「もうトラ」で急変、台湾有事と次の日本首相の行方

【黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」:2024年7月17日号】 https://www.mag2.com/m/0001617134*読みやすさを考慮し、小見出しは本誌編集部が付けたことをお断りします。

◆「もうトラ」どおりトランプ大統領が再選したら

7月13日、ペンシルベニア州で選挙演説中のトランプ元大統領が銃撃されたニュースは、世界に衝撃を与えました。

トランプ氏は耳を負傷したものの、銃弾は「奇跡的に」頭部からそれたために、命に別状はありませんでした。

シークレットサービスに囲まれ、会場を後にしながらも、拳を突き上げて「FIGHT、FIGHT」と叫ぶトランプ氏の姿は、暗殺を逃れた強運さに加えて、暴力に屈しない力強さを見る者に与えました。

これで「もしトラ」(もしもトランプが再び大統領になったら)から、「ほぼトラ」(ほぼトランプ復活確実)、「もうトラ」(もうトランプに決まった)とまで言われるようになりました。

ただ、トランプ氏が大統領に再任されることで、世界的なパワーバランスの変化が懸念されています。

とりわけ、トランプ氏は台湾に思い入れがないため、中国による台湾統一が進むという説も少なくありません。

中国自身、トランプ政権になると台湾はアメリカの捨て駒になる可能性があると、半ば恫喝的に主張しています。

トランプ氏は2023年7月のFOXニュースのインタビューで、中国が台湾を攻撃した場合、アメリカの大統領として台湾を守るかどうかと質問された際、これに直接答えず、「その問いに答えたら、交渉上で非常に不利な立場に追い込まれる」と述べたうえで「とはいえ、台湾はわれわれの半導体事業の全てを奪った」と語りました。

これを受けて、国務院台湾事務弁公室の陳報道官は定例記者会見で、「台湾はいつでもチェスの駒から捨て駒に変わり得る」と述べました。

また今年7月16日にブルームバーグが報じたインタビューでは、台湾の防衛に関して、「台湾は我々に防衛費を支払うべきだ」と主張、さらに「台湾はアメリカから半導体ビジネスを奪った」と批判したことで、台湾半導体大手TSMCの株価が急落しました。

これに対して、台湾の卓栄泰行政院長(首相に相当)は、17日に報道機関との懇談会で「(米台は)台湾海峡やインド太平洋地域に対して、ともに責任を担っている。

我々はより大きな責任を負うつもりだ」と述べました。

とはいえ、トランプ氏の「ディール」は前回の大統領時代から「通常運転」です。

ただし、前回とまったく異なるのは、トランプ氏が非常に信頼していた安倍晋三元首相がいないことです。

「台湾有事は日本有事」と主張していた安倍元首相ですから、トランプ氏にも台湾防衛の重要性を説いたはずです。

アジアの安全保障問題が世界的にますます重要になりつつある現在、安倍元首相の不在は、きわめて大きいでしょう。

とはいえ、必ずしも台湾にとって懸念材料ばかりではありません。

トランプ氏から副大統領候補に指名されたJ・D・バンス上院議員が、強烈な反中で親台湾派だからです。

バンス氏は昨年4月20日、ヘリテージ財団での講演で、米国にとって最大の脅威は中国の台湾侵攻だと強調し、ジョー・バイデン大統領がウクライナへの軍事援助を優先したため、台湾への武器供与が遅れたと批判しました。

また、産経新聞の前台北市局長・矢板明夫氏も、自らのフェイスブックで、「多くの台湾メディアは、バンスが常に台湾を支持しており、典型的な反中・反台湾主義者であると言及している。

もし彼が当選すれば、同じく反中・親台派のマイク・ポンペオ将軍と手を組み、トランプ政権で中国との新たな対立を作り出す可能性が高い。

台湾からすれば、少なくともこの2人は、民主党のカマラ・ハリスやブリンケン、オースティンなどよりは心強い」と述べています。

加えて、トランプ大統領が復活すると、台湾独立派の頼清徳総統と、台湾に「自立」を求めるトランプ大統領の方向性が一致し、台湾の核武装が進む可能性があり、中国としてはそれは最悪のシナリオとして、かなり警戒しているという分析もあります。

日本にしても、核武装という選択肢が現実味を帯びてくるかもしれません。

いずれにせよ、今後は「トランプ大統領の復活」ということを前提に、世界は急速に動いていくことになります。

◆自民党総裁選で高まる高市早苗議員への期待感

日本では9月に自民党総裁選挙を控えポスト岸田が取り沙汰されていますが、安倍晋三イズムを継承する者が、もっともトランプとうまくいくパートナーとなるはずです。

出馬する候補者と目されているなかで、もっとも安倍元首相と政治信条が近いと言われているのが高市早苗氏であり、保守陣営からの期待も非常に高いものがあります。

政治資金の問題による自民党のあまりの不人気ぶりから、次の選挙で政権交代が起こる機運が高まっていました。

ところが、都知事選挙をきっかけとして、立憲民主党の支持率が大きく下がったことで、その流れも止まってしまったようです。

その原因の一つとなったのが、蓮舫氏や支持者による他候補者への批判や、小池百合子氏の演説をヤジで妨害する様子を蓮舫支持者が嬉々としてXなどで取り上げるなどといった姿勢であったとも言われています。

こうした姿勢が、無党派層に嫌われてしまったのでしょう。

一方、高市氏は前回、2021年の自民党総裁選挙において、高市支持者が他候補への政策批判を超えた罵詈雑言を発する行動があると多数報告を受け、Xにおいて、「他候補への誹謗中傷や恫喝や脅迫によって確保される高市支持など私は要りません」と、きっぱりと宣言していました。

支持者による他候補への誹謗中傷行為は、その支持者を擁する候補者自身の品位を貶めることになります。

そのため、他候補を誹謗中傷するような支持者は必要ないと宣言することは、リスクマネジメントの一環でもあるのです。

逆に、自分を応援してくれる身内だからと見過ごせば、信用は失墜し、多くの人から見放されることになります。

今回の都知事選挙をめぐっては、こうした高市氏の過去の発言も掘り起こされ、「上に立つ者としての風格の違い」といった意見も散見されました。

トランプ大統領の誕生が確実視されるなか、日本では誰が首相となり、トランプのパートナーとなるのか、それは日本のみならず、世界を変えることにも繋がるのです。

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