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台湾次期総統候補選び、民進党は蔡英文と頼清徳の2強対決へ  野嶋 剛(ジャーナリスト)

【WEDGE infinity「野嶋剛が読み解くアジア最新事情」:2019年3月19日】

 台湾で与党民進党の次の総統選挙の候補者立候補手続きで、18日、元行政院長の頼清徳氏が出馬を表明し、党本部に対して立候補を申し出た。すでに現職総統の蔡英文氏が出馬を表明しているため、蔡英文VS頼清徳という2強対決構図の激しい選挙戦になることが事実上確定した形になった。

 頼清徳氏は出馬しないとの見方が大勢を占めているなかの出馬宣言に、台湾には驚きが広がった。台湾のベテラン政治家が筆者に語ったところによれば、17日の深夜、この人物に対して、頼清徳氏から電話があり、「自分の政治家人生を賭けて、チャレンジしたい」という内容の一報がなされたという。

 今後は、4月4日から9日までの間に候補者による政見発表会があり、世論調査の結果をもとに決まった候補者が4月17日に発表される。頼清徳氏は、人気では民進党の政治家のなかではナンバーワンだが、党内の主流派は蔡英文総統の再任を目指すことで一致しており、複雑な戦いになりそうだ。

◆頼清徳氏が出馬に踏み切ったワケ

 頼清徳氏の立候補表明の伏線には、16日に投開票された立法委員(国会議員)選挙の結果があった。4つの欠員を争う補欠選挙で、党勢が弱体化する民進党の全敗が危ぶまれるなか、接戦の末にかろうじて2議席を確保し、来年1月以降の総統選・立法委員選に向け、首の皮一枚がつながった形になった。

 立法委員の補選は、新北市、台南市、彰化県、金門県にある4つの議席を争ったもので、新北市、台南市は民進党の候補が勝利し、彰化県、金門県は国民党と国民党系の候補がそれぞれ勝利した。新北市、台南市の選挙区は、民進党が圧倒的に強い「グリーンの中のグリーン(グリーンは民進党のイメージカラー)」と呼ばれるところで、民進党の選挙としては過去最悪レベルだった2008年の立法委員選挙でも落とさなかった全国17の選挙区のうちの2つだ。

 ここで敗北すれば、民進党の希望は完全に打ち砕かれるほどのダメージになることが予想されるため、全党の力を挙げて2つの選挙区の勝利を狙った。特に注目を集めたのは頼清徳氏の側近の一人である郭国文・元労働次官が出馬していた台南市の第二選挙区だった。対立候補の国民党候補が、先日の統一地方選で「韓流」旋風を巻き起こして高雄市長に当選した韓国瑜氏の勢いを借りて「対中関係改善による農漁業振興」をアピールし、民進党の分裂もあって一時は10%ほどの支持率の差をつけられる局面もあった。

 しかし、市長を2期務めたお膝元・台南市での敗北は許されない頼清徳氏は連日、郭国文氏と一緒に朝から街頭に立って選挙運動に積極的に参加。「彼自身の選挙でもこれほど熱心に運動しているのを見たことがない」と言われるほどの力の入れようを見せ、劣勢からの逆転につなげることになった。

 そのため、頼清徳氏が今回、総統選挙に立候補する目は残ったのである。一方で、党内の多数派の声は、次期総統選は「蔡英文総統・頼清徳副総統」の「最強コンビ」で戦うべきだという意見も少なくなく、頼清徳氏があえて党内の反対の声を押し切って名乗りを上げた背景には、前回の統一地方選で大敗を喫した民進党を救うには、低迷する蔡英文総統に任せておくわけにはいかず、自分が立候補するべきだという決意があったと見られる。

 また、現在年齢が59歳と決して若くない頼清徳氏にとって、今回の機会を逃せば次期選挙では台頭してきている次世代に追い越されかねないという危機感もあったと見られる。

 これまでの各種世論調査では、民進党の党内選挙で蔡英文氏と頼清徳氏の争いとなった場合、ほぼダブルスコアで頼清徳氏が蔡英文氏を上回るという結果が出ているケースが多い。独立派は就任以来、中国に融和的だった蔡英文氏を嫌っており、頼清徳氏を支持するだろう。しかしながら、過去に台湾の総統の現職が再選のために出馬できなかったケースは一度もない。そして、陳水扁氏も馬英九氏も、再選の選挙では対立候補を抑えて当選を果たしている。そのなかで、党内主流派には蔡英文氏の再任を推す声が支配的で、過去の世論調査の通りの民意が党による世論調査で現れるかどうかは未知数である。

◆台湾総統選を見据えた「熱戦」に注目

 一方の蔡英文氏は、昨年11月の統一地方選の大敗後、それまではあまり受けなかったメディアのインタビューや記者会見を積極的に受けるようになり、フェイスブックなどでも活発に情報発信するなど、従来の「内向き」批判の解消に努める姿勢を見せている。また、中国が台湾への統一攻勢を強めるなかで、蔡英文総統も厳しい対中姿勢を見せており、一時に比べて、党内の求心力が回復しつつある傾向を見せている。それだけに、人気のある頼清徳氏との競争となるのは避けて安全に総統選に臨みたかったとみられる。

 現在、台湾の政治家のなかで最も勢いのある国民党の韓国瑜・高雄市長は、対中関係の改善を掲げて、対中貿易の振興による農民や漁民の票までも集める戦略をとっている。そのなかで自らを「台湾独立の仕事に一生を捧げている」と公言している頼清徳氏に対して、国民党や中国政府がネガティブキャンペーンを仕掛けてくる可能性もある。人気が低迷する蔡英文氏が相手のほうが国民党は戦いやすい、という計算が働くに違いないからだ。

 いま、野党で政権奪還を狙う国民党は、前党主席の朱立倫氏や現党主席の呉敦義氏、元立法委員長の王金平氏、前総統の馬英九氏、そして、人気ナンバーワンの韓国瑜氏などが候補として取りざたされ、乱戦気味になっている。総統候補選びの党内手続きが民進党よりも時期的に遅れている国民党は、この民進党の総統候補選びの展開を慎重に見極めていくだろう。

 虎視眈々と立候補の機会を狙っていると見られる第三勢力の柯文哲・台北市長の動きも、民進党の候補者が蔡英文氏になるか頼清徳氏になるかで影響を受けてくるだろう。来年1月が想定される台湾総統選の流れを決めるうえでも、民進党の候補者選びは見逃せない熱戦となりそうだ。


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