【寄稿】李登輝元台湾総統がノーベル平和賞を受賞するに足る所以(5)

【寄稿】李登輝元台湾総統がノーベル平和賞を受賞するに足る所以(5)

─台湾民主化についての功績

           柚原正敬 (日本李登輝友の会 事務局長)

5、省籍対立の融和

李登輝は1991年3月2日、中国国民党(外省人)政権による台湾人(本省人)虐殺事件の「二二八事件」で犠牲となった遺族代表らと総統として初めて会見した。これによって、民主化を阻害する要因の一つだった外省人と本省人が対立するという台湾固有の「省籍対立」問題の解決に道を開いた。李登輝は、翌年2月24日の二二八事件45周年記念音楽会には曾文恵夫人を伴って出席し、1993年3月10日には二二八事件賠償条例を制定、また1994年3月30日には2月28日を国定記念日に制定している。そして1995年2月28日、二二八事件慰霊碑の落成式に出席、総統として遺族に対して初めて公式に謝罪している。

二二八事件に関するこれら一連の措置によって省籍対立問題はかなり解消し、台湾人アイデンティティ意識の高まりとともに、台湾の民主化は大きく前進することとなった。その過程において、2000年3月の総統選挙で李登輝が支援した中国国民党候補が野党の民主進歩党候補に敗れたものの、政権政党の平和的な移転を完成させ、台湾の民主化が成熟しつつあることを世界に示した。

世界史上、独裁国家が段階的な改革を経て民主化した例はほとんどなく、多くは革命や暴動などによって達成されている。その点で、12年の歳月をかけ、流血事件を見ずに台湾を独裁国家から民主国家へと変貌させた李登輝の手腕は異例と言って良い。李登輝が「ミスター・デモクラシー」「台湾民主化の父」と言われる由縁であり、ノーベル平和賞を受賞するに足る所以でもある。


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