日華議員懇談会が中国の呉江浩駐日大使に抗議文

本誌でお伝えしたように、台湾の頼清徳総統の就任式に参列した国会議員に対し、中国の薛剣・駐大阪総領事が5月24日付で「『台湾独立』分裂勢力の肩を持ち、極めて誤った政治的シグナルを発するもの」などと脅迫まがいの抗議書簡を送っていた。

中国の呉江浩・駐日大使も5月20日に行われた座談会で「日本が中国分裂を企てる戦車に縛られるなら、日本の民衆が火の中に連れ込まれる」と発言し、外務省の岡野正敬・事務次官が呉大使に直接抗議する事態になった。

松原仁・衆議院議員の「呉江浩・駐日中国大使を国外追放すべき」とする5月21日の質問主意書に、岸田総理による5月31日の答弁書は「呉江浩駐日中国大使の発言は、駐日大使の発言として極めて不適切であると考えており、中国政府に対し厳重な抗議を行ったところであるが、お尋ねの点も含め、我が国政府の今後の対応について、現時点で予断をもってお答えすることは差し控えたい」と及び腰だ。

日華議員懇談会(古屋圭司会長)は所属議員へ抗議文が届いたことから、5月31日に緊急役員会を開いた上で、これら中国側の不適切な発言や抗議書簡に対し、呉江浩・駐日大使に「常軌を逸した発言は極めて不適切であると断固抗議する」とした抗議書簡を送った。

この抗議書簡では「私たちの考えを直接聞くこともせずに一方的な発言を繰り返すこと自体理解できませんが、国交ある国の大使として、甚だ不適切な表現であり、大国として、あるまじき発言と言わざるを得ません」と中国大使発言を強く非難している。

すでに産経新聞は薛剣・駐大阪総領事の抗議書簡の全文を明らかにし、本誌でも紹介した。

ここに日華議員懇談会が古屋圭司会長名で呉江浩・駐日大使に送った抗議書簡の全文をご紹介したい。

なお、この抗議書簡の一節に「中国を分断させるなどという意図は発想にもありません」とある。

これは、「日本が中国分裂を企てる」(呉大使)や「台湾独立分裂勢力の肩を持ち」(薛駐大阪総領事)の言葉に応答したものだが、意味深な表現だ。

表向きは中国側の言い分を前提に応答したように見えるものの、そういう「発想」はないと言い切っている。

どうやら、中国の「一つの中国」という主張を暗に否定したようだ。

分裂していないものを「分裂」と認める発想はないと言っている。

1972年の日中共同声明で、中国は「台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部」と主張したものの、「日本国政府は、この中華人民共和国政府の立場を十分理解し、尊重」ということに留め、承認はしていない。

つまり、台湾と中国は分裂したという前提に立っていないのが日本政府の立場だ。

それを踏まえた表現が「発想」はないとなったようだ。

ちなみに、1964年2月の国会答弁で、当時の池田隼人総理は、台湾の帰属についての質問に「台湾は中華民国のものではございません。

帰属は連合国できまるべき問題でございますが、中華民国政府が現に台湾を支配しております。

・・・台湾が中華民国政府の領土であるとお考えになるのならば、それは私の本意ではございません。

・・・いまの世界の現状からいって一応認めて施政権がありと解釈」していると答弁している。

つまり、台湾は中華民国が支配しているが、領土権はなく、施政権を持っている状態であり、台湾の帰属は連合国で決まるという「台湾の帰属は未定」という立場に立っていることを明らかにしている。

それゆえに、歴代総理も「台湾の領土的な位置付けに関して独自の認定を行う立場にない」という政府見解を繰り返し述べている。

日華議員懇談会の抗議書簡の「中国を分断させるなどという意図は発想にもありません」という背景には、まず「台湾の帰属は未定」、つまり、台湾は中華民国に帰属した歴史事実はないという日本政府の見解があった。

それを敷衍すれば、1949年に建国した中華人民共和国に帰属したことは一度もなく、日中共同声明でも、中華人民共和国政府が中国の唯一の合法政府であることを承認したものの、台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であることは承認しなかったのだから、その歴史事実を踏まえた表現だったと思われる。

紳士的な抗議文であるものの、中身はかなり辛辣だ。


中華人民共和国 駐日本国特命全権大使  呉 江浩 殿

 初夏の候、益々ご清栄のことと存じます。

さて、呉大使は、台湾総統就任式典が行われた5月20日に都内の座談会において「台湾へ武力行使の放棄も絶対確約しない。

台湾海峡に緊張をもたらす根源は台湾当局の独立を企てる試みや、外部勢力が台湾問題で中国を制しようとすること。

日本が中国分裂を企てる戦車に縛られるなら、日本の民衆が火の中に連れ込まれる」と発言されました。

さらには、日華懇31名の訪台団に対し「公然と台湾独立勢力に加担するもの、極めて誤ったシグナルであり断固反対する」と述べました。

また、薛剣駐大阪総領事は、台湾総統就任式典に出席した国会議員に対し「台湾独立分裂勢力の肩を持ち、極めて誤った政治的シグナルを発するもので、断固反対し、強く抗議する」旨の書簡を送りつけました。

日華議員懇談会は、超党派議員連盟であり、今回の訪台団は所属する全政党が参加しました。

目的は、古き良き真の友人である台湾との絆を深めるための友好親善であり、中国を分断させるなどという意図は発想にもありません。

私たちの考えを直接聞くこともせずに一方的な発言を繰り返すこと自体理解できませんが、国交ある国の大使として、甚だ不適切な表現であり、大国として、あるまじき発言と言わざるを得ません。

台湾は、公正公平な民主主義の選挙によって、新しい総統が選ばれました。

私たちは、基本的価値を有する大切な友人として、台湾と台湾海峡の平和と安定を願っています。

その為の協力と交流の深化は重要なものと認識しています。

新総統は、就任演説で「平和が唯一の選択肢であり、台湾海峡の平和と安定は国際社会の安全と繁栄に不可欠である。

対抗ではなく対話を、封じ込めではなく交流促進を期待している」と述べられました。

台湾海峡の安定は世界が望んでおり、言葉や武力での威嚇や圧力は、誰も得することはありません。

にもかかわらず、中国は早速軍事演習を実施し、台湾海峡の緊張を一方的にエスカレートさせました。

世界の平和と安定を望む台湾と我々の思いは一致しています。

日華議員懇談会は、この度の呉江浩大使の常軌を逸した発言は極めて不適切であると断固抗議するとともに、日本国国会議員として、良識に従い、今後も職責を全うしていくことを、ここにお伝えします。

今後とも貴殿のご活躍、そして貴国が東アジアの安定に貢献されますことを心よりお祈り申し上げます。

令和6年5月31日

                        日華議員懇談会 会長 古屋圭司


※この記事はメルマガ「日台共栄」のバックナンバーです。


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