2017.2.25産経新聞より
終戦により台湾を接収した中国国民党政権が、台湾に住んでいた人々を弾圧した1947年の「2・28事件」から、今年で70年となる。真相はなお未解明の部分が多く、事件により大陸から来た「外省人」と日本統治時代前から暮らす「本省人」の溝が深まった。台湾社会に残した傷は深く、現在も社会的、政治的対立の遠因となっている。(台北 田中靖人)
「中国に帰れ」
「国民党は本心では罪を認めていない。今でも遺族の心からは一滴、一滴と血が流れている」
こう話す犠牲者の遺族、林黎彩さん(71)は事件当時、1歳だった。37歳だった父の林界氏は南部の港湾都市、高雄の区長で、3月6日、武力鎮圧を行わないよう高雄要塞司令部に市長らと交渉に出向いた際に拘束され、銃殺された。
遺体は要塞近くのがれきに多数の遺体と埋められていた。手足は縛られ、背中に銃創があったという。高雄では鎮圧部隊が銃を乱射し、2500人以上が犠牲になったとされる。
母は林さんが9歳の時に自殺したが、それまで何度も「警察」が自宅に来ていた記憶がある。母の死の直後、叔父から「父親が『2・28で死んだ』と言ってはいけない。逮捕されるぞ」と忠告されたが、意味は理解できなかった。
自らが事件の遺族だと知ったのは45歳だった90年。87年に出始めた真相解明を求める動きに影響を受けた。父の最期を知り、母の自殺は「親類一同から関わりを避けられての孤独も一因だ」と考えるようになった。林さんは「外省人」が多い退役軍人についても、「まだ台湾にいるのか、中国に帰れ、と言いたい」と突き放した。
加害者証言なく
財団法人「二二八事件紀念基金会」の2006年の報告書は、「長期に及ぶ政治への恐れと無関心を生み、経験者が絶対に事件を口にしないようになった」と記し、「外省人」と「本省人」という「族群(エスニック・グループ)の溝を深めた」としている。
身の安全のため政治から距離を置く台湾人の心理は、1987年まで続く戒厳令と「白色テロ」と呼ばれる政治弾圧とともに、長く台湾の民主化を阻害する要因となった。族群の対立は、国民党と民主進歩党という現在の二大政党の背景になったといっても過言ではない。
真相解明の動きが表れたのもここ30年のことだ。関連の公文書が初めて公開されたのは、本省人である李登輝総統の政権下の91年。民間の犠牲者への補償は95年に始まった。
歴史的資料の保存と研究を担う「国史館」は23日、新たな史料集6冊を発刊。紀念基金会の薛化元董事長は、記者会見で「どれほどの公文書が発見されずにまだ残っているのか」とため息をついた。
関係者の証言も犠牲者の遺族ばかりで、加害者の証言はない。武力鎮圧をした主力部隊が、国共内戦で中国大陸に戻ったこともその理由の一つとされるが、それだけではなさそうだ。蔡英文総統は23日、遺族と面会した際、「真相を太陽の下にさらし、被害者だけがいて加害者がいない現状を変える」と強調した。
「抵抗の意味持つ」
一方で、真相解明の動きを民主化の観点から前向きに捉える見方も出てきた。
「30年前の運動は事件の教訓を学び、和解と共生を目指したものだ」。18日、南部・台南市での式典でこう振り返ったのは葉菊蘭・元総統府秘書長(68)。戒厳令時代から「言論の自由」と「台湾独立」を求めて運動し、89年に抗議の焼身自殺を遂げた鄭南榕氏の妻だ。30年前の87年、鄭氏らが台南で行った街頭デモは、事件の真相解明と犠牲者の名誉回復を求める台湾で初めての活動となった。
政治大学台湾文学研究所の陳芳明講座教授(69)は、事件の真相解明運動と民主化運動は「密接不可分だ」と指摘する。陳氏は80年代以降、事件に関する著書や論文を発表し、発禁処分も受けた。陳氏は「歴史に向き合わない民主は偽物だ。2・28の陰影から抜け出すことが、民主の追求につながった」と当時の執筆動機を語った。
陳氏は、事件当時の台北市の「処理委員会」の要求に、台湾の「自治」があったことは「台湾を統治できるのは台湾人だけ、という歴史の知恵の結晶だ」と強調。その上で、事件を語り継ぐことは「現在の北京(中国)に対しても抵抗の意味を持つ」と話している。
◇
【用語解説】2・28事件
中国国民党政権が台湾住民を弾圧した事件。経済の急激な悪化や、中国大陸出身の官僚や兵士らの横暴に対する不満が、タバコ売りの寡婦が殴打されたことを機に、1947年2月28日に抗議に発展。行政長官公署の部隊が抗議の群衆に銃を乱射し、台湾各地に暴動が波及した。「処理委員会」が治安維持や政治改革を提案したが、行政長官の陳儀は軍の増援を受けて武力鎮圧し、多数の逮捕・処刑者を出した。行政院(内閣に相当)の研究者グループは92年、死者を1万8000〜2万8000人と推計する報告書を発表したが、10万人以上との見方もある。95年に李登輝総統(当時)が総統として初めて謝罪した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【3月5日】台湾2・28時局講演会のお知らせ【講師:林建良ほか】
今年は、二・二八事件が起きてから70年目にあたります。台湾人の自治と尊厳を求めて立ち上がった市民や若者達を、残虐にも大量殺戮した中国国民党。犠牲になった人たちの為にも、事実を記憶に留め、教訓を生かさなくてはなりません。日本が去った後の戦後の台湾で何があったのか、二・二八事件に至る経緯を早稲田大学大学院生、葉亭[艸/亭]さんに語って頂きます。
台湾では、昨年、悲願の台湾人政権が誕生しました。しかし、蔡英文政権を潰そうと狙う勢力、特に中国国民党や中国共産党の動きに油断がなりません。トランプ米国新大統領の対中政策が大きくカギを握る今日、台湾の行方はどうなるのか。林建良さんが解説します。
台湾に関心をお持ちの方々、是非、お越しください。 尚、なるべく多くの方に参加して頂くために、団体申し込みはご遠慮頂いておりますので、ご了承下さい。【使用言語:日本語】
葉亭[艸/亭];(よう・ていてい)氏:
1981年、台湾・高雄生まれ。国立中正大学政治学科卒、同大学院修士課程修了。早稲田大学社会科学研究科博士課程在籍中。研究分野:日台関係史、近代台湾史、台湾をめぐる日本外史、日本における台湾独立運動。主な著書に『日本政府の台湾独立運動者の居留政策の変化―柳文卿事件を中心に』(台湾歴史学会出版)など。
林建良(りん・けんりょう)氏:
1958年、台湾・台中生まれ。1987年、日本交流協会奨学生として来日。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。医学博士。メルマガ「台湾の声」編集長、台湾独立建国聯盟日本本部中央委員、日本李登輝友の会常務理事、台湾団結聯盟日本代表、在日台湾同郷会顧問。主な著書に『母親e名叫台灣─「正名運動」縁由』(台湾)『日本よ、こんな中国とつきあえるか?─台湾人医師の直言』『中国ガン─台湾人医師の処方箋』。共著にテンジン、イリハム・マハムティ、ダシ・ドノロブとの 『中国の狙いは民族絶滅─チベット・ウイグル・モンゴル・台湾、自由への戦い』。
◆日 時:2017年3月5日(日) 14:00 〜 16:30 (13:30開場)
◆会 場:京王プラザホテル 南館4階 錦の間
東京都新宿区西新宿2-2-1 TEL :03-3344-0111
【交 通】JR「新宿駅」西口 徒歩7分 /地下鉄大江戸線「都庁前駅」徒歩5分
◆講 師:葉亭[艸/亭]「台湾人の自治への追求と二二八事件」
林建良「蔡英文政権下の台湾」
◆参加費:2,000円 (学生1,000円)
◆懇親会:17:00〜19:00(花の間・講演会場隣室) 会費=6,000円(学生5,000円)
◆申込み:申し込みフォーム又はFAXで。【締切:2月28日】
https://goo.gl/forms/2UYc3jRvmSa4ftt22 FAX:03-3868-2101
◆後 援:在日台湾同郷会、在日台湾婦女会、日本台湾医師連合、メルマガ「台湾の声」、日本李登輝友の会、日本文化チャンネル桜、日本政策研究センター、アジア自由民主連帯協議会
◆主 催:台湾独立建国聯盟日本本部
TEL:090-9687-7746 E-mail:wufijapan@googlegroups.com
===================================================
2017年「台湾2・28時局講演会」FAX用申し込み票 (03−3868-2101 宛て)
御氏名:
学生:在籍校名
連絡先:
FAX:
( )講演会に参加します。 ( )懇親会に参加します。
===================================================