進む中国の台湾併合戦
日本も断固たる決意と行動を
平成国際大学副学長 浅野 和生
去る7月19日、英フィナンシャル・タイムズ電子版が、「米国のナンシー・ペロシ下院議長が8月に議員団を率いて台湾を訪問する予定」と報じると、中国外務省の趙立堅副報道局長が、「断固として反対する。台湾海峡の緊張をつくり出すのをやめるべきだ」と訪台阻止の狼煙《のろし》を上げた。
翌7月20日、バイデン米大統領は、10日以内に習近平中国国家主席と電話会談を行うと述べ、ペロシ訪台について「今は良い考えではないと軍は考えている」と発言した。実は、ペロシ訪台をバイデン大統領自身が望まなかったが、それを「軍の見解」と表明した。ウクライナ問題やアメリカ経済のために、バイデン政権には対中関係を調整したい意図があったが、この大統領発言が中国を勢いづけた。
<<「一つの中国原則」拒否>>
25日になると、趙副報道局長は、ペロシ訪台を「決して座視しない」「われわれは陣容を整えて待っている。米国がもし独断専行するなら、中国は必ず断固とした力強い措置を講じ、国家の主権と領土の保全を守る」「一切の重大な結果の責任は米国が負わなければならない」と威嚇した。
騒然たる雰囲気の中、28日、米中電話首脳会談が実施された。予想された米中貿易の関税問題は議題にならず、ペロシ訪台をめぐって厳しいやりとりがあった。習主席はバイデン大統領に「火遊びをすれば必ず焼け死ぬ」とまで述べた。さらに8月1日、趙副報道局長は、「中国人民解放軍が傍観することは絶対にない」と宣言した。
しかし米国には、米台間で、政府および軍高官の相互訪問と交流を保障する「台湾旅行法」がある。中国はアメリカ高官の中国訪問を拒否できるが、台湾は中国ではない。台湾が受け入れる限り、米国人の台湾訪問を中国は阻止できない。こうして2日深夜、ペロシ議長一行は訪台した。翌3日に蔡英文総統と会見したペロシ議長は「米国は43年前、常に台湾を支持すると約束した。(中略)私たち代表団は今日、台湾にやって来て、米国が台湾との約束を破棄しないことを、誤解の余地がないほど明確にした」と述べた。
このことは、世界に中国は一つしかなく、それは中華人民共和国であり、台湾はその中華人民共和国の不可分の一部、一地方であるという中国の「一つの中国原則」を、米国が認めていないことを鮮明にした。
すると中国は即座に反応した。台湾へのサイバー攻撃は通常の23倍に達し、3日、台湾南部高雄市の新幹線左営駅電光掲示板は、突如、台湾人が使わない大陸の簡体字で「魔女の台湾訪問は、祖国の主権に対する重大な挑戦だ。これを積極的に歓迎する人は、人民の審判を受ける。同種同族の血のつながりを断つことはできない。偉大な中華はついには統一される」という恐ろしい一文に変えられた。また各地のコンビニのディスプレイが「戦争をばらまくペロシは台湾から出ていけ」という画面に乗っ取られた。
さらに中国は、4日から7日、台湾を取り囲む6海域を軍事演習区域に指定、4日にミサイル11発を発射し、陸海空軍の大規模演習を展開した。ミサイル5発は日本の排他的経済水域(EEZ)内に着弾した。台湾の交通部は、毎日300機の国際線旅客機に影響があると発表し、日本とフィリピンには航路を変更するよう要請した。
<<「予告編」上映した中国>>
中国は、いわば台湾併合戦のための台湾包囲本番に向けて「予告編」を上映してみせたのである。この「予告編」は、上記の通り、台湾有事が日本有事であることも鮮やかに浮かび上がらせた。
現代の戦争には、通常兵力のほか、宇宙、サイバー、法規、世論操作などあらゆる領域が動員される。サイバー攻撃や台湾包囲の「予告編」で、台湾人の多くが恐怖から自立心を失い、中国に従順になれば、軍事力を行使せずに中国は台湾併合を進められる。この「心理戦」は中国のいう「三戦」の一つであり、すでに立派な戦争である。
当然、中国は台湾併合の「本編」も用意している。その「本編」を上映されないままお蔵入りにさせることが、台湾と日米同盟の使命である。そのために、台湾人はもちろん、日本と米国にも断固たる決意と行動が必要である。
ペロシ議長はその覚悟を示した。日本の政治家はどうか。
<<(あさの・かずお)>>
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