*読みやすさを考慮し、小見出しは本誌編集部で付したことをお断りします。タイトルも「ひまわ り学生運動から5年、台湾・香港・ウイグルで起きた大きな差」から「中国の脅しに屈しない強 さをもたらした『ひまわり学生運動』」と改題したことをお断りします。
◆政治活動を精力的にこなす「ひまわり学生運動」出身者
前行政院長の頼清徳氏が2020年の総統選挙への出馬を表明しましたね。台湾のマスメディアはこのことでもちきりです。
ところで、3月18日は、ひまわり学生運動が始まった日であり、今年で5年が経ちました。蔡英文総統も、フェイスブックで当時を振り返り、夜通し議論したことなどをつづりつつ、「私が総統でいる限り、一国二制度は実現しない」と強調しました。
ひまわり学生運動の中心人物だった林飛帆、陳為廷、黄國昌は、「島國前進」という団体を経て、「時代力量」という政党を立上げ、それぞれが政界で活躍しています。特に、時代力量の党主席を務めていた黄國昌は、今年に入って党主席から退くことを表明したことで、マスコミを賑わせました。
そのほか、頼品[女予]、呉崢、曾柏瑜など、当時、立法院に立てこもった彼らも、時代力量に関わって政治活動を精力的にこなしています。やはり、ひまわり学生運動は彼らにとって大きな転機になったようです。
また、時代力量から立法委員に当選し、政界で活躍するロックスターの林昶佐が、当時の学生たちの受け皿としての政党を創り上げたいと言っていたことを有言実行し、彼らの背中を押したことが、彼らの政治への道を切り拓いた部分もあるでしょう。
◆台湾と香港の違い
ひまわり学生運動は、香港の雨傘革命とよく比較されます。雨傘革命のほうが規模も大きく、期間も長かった。しかし、雨傘革命のデモは香港政府という名の中国政府に強制排除されました。デモの排除には催涙弾も使われました。
台湾のひまわり学生運動は、密室で行われていた「サービス貿易協定」の批准を阻止することに成功しました。この違いこそが、台湾が台湾たる所以です。台湾は民主国家だから、デモを排除するのに催涙弾は使いません。学生たちには、政府と話し合う権利がありました。
蔡英文総統は、フェイスブックで当時を振り返ってこう言っています。
「この5年で台湾は大きく変わりました。経済は世界市場に向けて前進し、訪台観光客の数は記録を更新し、台湾製品は世界中で売られるようになりました。しかし、一つだけ変わらないものがあります。中国による台湾併合の圧力です。変わらないどころか、『一国二制度』を押し付ける圧力はより強くなってきています」
◆台湾の白色テロ時代を再現する中国
今、中国の新疆ウイグル自治区では1万3000人の「テロリスト」が逮捕されています。
「テロ」という名目で、ウイグル人などの少数民族がどんどん強制的に収容施設に送られています。これは、台湾の白色テロ時代と同じ状況です。
香港の「銅羅湾書店」の関係者は失踪後、中国当局に長期拘束されたことが発覚、保釈後の現在もなお、中国政府に監禁される恐れがあり、本人はアメリカへの移住を求めています。
拘束の名目は、習近平批判本を許可なく中国本土に販売したということでした。臭いものにはフタをするにしても、あまりにも強引だし、ウイグル自治区での逮捕と何ら変わりません。これが「一国二制度」の実態です。
時代力量の林昶佐は言っていました。今の台湾には主権も言論の自由もある。これこそが国家として最低限必要なことであり、台湾はすでにそれを兼ね備えている。あとは、国際社会で「特殊な地域」ではなく「国家」として認められるだけでいい。台湾はすでに独立国家としての資質を持っている。国内の現状を変える必要はない。変えるべきは国際社会の対応だと。
ひまわり学生運動を経て台湾政界で活躍する若い人たちが、蔡英文総統の「私がいる限り一国二制度は実現しない」との発言を支える活動をしている今の台湾政界は、決して中国の脅しには屈しない強さを持っています。
◆21世紀の最後にして最大の問題は台湾問題
台湾について、戦後の日本の文化人は、大きくわけて二つの見方をしています。ひとつは、「中国の絶対不可分の一部」という中国政府の主張に唱和して、台湾の主権を無視する言論です。
もうひとつは、それ以外の主張です。例えば、すでに故人となった元駐タイ大使の岡崎久彦氏は、「21世紀の最後にして最大の問題は台湾問題だ」と言いました。上智大学名誉教授の渡部昇一氏は、台湾独立を認めない日本人は偽善者だと言ったことがありました。
国民国家としての条件としては、政府、国民、領土、主権を有するだけでなく、外国からの認知や承認が必要です。中国が主張する、「台湾は中国の絶対不可分の一部」の根拠は、中国の古典に「台湾は古より中国に属す」という記述があるからというだけです。ただそれだけで、台湾を自分のものだと主張するのは「強盗と同じだ」と私は思います。
中国は、伝統的に「民意」よりも「天意・天命」を重視してきました。そのため、未だに民意を問うシステムがありません。だからこそ、台湾は2020年の総統選挙をもっと中国政府に宣伝するべきなのです。台湾がどれほど立派な主権国家であるか、台湾がいかに自由な民主国家であるかを、見せつけるいいチャンスなのです。