台湾は周知のように、今回の武漢肺炎こと「COVID(コヴィット)19」に対して「厳格」に対応している。この対応を台湾の人々は支持し、野党の中国国民党などからさえ反発の声は聞こえてこない。
2016年6月9日から台北駐日経済文化代表処代表(駐日台湾大使に相当)に就任している謝長廷氏が「ウイルスは国籍も人も選ばない」と題して毎日新聞に寄稿し、台湾を医療の空白地帯としないよう訴えている。至極まっとうな見解だ。2,350万人もの人命を軽んずるような「医療の空白地帯」を作り出すことは許されない。
ましてや、健康を基本的人権と考えるWHOが中国の意向を汲んで政治的立場を優先し、台湾の人々の基本的人権を踏みにじることは言語道断だ。
昨日(3月7日)の中国国民党主席の補選において、若手の江啓臣氏は「一つの中国」を支えてきた「92年コンセンサス」(九二共識)」を時代遅れだと批判して当選した。
WHOは中国国民党でさえ「一つの中国」を支持しない台湾の現状を真摯に受け止め、他の加盟国と同じように、台湾にも医療情報が届くような措置を早急に取るべきだ。
—————————————————————————————–ウイルスは国籍も人も選ばない 台湾が空白のWHO は不完全【毎日新聞:2020年3月5日】
中国湖北省武漢から発生した新型コロナウイルスによる肺炎の流行は、2003年のSARS(重症急性呼吸器症候群)を想起させた。実際にはSARSよりも感染スピードが早く、今年に入ってからわずか1カ月半余りで既にSARSの感染者数も死者数も超え、日本でも犠牲者が出た。
ウイルスは国籍も人も選ばない。新型コロナウイルスの感染者はすでに台湾や日本を含む世界各国に広がった。感染地域との往来制限や、患者の一定期間の確実な隔離、ワクチン開発など、感染がこれ以上広がらないよう世界各国が協力していく必要がある。
以前、中国で発生したSARSが台湾に入って来たとき、「一つの中国原則」という政治的理由でWHO(世界保健機関)に未加盟の台湾は、WHOから防疫の最新情報が得られず、被害が拡大した手痛い経験がある。台湾はこの経験から、今回迅速に厳格な水際対策を実行することにより、国内での感染の広がりを抑えることに成功している。
台湾は09年から8年連続でWHO年次総会にオブザーバーとして参加していた。しかし、17年より再び参加できない状態が続いている。WHOは1月22日に開いた新型肺炎の対策を話し合うWHO緊急会合でも台湾を排除したが、その後、日本や米国、欧州各国などが台湾の参加を強く支持したことから、2月11日のWHOオンライン会合には台湾も参加し、新型肺炎の最新情報および対策について意見交換することができた。
今回、台湾のWHO会合への参加は、中国を通さず、台湾とWHOが直接やりとりして参加が決まったことに大きな意義がある。今後も、WHOの最新情報が滞りなく台湾に直接伝わる制度を確立することが重要である。
台湾のWHO参加に関して日本の安倍晋三首相は1月30日の国会答弁で「国際保健課題への対応では、地理的空白を生じさせるべきではない」「政治的な立場においてこの地域は排除するということを行っていては、その地域を含めた健康維持、感染の防止は難しい」との認識を示した。さらに「日華議員懇談会」も今月5日に台湾のWHOへのオブザーバー参加の働きかけを求める要望書を日本政府に提出した。日本各界の力強い支持に、改めて感謝の意を表したい。
感染症の防疫は、全世界の人々の命の安全に関わることであり、国際社会が一致団結して取り組まなければならない。(世界の都市や国に関するデータベースの)「Numbeo」が今月発表した医療ヘルスケア指数では台湾が2年連続でトップとなった。台湾の医療水準は高く、SARSを乗り越えた経験は、各国の防疫に役立てることができる。
WHOが世界のすべての人の健康のための機関であるならば、台湾が空白のWHOは不完全である。世界すべての人の健康のために、単なるスローガンではなく、いかに実践するかが大事である。台湾はWHOと協力し、その責務を果たしていきたい。
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謝長廷 台北駐日経済文化代表処代表1946年生まれ。台北市議会議員、立法委員(国会議員)、高雄市長、行政院長(首相)などを歴任。2016年6月から現職。
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