8月9日に長崎で行われた原爆犠牲者平和祈念式典に、台湾を代表して李逸洋・台北駐日経済文化代表処代表(駐日台湾大使に相当)が出席した。
戦後80年にして初めての出席となった。
画期的なできごとだったにもかかわらず、台湾が指定された席は国際非政府組織(NGO)エリアの席だった。
李代表は憤怒を押さえきれない筆致で「台湾は決して『国際非政府組織』などではなく、国際舞台で活躍する主権国家である」とコメントし、このような長崎市の「妥当とはいえない待遇」の背後に「中国による圧力」があったとも指摘している。
下記に、その全文を紹介したい。
またしても水を差したのは中国だ。
それに長崎市が屈したという。
長崎市が台湾を冷遇したことで思い出すのは、民主党政権下で起こった2011年3月の東日本大震災のことだ。
翌年の2012年3月11日に行った政府主催の東日本大震災追悼式で、野田政権は、台湾を代表して参列した台北駐日経済文化代表処の羅坤燦・副代表を来賓扱いせず、指名献花からもはずした。
中国に忖度した野田政権の大失態だった。
同じ民主党の菅直人政権では、2011年4月に東日本大震災へ支援してくれたアメリカ、イギリス、フランス、中国、韓国、ロシアの6カ国の1紙ずつと、国際英字紙「インターナショナル・ヘラルド・トリビューン」の計7紙に、各国共通の「感謝広告」を掲載した。
しかし、世界一の義捐金を送っていただいた台湾の新聞には感謝広告を掲載しなかった。
これもまた菅政権の大失態だった。
2013年3月11日、安倍晋三政権下で開催した東日本大震災2周年追悼式では台湾の待遇を見直し、前年の一般席から外交使節団向けの来賓席とし、国名などを読み上げる指名献花に加えた。
これに対して中国は「追悼式で台湾の関係者を外交使節や国際機構と同等に扱った」として出席しなかった。
今回の長崎市の措置も、民主党政権と相通ずるものがある。
東日本大震災の政府主催の追悼式と今回の長崎市主催の原爆犠牲者平和祈念式典も、犠牲者を悼む式典である。
このような犠牲者を追悼する場に、「政治」を持ち込むのは場違いもはなはだしい。
同じ被爆者を出した台湾をNGO席に座らせる理由はない。
長崎市が中国に忖度したのか、中国が長崎市に圧力を加えたのかは判然としないが、台湾の代表を外交使節や国際機構と同等に扱うのは当然だろう。
広島市にできて、なぜ長崎市にできないのか。
長崎市はようやく外交関係の有無という基準を取り払い、台湾の出席を認めて一歩踏み出した。
それにもかかわらず、慰霊の本来の姿を実現することはできなかった。
長崎市の待遇に悔いが残る祈念式典だった。
来年の対応に期待し注目したい。
李逸洋・駐日代表が台湾を代表し長崎平和記念式典に初出席【台湾週報:2025年8月10日】https://www.taiwanembassy.org/jp_ja/post/106119.html
李逸洋・駐日代表は8月9日、台湾を代表し初めて長崎平和祈念式典に出席した。
1948年に長崎市で第一回目の平和祈念式典にあたる「文化祭」が開催されて以来、台湾として初めての長崎平和祈念式典への出席となった。
長崎では原爆により7万人を超える人々が亡くなり、その中には台湾人の犠牲者も少なくない。
李代表は犠牲者に対して心からの哀悼の意を表するとともに、長崎市が呼びかける核兵器の廃絶と世界の恒久平和を追求する理念と目標に対して台湾として賛同し、台湾の平和、人権、自由に対する確固たる信念を重ねて表明した。
李代表は、今回の長崎平和祈念式典の出席に関して、次のようにコメントを述べた。
台湾は国際社会と民主主義、自由、平和、人権などの核心的価値観を共有している。
今回の式典について、当初は台湾が参列招待名簿に含まれていなかったが、多方面からの意思疎通と相互理解を経て、最終的に出席が認められた。
これについて長崎市及び関係各界のご協力に感謝する。
主催者は「国際非政府組織エリア」に台湾代表団の座席を用意したが、当代表処は世界に向けて平和を追求する決意を伝達することが台湾の最高目標であり、長年にわたりこのような重要な国際平和式典への参列の機会が得られるよう積極的に努力してきたのは、台湾が国際社会と緊密に連携して世界平和に取り組む立場と誠意を示すためであることから、格下げの待遇を受けながらも、出席することを決定した。
私たちは主催者の長崎市による妥当とはいえない待遇を受けたことについて、中国による圧力が背後にあったことを理解しているが、国の尊厳を守るため、台湾の国家地位と国際社会における得られるべき権利と正当な主張を説明しなければならない。
中国は長きにわたり国連総会「第2758号決議」(アルバニア決議)を曲解し、台湾を国際体制から排除しようとしてきた。
中国は「台湾は中国の一部」、「中国は台湾を代表している」、「台湾に国際機関参加の権利はない」などという詭弁を弄している。
実際に台湾が属する中華民国は主権独立国家であり、1911年に建国され、中華人民共和国が建国された1949年よりも早い。
中国は台湾を一日たりとも統治したことはなく、台湾と中国は互いに隷属せず、中国にそもそも台湾を代表する権利はない。
中国は核兵器の軍拡を続けており、スウェーデンのシンクタンク「ストックホルム国際平和研究所」(SIPRI)の『2025世界の核兵器保有数年次報告書』によると、中国は近年の核兵器保有数が最も急速に増加している国と指摘されている。
中国のこれらの行為は広島と長崎が苦難を受けた後に提唱している「核兵器のない世界」という崇高な平和の理念に背くものであり、核兵器増加を続ける中国が平和祈念式典の背後で心から全力で平和を追求している台湾に圧力をかけることは極めて遺憾である。
台湾は長きにわたり国際社会において不可欠な役割を果たしてきた。
台湾は世界で第22位の経済体であり、ハイテクノロジー、民主主義体制、医療・保健といった多くの分野で優位性を有している。
21位までの経済体の人口で台湾より少ない国はスイスとオランダだけであり、その他の国の平均人口は台湾の数倍から数十倍に達しており、これは台湾がテクノロジー、ガバナンス、イノベーションなどの面で優れた競争力があることを際立たせている。
台湾は決して「国際非政府組織」などではなく、国際舞台で活躍する主権国家である。
いま、民主主義サプライチェーンによりレッドサプライチェーンに対抗していくことが国際外交の新しい潮流となっている。
台湾はグローバル民主主義サプライチェーンの重要な役割を果たすことになる。
台湾の優れたハイテクノロジーの実力と民主主義体制は国際社会から幅広く評価されている。
米国、日本をはじめG7などの国際共同声明では、いずれも台湾の国際機関及び関連実務への有意義な参加を明確に支持している。
台湾は国際社会の責務を果たし、かつ平和を愛する一員として、引き続き日本や米国といった理念の近いパートナーと手を携えて協力し、権威主義の拡張に共に対抗し、台湾海峡とインド太平洋地域の平和と安定及び持続可能な繁栄を守っていく。
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