【寄稿】李登輝元台湾総統がノーベル平和賞を受賞するに足る所以(2)

【寄稿】李登輝元台湾総統がノーベル平和賞を受賞するに足る所以(2)

─台湾民主化についての功績

           柚原正敬 (日本李登輝友の会 事務局長)

2、中国との内戦状態の停止

次に挙げるべき功績は、敵対関係にあった中国との内戦状態を停止したことに求められる。

内戦状態を停止するためには、国共内戦時に制定し、憲法に優位する規定の「動員戡乱時期臨時条款」を廃止しなければならず、そのためには、この条款を定めた国民大会で廃止を決定しなければならなかった。

ところが、憲法の制定と改正、総統と副総統の選挙と罷免を職権とする国家機関の国民大会は、国民代表(国会議員)によって構成されていたが、当時の台湾では、中国大陸において選挙できないことを理由に、中国大陸で選出された国民代表が改選のないまま任期を延期されて万年議員と化し、国民大会も万年議会と化していた。

そこで李登輝は1989年1月、万年議員に対して高額の年金と引き換えに引退を促す条例を可決させ、また、台湾大学の学生らが万年議会の解散や国是会議の開催などを要求して蒋介石記念堂で座り込みの抗議を始めたことを機に、1990年3月22日に学生の代表と会見し、万年議会の解散や国是会議の開催を約束した。

そして、6月29日から6日間にわたって国是会議を開催し、国家基本政策策定の参考として、万年議員の早期退職と比例代表制の導入、台湾省、台北市、高雄市の首長公選制の実現、総統の直接公選制の実現、動員戡乱時期の終了と同臨時条款の廃止、海峡両岸の仲介機構の設立などを採択した。

そして、早くも7月10日には行政院に中国政策を策定する大陸委員会を設け、翌年1月28日には大陸委員会の政策を実行する財団法人海峡交流基金会を設立させている。また10月7日には総統府諮問機関として国家統一委員会を設置、翌年2月23日には中国における政治の民主化や経済の自由化などを条件とする国家統一綱領を制定し、中国との和解に向けた布石を打っていた。

これらを背景に、李登輝は約600人もの万年議員を一人ひとり説得して退職の了解を取り付け、1991年5月1日、総統令を発して動員戡乱時期の終了と動員戡乱時期臨時条款の廃止を宣言した。それによって中国との内戦状態は停止して自然消滅し、中国との和解のための法的措置を実現した。

同年12月には国民大会の全面改選が行われ、12月31日に立法委員と国民代表の「万年議員」全員が退職し、翌1992年12月に立法委員の全面改選が行われたことで「万年国会」問題が解決され、政治改革と民主化推進の大きな障害が取り除かれた。


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