「韓国の言うことに振り回されているのは、時間の無駄でしょ」
こんな率直な正論が意外なところで聞かれた。
筆者は25日から台北に来ている。昨年に続き、市内の複数の大学で講義するのが主目的だが、合間に街歩きや美食を楽しみ、さらに蔡英文総統の出身政党、民主進歩党の本部を訪ねたり、複数の台湾当局関係者と面会したりして過ごした。
台北を歩いてみて感じる、昨年との大きな違いは、中国人観光客の姿がないことだ。中国政府が8月1日、台湾への個人旅行を禁止したからである。この策は蔡氏が米国から兵器を購入したことなどへの報復だと日本では報じられた。
だが、実のところ、それだけとはいえない。
香港でのデモに頭を悩ます中国当局が、台湾旅行によって自国民が新たな情報に触れ、触発されるのを恐れたがゆえの措置でもある。大陸客が消えた台北の巷では不満の声が聞かれると予想したが、さにあらず、であった。
「中国頼みはリスクが大きい」「大陸以外からもっと大勢来てもらえるよう努力すればいいんだ」「日本人も、もっと来て」
意外なほど前向きな声が多い。もちろん、筆者が聞いたわずかなサンプルですべてを語ることはできないが、この前向きさには理由がある。
台湾はインバウンドの歴史が長い。新参者の日本とでは、数十年のキャリアの差がある大先輩だ。過去に幾度も客足の遠のく憂き目を見、それを乗り越えた経験がある。
そして、2016年、蔡政権誕生後すぐから、中国は台湾の全産業に「嫌がらせ」を続けてきた。結果、中国人客や投資が目に見えて減り、経済が冷え込んだ。それをネタに蔡氏を批判する声が昨年はかなり聞かれたが、今年は違った。
台湾人が「中国離れ」に比較的前向きな理由の第1は香港ショックだ。これが再選を目指す蔡氏にいまのところ有利に働いている。
だが、それよりも、蔡政権がこの状況にひるまず、観光産業の「中国頼み脱却」に敢然と舵を切ったことが大きい。その結果、馬英九前政権最後の年には年間300万を超えていた中国人客が翌年から激減し続けたにもかかわらず、年間のインバウンド総数は1000万人を超えて増え続けているのだ。
東南アジアやオセアニアといった、「ルックサウス(南進)作戦」が功を奏していると台湾当局関係者はいう。彼は返す刀で訊いてきた。
「日本はなぜ、いつまでも中国・韓国依存を続けるんですか。リスクは分かったでしょうに」
耳の痛い問いだ。別の人物はこうも言った。
「今週明けてまた、韓国の株式もウォンも投げ売りされていますね。今回ばかりは日本を怒らせちゃったから、もう韓国経済はダメでしょう。それは自業自得」
韓国を輸出管理の優遇対象国「グループA(『ホワイト国』から改称)」から除外する政令は28日に発効した。韓国側は今後いっそう、日本にすがりつこうと、あの手この手を繰り出すだろう。
だが、今回こそ「勇気ある無視」が必要だ。眼前の「泣く子」にばかり患わされていては、日本自身が世界から取り残されてしまいかねない。
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有本香(ありもと・かおり)ジャーナリスト1962年、奈良市生まれ。東京外国語大学卒業。旅行雑誌の編集長や企業広報を経て独立。国際関係や、日本の政治をテーマに取材・執筆活動を行う。著書・共著に『中国の「日本買収」計画』(ワック)、『リベラルの中国認識が日本を滅ぼす』(産経新聞出版)、『「小池劇場」の真実』(幻冬舎文庫)、『「日本国紀」の副読本 学校が教えない日本史』(産経新聞出版)など多数。