産経新聞2017年7月15日
日本政府はもっと強いトーンで中国を批判すべきではないか。
「中国の人権状況を注視する」のような遠慮がちなコメントでは却って軽くみられるのではないか。
ヤクザに紳士的な姿勢は不要だ。
「台湾の声」編集長 林 建良(りん けんりょう)
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末期のがんで闘病していた中国の民主活動家、劉暁波氏が死去した。あえて中国国内に踏みとどまり、人権など普遍的価値の実現を訴えた不屈の生涯を悼む。
劉氏は中国共産党の一党独裁終結を掲げ、言論の自由などをめざす「08憲章」を発表して「国家政権転覆扇動罪」に問われ、長く投獄されていた。
獄中で受賞したノーベル平和賞は、非暴力で基本的人権を求める劉氏の実践を評価した。
劉氏の投獄自体が不当であり、末期がんと診断される最近まで遼寧省での収監を続けた中国当局の対応は無慈悲にすぎる。
信じがたいのは、公安当局が抗議行動を警戒し、劉氏の支援者らを一斉に軟禁下に置いたことである。即刻やめるべきだ。
家族は高度の治療が見込める北京や国外への移送を求めたが、受け入れられなかった。重篤となってようやく専門医が治療し、米独医師の診察も認められたが、遅きに失した。
末期の治療は国際社会の批判を避けるためのみに行われたと非難されても仕方あるまい。劉氏は、中国の人権弾圧によって亡くなったのである。
「法治」の名の下で、「国家安全法」など国民の権利を制限する治安立法が相次いでいる。中国は国際人権規約に署名し、憲法改正で「人権尊重」を明文化したが、現状は全く逆行している。
大陸と異なる高度の自治が約束された香港でも、習氏は中央の権力への挑戦を「絶対に許さない」と演説した。中国における人権の抑圧は一層強まっている。
1989年の天安門事件以降、何度も投獄された劉氏も、最晩年の病床にあって中国の人権状況に一筋の光明すら見いだせなかったに違いない。
世界の普遍的価値である人権について中国に改善を促すことは、国際社会の責務でもある。
岸田文雄外相が「自由や基本的人権の尊重、法の支配は普遍的価値であり中国でも保障されるべきだ」として、中国の人権状況を注視すると述べたことは当然だ。
中国当局の監視下にある劉氏の妻、劉霞氏についても、日米両国は出国許可など適切な対応を訴えた。実現を強く求めたい。
劉氏の死去に際し、日本をはじめとする国際社会は、中国の人権状況に強く抗議すべきだ。