軍事手段で台湾問題を解決することも選択肢」という表明になったとみられる。すでに脅せ
ばひるむ台湾ではない。ひまわり学生運動がそれを証明している。
中国の対台湾政策の転換は、対日本政策の転換にもつながる。今後の中国の出方を注意深く見守
りたい。