【レポート】2024年台湾時局講演会「頼清徳新政権の課題と展望」

「台湾の声」【レポート】2024年台湾時局講演会「頼清徳新政権の課題と展望」

 3月17日(日曜日)、東京・文京区民センター(2A会議室)にて台湾独立建国聯盟日本本部主催の台湾時局講演会が行われ、日本人、在日台湾人ら120人が参加した。

会場では「北美洲台湾婦女会」がデザインし、「台北水噹噹姉妹聯盟」の蒋理容女史(蒋渭水の弟の孫)から今回の活動のために贈られた、白い百合の花をモチーフにしたバッジが配布され、参加者たちはそれを着用するよう促された。

正面には台湾独立建国聯盟旗が掲げられ、在日台湾同郷会から贈られたスタンド花が飾られた。

午後2時、片木裕一総務部長の司会で会が始まり、林建良委員長が次のように開会の趣旨を説明した。

毎年228事件を記念して記念会を行っているが、会場の都合で今年はこの日になった。

1947年の228事件は、台湾人が受けてきた日本文化ともともとあった台湾文化の中国文化との衝突であり、台湾独立運動の芽生えである。

また李登輝が台湾を民主化するにあたり、1990年におこった野百合学生運動の力を借りたが、その野百合運動は3月16日に起き、また、2014年の3月18日には「ひまわり学生運動」が起きた。

台湾人の若者が台湾を救うために3回にわたって立ち上がったことを記念するのにふさわしい日取りとなった。

配布されたバッジには野百合がかたどられているがこれは台湾の原生種で力強さを象徴している。

全体のテーマは「頼清徳新政権の課題と展望」であるが、まず、日本台湾基進党友の会会長でもある林省吾中央委員が「頼清徳新政権の課題」について語った。

林省吾委員はミニ台湾語講座で会場の雰囲気を和ませてから本題へと進んだ。

よくビジネスで用いられる課題分析の手法を利用して考察すると、台湾の「問題」の根源は中国に他ならない。

中国には国内の不満のガス抜きや指導者の業績づくりのためにも、アジア太平洋の安全を不安定にすることで利益がある。

それは仮に台湾を手に入れた後にも解決されず、拡張主義が進むだけである。

中国を封じ込め、権威主義体制を瓦解させることが対策となる。

中国包囲網なしには台湾、日本、アジアの安全は無い。

ところが台湾は内部に敵がいる。

立法院が、いわば「ねじれ国会」になっているために、外交国防委員会では、国産潜水艦の機密情報を流出させた馬文君議員が主任に選ばれるという「ありえない状況」が起こっている。

頼清德政権が国防強化の法案を出しても委員会を通らない。

台湾人と結婚した中国籍配偶者の市民権獲得の制限を緩和しようという法案も国民党議員から出された。

このような結果をもたらしたのは有権者である。

中国がこのように台湾に対して攻勢を強めている中、現状維持するためには、台湾も積極的に対抗しなければならない。

鍵となるのは、台湾人アイデンティティーであり、これが新政権の課題である。

「中華民国」体制下の政権与党では積極的な対抗は難しい。

そこで声を挙げていくのが台湾独立建国聯盟である。

次に講師のひとりとして登壇した林建良委員長は「頼清徳新政権の展望」というテーマで語った。

通常の国であれば内政が重要だが、戦争が終結していない台湾にとっては中国や米国といった外部の力の影響が大きい。

親中派が国会を獲得したように見えるが、小選挙区制のために議席数で見ると国民党のほうが1議席多くなっただけであり、票数で見ると実は民進党は勝っている。

民衆党でも柯文哲は揺れ動いてるようだが、その支持者は親米である。

中国か米国かと問われれば、親米が台湾の民意である。

蔡英文も中国に対して抗議したときに支持率が上がった。

2月14日に金門島付近で台湾側水域に侵入した中国船を台湾の海巡署(日本では海上保安庁にあたる)の公船が追跡中に中国船が転覆し船員2名が死亡した件で、立法院の委員会では海巡署の責任を追及し、中国政府もそれに同調した。

中国が台湾に手を突っ込んでいる例である。

これに対して、米国はグリーンベレーが金門に駐留していることをリークし、国防総省もそれを否定しなかった。

このような形で米国は中国を牽制した。

頼清德は台南市長時代、国民党籍の市議会議長の汚職を理由に議会出席拒否を宣言し、それを貫き通した。

潔癖で骨がある。

地方政治を知っているという点が蔡英文と異なっている。

上海訪問時には、「台湾独立が大半の台湾人のコンセンサスだ。

台湾人の独立意識があったから民進党の独立綱領がある。

」と言ってのけた。

頼清德の選挙公約から重要な政策を4つ挙げる。

(1)居住問題。

自宅以外は固定資産税を上げるべき。

(2)電力問題。

次の二つは重要だが緊急ではない。

しかし、体を鍛えれば将来健康でいられる。

(3)言語政策。

中国語を使っているために中国から洗脳されやすい。

英語などとのバイリンガル政策によって、中国と距離をとることになる。

(4)司法改革。

日本はどうやって支援できるか。

まず民間ハイテク同盟ができる。

またCPTPP(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定)に台湾を入れてほしい。

それができないならFTAでもよい。

頼清德総統の任期は習近平の3期目と重なっている。

習近平の3期目は断末魔的な政権になる。

”think
of
unthinkable”あらゆる可能性を考えて対策することが我々の責務である。

3時15分頃に始まった第2部では、林省吾・林建良2人の講師への質疑応答が行われた。

会場から回収した質問用紙をもとに、多田恵国際部長がコーディネーターとして聞き手を務めた。

林建良委員長は「think of
unthinkable」の例として、中国共産党の崩壊、北朝鮮暴発と同時の台湾進攻、中国のベトナムやフィリピンへの攻撃、またこれらが連鎖し「日本有事」となる可能性を挙げた。

戦争に至る前に中国を崩壊させるほうが安全であり、偽情報で世論を操っている中国に正しい情報を流すことが最高の防御になる。

こういったことを考えておく必要があるとした。

台湾人のアイデンティティーを高めるために海外の台湾人は何ができるかという問いを受けた林省吾委員は、海外から見たほうが客観的に見えるという利点がある。

自分自身の取り組みとして、池袋の新珍味に設けられた史明記念館のガイドをすることで、独立運動をしたことで30数年も台湾に帰れなくなったという台湾の歴史を台湾人に伝えるという取り組みをしていると紹介した。

今回、バッジを着用して228を記念するのもそのような意味がある。

台湾国内では白色テロの被害者はいるのに加害者が明らかになっていない。

移行期の正義を実現していくことが必要であるとした。

親中派が立法院で勝利したことについては、このアイデンティティーの問題のほか、台湾の選挙が、たとえば看板広告を買うなど多額の資金が必要であるという問題もあることを指摘した。

台湾独立の大義について問われた林建良委員長は「自分の将来を自分で決めたい」ということだとした。

また「台湾人意識の低下」について、馬政権時に台湾人意識が最も高かったことを指摘し、蔡英文政権は安定していたので国民が安心したため特に表明されていないという見方を示した。

親中であることのメリットに対抗する策として、林省吾委員は、台湾海峡が中国の内海になることだが、台湾国内ではそのような視点が欠けているところがあるので、日本人からも台湾の若者たちに問いかけてみてほしいと語った。

また、台湾人と婚姻した中国人配偶者の国籍について、中国人のままで市民権を手にし、選挙に出られるという問題が生じていると紹介した。

米国が台湾切り捨てへと向かった場合、また核武装の可能性について、林建良委員長は、台湾のみではなく、日本ですら切り捨てられる可能性がある。

自分で守れなければならない。

台湾の核武装計画はかつて米国に潰された。

米国の了承が必要だ。

むしろ日本のほうが核武装をしやすい。

現在、悪人がピストルを持って、善良な市民に防衛の術がないという事態になっており、台湾や日本はその問題について世論喚起すべきだ。

核を持っていないのに核兵器反対を唱え、核兵器を持っている中国に対しては反対を唱えないのはおかしいと指摘した。

金門・馬祖などについての質問に答えた林省吾委員は、台湾・澎湖とは歴史的にも法的にも異なっているのでアイデンティティーが異なっているのもやむを得ない面がある。

住民が自ら決していくべきであるとした。

台湾有事の際の自衛隊の活動に関する注意点について、林建良委員長は、日本において台湾に対する法的位置づけが無いことを多くの日本国民が知らない。

台湾における日本の代表は台湾の政府機関を自由に訪問できるが、日本における台湾の代表は日本の各省庁舎に一歩も入れない。

これは(日本は)中国が怖いから。

日本が本気で台湾を護るつもりがあれば、台湾の位置づけを明確にしなければならない。

しかし、日本の政治家にはその気がない。

政治家を動かすためには、まずはこの問題を日本国民に知ってもらう必要があり、そのことは日本のためにもなる。

台湾有事イコール日本有事というのはスローガンにすぎない。

実際に事が起きたときにそれだけでは動けないと指摘した。

質疑応答の時間が始まってから40分くらいたった頃、コーディネーターの多田国際部長は、個別に取り上げなかった質問を列挙する形で紹介し、2人の講師に最後の発言を求めた。

林建良委員長は、「台湾独立」について、中国からの独立と誤解されやすい。

「建国」と言ったほうがよいという見方を示した。

台湾文化は中国文化とは異なり、現地へ行けば分かるように、気質が全く違う。

台湾文化には日本文化、オランダ文化、スペイン文化、アメリカ文化も入っている。

現行の国名・国旗は放棄すべきだ。

中華民国(Republic
of
China)は「China」がついている。

これではまともな国になれない。

この名を捨てられないのは、米国や日本からの「現状維持せよ」という圧力のためだとした。

日本の対中政策に望むことは「誰が敵で、誰が味方か、よく認識する」ことだとした。

民衆党について、理念がなく、柯文哲党首の個人的魅力に頼った権力のための党であり、長くは続かないと指摘した。

中国で起業支援を受けた台湾の青年について日本で報道されたことについて、「人間は火傷しないと大人になれない」と語った。

台湾の各政党の性格について、若者は国民党を支持しない。

若手議員は二世ばかり。

民進党は各世代に支持者がいる。

議員もバランスが取れている。

民衆党の支持者は若者ばかりだが、若手政治家の養成をしていないと指摘した。

TikTok規制法案が米国の下院を通過したことについて、もし上院も通過すれば、ほかの国でもやりやすくなる。

TikTokの問題はいずれ解決しなければならない。

日本も脱中国の必要がある。

親中はダメなのかという反論に対しては、悪魔と付き合って良いのか考えればわかるとした。

林省吾委員は台湾の言語政策について、台湾では今は国家言語発展法という法律ができて、台湾語や客家語、原住民族の諸言語も「国語」だということになった。

これまでの経緯で現在、中国語がよく使われているが、今後はバランスをとっていかねばならない。

それぞれが母語で話す環境が与えられるべきだとした。

また、日本人が台湾を理解するための旅行先のひとつとして緑島(火焼島)の中国国民党が台湾人を監禁した監獄跡である国家人権博物館(緑島分館)の見学を提案した。

現地へ行くほか、『流麻溝十五号』という映画からも学ぶことができるという。

最後に岡山文章副委員長兼組織部長から閉会挨拶があった。

国会が野党にとられ、政権運営が難しいが、台湾人はよく見ている。

これからいろいろなドラマが起こり、これでよいのか次第に明らかになってくる。

日本人・台湾人が力を合わせて頑張っていきたいと締めくくった。

台湾の選挙結果について各方面からの分析はあるが、日本人が疑問に思うことをここまで詳細、かつ、わかりやすく浮き彫りにした講演はあっただろうか。

コンパクトな講演であったが、「台湾独立」とは何であり、台湾人アイデンティティや言語の問題、中国への態度や台湾の位置づけといった抽象的な問題がなぜそんなに大切なのかについても、考えるための材料がふんだんに示された。

林建良委員長の2期目のスタートに相応しい会となった。

今年は動画で記録があり、後日、公開が予定されている。

(文責:多田恵)
 


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