台湾新世代の「天然独」が拒絶した習近平の求愛  楊 海英(静岡大学アジア研究センター長)

台湾新世代の「天然独」が拒絶した習近平の求愛  楊 海英(静岡大学アジア研究センター長)
内モンゴル出身である楊海英氏の台湾へ寄せる思いは深い。名著『墓標なき草原』で描いたように、生まれ故郷である内モンゴルは外来政権である中国共産党に侵された歴史を持ち、同じく外来政権の中国国民党によって台湾が侵され、また「一国二制度」を当てはめて併呑しようとしている中国共産党の餌食になろうとしているからだ。

 楊海英氏は10年ほど前、台湾を訪問したときの感懐を「台湾と内モンゴルの悲哀」と題して産経新聞に寄稿したことがある。「台湾から中国を眺めると、私の故郷内モンゴルと似ている」として、次のようにつづっていた。

<日本の敗退後に入ってきた中共の八路軍は規律が悪く、暴虐を尽くした。国民党軍が台湾人を殺戮(さつりく)した「二・二八事件」と性質は同じだ。1960年代になると、過去に「対日協力した罪」を口実にモンゴル人は大量虐殺されたが、台湾では圧政が敷かれた。どちらも外来国家がもたらした悲劇だ。>

 楊海英氏は今回の台湾の総統選挙を視察し、若い世代の動向に注目し「若者たちの動向が蔡氏の再選を促した。若者たちのほとんどが『天然独』(てんねんどく)、すなわち『生まれながらの独立派』だからだ」と、その感懐を「iRONNA」に寄稿している。下記にその全文をご紹介したい。

 ちなみに、蔡英文総統は再選が決まった後の国際記者会見を経て、選挙対策本部の外で待つ多くの人々に「何人来たのか分からないが、今晩は実に多くの人たちが、ここへ集まってくれました。もう遅いし、帰って寝ましょう」と笑わせつつ、集まった人々に大声で感謝の念を示した。

<台湾人民に対して最大の感謝を示したい。すべての若者に感謝したい。今日の投票のために南部から台北へ来て、帰りのチケットが買えない人もいます。投票のために、皆が頑張りました。これが民主と自由というものだ。あなたたちは、勇敢な台湾人だ。皆々様に、いまここで奏でている音楽隊も含めて、感謝したい。>

—————————————————————————————–楊海英(静岡大学人文社会科学部アジア研究センター長、文化人類学者)台湾新世代の「天然独」が拒絶した習近平の求愛【iRONNA:2020年1月21日】https://ironna.jp/article/14178*読みやすさを考慮し、編集部で小見出しを付したことをお断りします。

◆覚醒した若者たちの動向が蔡氏の再選を促した

 台湾総統選投票日の1月11日夕、私は台北市内の地下鉄に乗って郊外にある喫茶店を目指していた。車内はほぼ満員だったが、普段見られないほどの静寂感に包まれていた。老若男女問わず、みなスマートフォンの画面を食い入るように注視し、総統選の開票結果の速報を見ているが、乗客はみな、穏やかな表情を浮かべていた。

 実は私は4年前にも、さらにその前の総統選も観察していた。あの頃は今回と完全に違っていた。独立志向の強い民進党と中国との融和を優先する国民党、その双方の支持者たちが強烈な闘いを繰り広げていた。

 爆竹を鳴らしたり、派手な旗を振りかざしたりして、狼煙(のろし)を上げていたからだ。そして、どちらの候補も自身の政治的な主張を述べるよりも、相手を攻撃する言葉を多用した。そうした過去と比べると、今回の静かな様子には隔絶の感すら覚える。

 このような平和で穏やかな静けさは、台湾国民の成熟と民主主義制度の定着を物語っている。というのも、以前の選挙の際に、私のような観察者も容赦なく某候補の地元にある祠堂(しどう)に連れて行かれた。祠堂には一族の祖先が祭られている。総統候補の誕生は一族にとってこのうえない名誉だから、親族という血縁的紐帯を基本とした選挙戦が堂々と展開されていた。選挙は確かに民主主義制度の現れだが、祠堂に集まった人々を中心に票集めしていた事実はまぎれもなく前近代的だ、と私は内心酷評していたものである。

 当然、今回の選挙でも祠堂の役割は変わらないが、それ以上に若い世代の動向が注目されたのである。

 「台湾の学生たちが投票に帰った」、と知人の大学教員から聞いた。熱心な若者もいるもんだなあ、と思いながら台北に着くと、世界中から続々と帰国していると報道されていた。既に選挙戦最終日の10日には各国に留学ないし勤めている若者たちが帰り、候補者たちの最後の訴えに耳を傾けていたという。そして、その最後の訴えを聞き、一斉に帰郷の途についた。投票権は故郷にあったからだ。台湾各地へと、深夜バスと電車は世界中から集まってきた若者たちを乗せて走った。

 喫茶店で私は、以前に教えていた学生や知人らと再会した。午後8時過ぎに民進党候補で、現職の蔡英文氏の当確が宣言されると、知人たちは静かに勝利を噛みしめた。予想通りに、蔡氏は終始リードし、最終的には817万票を獲得した。2位の国民党候補、韓国瑜氏は552万票と、大きく引き離す結果となった。

 言うまでもなく、若者たちの動向が蔡氏の再選を促した。若者たちのほとんどが「天然独」(てんねんどく)、すなわち「生まれながらの独立派」だからだ。この覚醒した若者たちが台湾のホープであり、台湾の未来を決定しているのである。

◆国民党内の主流になりつつある「92年コンセンサスは時代遅れになった」

 では、中国は今後、いかなる対台湾政策を打ち出してくるのだろうか。そのポイントを理解するためには、北京の対台湾政策の変遷を振り返ってみる必要がある。

 「92年コンセンサス」(中国や台湾では「九二共識」と表記)というものがあり、こちらは1992年に当時の政権与党だった国民党と共産党が交わしたとされる秘密の合意文書だ。「一つの中国の原則」を守るという趣旨である。ただし、その「一つの中国」は台湾の中華民国を指すか、大陸の中華人民共和国を指すかは定めていない。

 民進党はそもそも「92年コンセンサス」の存在を否定するか、あっても、民意を反映した公文書ではないと批判してきた。あるいは「一つの中国」という原則を標榜しても、実際は二つの国家が存在してきたので「台湾は事実上の独立国家だ」という解釈を貫いてきた。

 北京当局は蔡氏の当選を厳しく批判すると同時に、国際社会に対しても「一つの中国」原則を守るよう強要している。しかし、選挙の後、当の国民党の少壮派から「92年コンセンサス」を見直すべきだとの声が上がっている。言い換えれば、国民党はあまりにも「92年コンセンサス」の枠組みに束縛されたことから大敗に繋がったと、彼らは認識している。

 台湾と中華人民共和国が「一つの中国」かどうかはともかく「92年コンセンサスは時代遅れになった」との見方は国民党内の主流になりつつあるのは事実である。これに対し、北京の習近平当局がどのように対応するかが注目されるだろう。

◆蔡氏の「最強の選挙応援者」だった習近平総書記

 蔡氏が大差で国民党の候補を打ち破った要素はいくつもあるが、最大の要因の一つは香港情勢であろう。中国は香港で「一国二制度」を実施し、「成功」したあかつきには台湾にも踏襲させるという壮大なビジョンを描いてきた。

 しかし、民主主義制度は大幅に後退し、市民と学生が容赦なく弾圧されてきた2019年後半の歴史を見れば、いわゆる「一国二制度」は完全に破綻した事実が示された。「今日の香港は明日の台湾」、つまり中国共産党の標榜する「一国二制度」を受け入れれば、台湾も早晩、香港の轍(てつ)を踏む命運をたどる、と台湾国民、それも若者たちは悟った。そうした覚醒が彼らの投票を大きく左右した。換言すれば、習近平総書記が蔡氏の「最強の選挙応援者」だったのである。

 ただ、「蔡英文総統の応援者」習氏が「一国二制度」の旗を降ろすとは考えられない。そもそも現在の香港に大陸と異なる制度がどれほど残っているかすらも怪しい。それでも、半死状態の香港の「一国二制度下の繁栄」を謳歌しながら、武力による台湾侵攻の可能性を強めてくる危険性がある。

 2隻の空母を擁する人民解放軍は今まで以上に頻繁に台湾海峡を遊弋(ゆうよく)し、威嚇行動に出てくるだろう。そして、南シナ海の軍事要塞化を容認しない米海軍との一進一退劇も繰り広げられるだろう。

 台湾海峡は日本にとってのシーレーン上に位置し、中東から運ばれる資源はすべてこの要衝を通過する。日本がいかに自らの生命線の安全を確保すべきかも今まで以上に問われるに違いない。

◆内モンゴルやチベットの歴史に見る中国共産党の欺瞞性

 では、台湾には習氏の「一国二制度」による「求愛」を受け入れる素地はあるのだろうか。答えは否だ。中国と周辺民族との近現代史が台湾国民に中国共産党の欺瞞性を教えたからだ。

 例えば、内モンゴルの歴史を回顧してみよう。中国共産党は結党直後の1922年7月に「モンゴルとチベット、それにウイグルとは連邦を形成する」と宣言していた。その後、27年にも「内モンゴル民族には自決権がある」と同党の綱領で書いていた。

 言うまでもなく、自決権とは分離独立権を指す。そして、共産党の軍隊(紅軍)が毛沢東に率いられて南中国から北部中国の延安に逃亡してきた35年12月には宣言書を公布し、「モンゴル民族にはトルコやウクライナ、それにコーカサス諸民族のような分離独立権がある。また、他の民族と連邦を形成する権利を有する」と強調していた。このように、中国共産党は結党当初から日中戦争が終結するまでずっと開明的な民族政策、それも完全な分離独立権(自決権)を認める政策だった。少数民族には少なくとも漢民族の中国人とは連邦制に基づく国家を建立する権利がある、との政策を打ち出していた。

 しかし、いざ日中戦争が終わり、国民党政権が台湾に移行すると、ただちに民族自決権を与えるとの約束を反故にした。約束を否定したうえで現れたのが「民族区域自治」だ。今日、内モンゴル自治区と新疆ウイグル自治区、それにチベット自治区などすべてが限られた地域で、文化的自治を実施する、という有名無実の制度である。

 では、この区域自治制度が守られているかというと、こちらも答えは否だ。内モンゴルでは遊牧していたモンゴル人が強制的に定住を命じられ、エリートたちは文化大革命中(1966〜76)に数万人単位で粛清された(拙著『墓標なき草原』岩波現代文庫参照)。

 当時、人口約150万人弱のモンゴル人に対し、中国は34万人を逮捕し、12万人を傷つけて身体障害者とし、2万7900人を殺害した。今日、人口約800万人のウイグル人に対し、約100万人を強制収容所に閉じ込めている。こうしたジェノサイド(民族を滅ぼしかねない大量殺害)の規模と過酷さはどれもナチスドイツを彷彿とさせるし、台湾国民にとって、まさに「一国二制度」がもたらす悪夢に見える。

 台湾と香港、そして内モンゴルと新疆。中国共産党の少数民族政策も「一国二制度」も、当事者にはすべて悲劇をもたらしている。こうした悲劇は今日、中国の対外膨張に伴って世界各国にも悲劇を与えつつある。その中国の「独裁者」習氏が今春に国賓として日本にやってくる。日本国民は現代史から何を学び、どう行動すべきかということも真剣に考えなければならない。

             ◇     ◇     ◇

楊海英(静岡大学人文社会科学部アジア研究センター長、文化人類学者)1964年、中国・内モンゴル自治区オルドス生まれ。北京第二外国語学院大アジア・アフリカ語学部日本語学科卒。89年3月に来日し、国立民族学博物館・総合研究大学院大学博士課程修了。総合研究大学院大などを経て現職。2000年、日本国籍を取得し、日本名・大野旭(おおの・あきら)とする。2011年、『墓標なき草原(上下巻)』(岩波書店)で第14回司馬遼太郎賞を受賞。2016年、『日本陸軍とモンゴル 興安軍官学校の知られざる戦い』と『チベットに舞う日本刀―モンゴル騎兵の現代史』第3回国家基本問題研究所・日本研究賞を受賞。2019年、 第19回「正論新風賞」(第34回正論大賞)。近著に『中国人の少数民族根絶計画』(産経NF文庫)。

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