台湾を危うくする者

台湾が「岩手・宮城内陸地震」に600万円の義捐金を決定!

 昨日の本誌で紹介しようと思っていてつい失念してしまったのが、産経新聞の1面コ
ラム「産経抄」だ。昨日も記したように、今回の事件で、一身を賭して台湾政府を諫言
した許世楷・台湾駐日代表処代表の出処進退はみごとだった。その潔さを「産経抄」も
取り上げ褒め称えた。

 衝突事件から3日目の6月13日午前10時、許代表は台湾政府の意を体して「東京・六本
木の日本交流協会東京本部を訪れ、高橋雅二・交流協会理事長に対し『釣魚台はわが国
の領土であり、地理的には宜蘭県頭城鎮に属する』などの厳正なる抗議の申し入れを行
うと同時に、何鴻義・船長の引渡しと事故に対する賠償を要求した」(6月13日「台湾
週報」)。

 許代表はこの有事に際して、日本側の意向をできるだけ正確に台湾側に伝えようと腐
心していた。それは、台湾メディアへの応対に如実に現れていた。

 許代表は高橋理事長との交渉後に台湾メディアによるインタビューに応じ、高橋理事
長が台湾側の要求を迅速に日本政府に伝えると約束したことを明らかにするとともに、
日本側の話を伝えた。

 「日本はこの事件が台日間の良好な関係に影響をあたえることを望んでおらず、何船
長に対して法律に基づいて処理しており、いやがらせをしているのではないとの認識を
示したことを伝え」、また事故原因についても、台湾の船員の話と併せて日本側が故意
ではなかったと主張していることも紹介し、「事実に基づいて処理しなければならない」
と強調したのだった(6月13日「台湾週報」)。

 つまり、事が大きくなる前に、早く日台双方が協力して事故原因を追究できる態勢を
とるようにと促していたのだ。特に台湾側がヒートアップする兆しを見て「冷静な対応」
を訴えたのである。

 それを、国政運営に責任持つべき立法委員に「売国奴」と非難されてはたまらない。
その輩こそ「台湾を危うくする者」だということを明白にするため、辞任を表明したの
だった。この一石が台湾を動かしたのである。

 事故から怒涛の10日間が過ぎ、昨19日、許世楷代表は台湾から日本に戻ってきた。
17日、馬英九総統は許代表の辞意を認めたものの、未だ後任の発表はない。

 なお、台湾政府は昨19日、この衝突事故騒動の真っ只中の6月14日に発生した「岩手
・宮城内陸地震」に対して、600万円の義捐金を贈ることを決定したという。恐らくこ
れも、許世楷代表の提案であろう。

 代表に就任した4年前の平成16年(2004年)10月下旬、新潟県中越地震が起こったと
き、被災地の復興に役立ててもらおうと、台湾は義援金800万円を日本側に贈っている。
このとき、記憶に間違いがなければ、確か中国大使館は中国人被災者に対してのみ饅頭
を配っただけだった。

 また昨年3月の能登半島地震のときも、許代表はわざわざ石川県金沢市の石川県庁ま
で足を運び、谷本正憲知事に義援金500万円を贈っている。

 台湾側からサインは出た。日本はそれをどう受け止めるかだ。

                    (メルマガ「日台共栄」編集長 柚原 敬)


【6月19日 産経新聞「産経抄」】

 「売国奴」と決めつけられて、怒りをあらわにしない人はいないだろう。まして、常
に国のために尽くしてきたという自負があれば、なおさらのことだ。

 ▼台北駐日経済文化代表処の代表を務めてきた許世楷(コーセーカイ)氏が、辞意を
表明して認められた。「志ある者は殺されても、辱めは受けない」との言葉を残して。
与党・中国国民党の立法委員(国会議員)が「台奸(台湾の売国奴)」と誹謗(ひぼう)
したことに抗議したものだ。

 ▼許氏は日本留学中、盧千恵(ローチエンフイ)夫人とともに、台湾独立運動にかか
わったことで、33年間帰国できなかった経験をもつ。「駐日大使」として、再び日本で
過ごしたこの4年間は、過去最良といわれる日台関係を演出した。台湾でのアンケート
で、日本が「尊敬する国」で1位になったと、盧千恵夫人が著書で紹介したほどだ。

 ▼それだけに、退任間近になって、尖閣諸島沖で起きた衝突事件の衝撃は大きかった
はずだ。それにしても、今回、台湾側の強硬姿勢は度が過ぎている。行政院長(首相)
が「開戦の可能性を排除しない」と発言し、一時は軍艦の派遣も取りざたされた。やは
り、尖閣諸島の日本領有を認めない中国との共闘を模索する動きもあるらしい。

 ▼実は評論家の鳥居民氏が、今年3月の「正論」で、事件を“予言”していた。「中
国共産党は尖閣諸島を利用して、日本と台湾のあいだに不和を起こさせ、台湾に反日感
情の火種をつくり、それを大火にしたいと願うだろう」と。

 ▼「台湾と中国をきちんと区別してほしい」と日本で訴え続けた許氏もまた、事件の
背後に、何かがうごめいていると、気づいたのかもしれない。だから政府に「冷静な対
応」を訴えた。それを非難する議員こそ、台湾を危うくする者だと。